「日本の住所は長すぎる」。
英国のスタートアップwhat3wordsのCEO、クリス・シェルドリック(Chris Sheldrick)氏はそう話す。
「だからこそ、多くの自動車会社が僕たちに興味を持っている。カーナビに住所を手入力するにしても、音声入力するにしても、日本の住所の長さを考えると手間だし効率が悪い。その非効率を改善するソリューションを提供するのが僕たちwhat3wordsだ」(シェルドリック氏)。
2013年に創業したwhat3wordsは、地球上を57兆個のマスに分割し3単語で表現する「what3words」というジオコーディングシステムを提供する。マスの大きさは3x3mとなっており、住所よりピンポイントな位置情報を伝えることが可能だ。
例えば、外苑前駅の1a出口を表す3つの単語は「かいいん・にぎやか・できる」。位置情報を住所以上に簡単かつ正確に伝えることができる。住所よりも短いため、音声入力に非常に適していると言えるだろう。
対応言語は日本語を含む26ヵ国語。そして約170ヵ国以上の、自動車、Eコマース、物流、交通、 旅行、 郵便や緊急サービスなどの分野の1000を超える企業や政府系機関、NGOなどがwhat3wordsを利用しているという。
メルセデス・ベンツがwhat3wordsを組み込んだ音声入力ナビを装備した車種を発表していたり、ドミノピザのデリバリーに活用されるなど、実用化は着々と進んでいる。
シェルドリック氏いわく、近年では特に緊急サービスへの導入が増えてきているのだという。英国では警察や消防、救急などがwhat3wordsを導入している。例えば被害者がパニックになっている状態でも3つの単語であれば住所よりもオペレーターに伝えることが簡単なほか、山道などでも正確な位置を伝えられるため、what3wordsが重宝されているとシェルドリック氏は説明する。同氏いわく、what3wordsでは日本でも緊急サービスへの導入を進めていく予定だという。
シェルドリック氏は元々、音楽業界で働いており、コンサートホールなどの施設において、音楽家たちが会場のどこが待ち合わせ場所なのか混乱することが多々あり、what3wordsを開発するに至ったそうだ。同氏は「来年の東京オリンピックでも日本では(選手や旅行者が)同じような苦難を経験することになるだろう」と話し、現在は多くの日本のトラベルガイドなどと話を進めている、と加えた。
「我々は住所や郵便番号などを一気にディスラプトしようとしている。200年前の技術のほとんどは既にディスラプトされているが、住所に関しては当時と変わりない。ロンドンには、ビクトリアロードという道路が34も存在する。2019に住所が作られたとしたら、こんなことにはならないはずだ。僕たちのシステムは現代に見事にマッチしていると言えるだろう」(シェルドリック氏)。
what3wordsは現在、ドローンによる配達にも利用されている。だが、それは既存のwhat3wordsが提供する2Dの位置情報を使用しているため、「今後、住居のベランダなどよりピンポイントに荷物を届ける世界になっていくのではないか」と聞いたところ、シェルドリック氏は「長期的には3D化も視野にある」と加えた。
2018年11月にはSony Innovation Fundからの資金調達を発表したwhat3words。累計調達額は約62億円(4350万スターリング・ポンド)。シェルドリック氏は、「日本においてもより多くのアプリでwhat3wordsが利用できるようになる。期待して待っていてほしい」と話していた。Sony Innovation Fundからの調達以降、同社が注力しているのが「音声入力と相性の良い、自動車空間分野におけるテクノロジーのさらなる開発」。今後、日本でもタクシーアプリやより多くのメーカーのナビにwhat3wordsが導入されることを期待したい。