準同型暗号を用いたプライバシー重視のデータコラボツールを開発するDuality Technologiesが約33億円調達

Duality Technologies(デュアリティ)は、パイオニア的な暗号技術者とデータサイエンティストが創業したスタートアップだ。企業が機密情報を漏えいすることなく、データを共有したり共同作業を行ったりすることを容易にするツールを開発している。同社は、初期に獲得した重要な契約を背景に、相当の金額を調達した。その中には米国防総省との契約も含まれる。

同社は準同型暗号(ホモモルフィック暗号)を利用する。これは、暗号化されたデータを復号せずに分析・利用することを可能にする比較的新しい技術だ。同社はこの技術を、プライバシーを重視した安全なコラボレーションツールを開発するために使っている。同社は今回、多数の戦略的投資家が参加したシリーズBで3000万ドル(約33億円)を調達した。LG Technology Venturesがこのラウンドをリードし、Euclidean CapitalとNational Bank of Canadaのコーポレートベンチャーキャピタル部門であるNAventuresが参加した他、Intel Capital(シリーズAをリードした)、Hearst Ventures、Team8も参加した。

Dualityはバリエーションを公表していない。これまでに約4900万ドル(約54億円)を調達した。PitchBookは、今回のシリーズBでのバリエーションを1億4500万ドル(約160億円)としているが、シリーズBのフルバリューを載せていないため、金額は異なる可能性がある。

CEOのAlon Kaufman(アロン・カウフマン)氏はインタビューで、より安全なコラボレーションツールの開発に向けた取り組みを継続していく方針だと語った。同氏は、データサイエンティストや数学者、エンジニアなどのチームと共同で同社を創業した。その中には、準同型暗号の基礎となった暗号アルゴリズムの画期的な研究でチューリング賞を受賞したShafi Goldwasser(シャフィー・ゴールドワッサー)氏、Rina Shainski(リナ・シャインスキー)氏、Vinod Vaikuntanathan(ビノッド・バイクンタナサン)氏、Kurt Rohloff(カート・ローロフ)氏などがいる。

商用化に関して言えば、準同型暗号化はまだ初期段階にある。Dualityは今回の資金を、この技術の発展・製品化のために使い、あらゆる種類の法人顧客が利用できるようにする。また、同社単独での、あるいは他のベンダーとの提携による研究開発の継続のためにも使う。ベンダーには、同社の戦略的投資家の他、Oracleなども含まれる。

「当社の製品を利用する顧客は準同型暗号の専門家ではないと考えるのが自然です」とカウフマン氏は話す。同社がこの技術を、OracleやIBMの製品など顧客が一般的に使用すると思われる他のシステムに組み込む取引を結ぼうとしているのはそのためだ。「つまり、フロードアナリスト(不正アクセスやオンライン詐欺を監視する担当者)は、マウスボタンをクリックするだけで、裏で何が行われているかを気にする必要はないということです。重い仕事はDualityが行います」。

同社の他にも、IBM、パリ拠点のZama、CIAの投資部門が投資するEnveilなど、準同型暗号の応用を研究している企業は多数ある(また、Evervaultのように、準同型暗号を使わない代替製品を作っている企業もある)。

Dualityの成長にとって重要な点として、同社はすでにいくつかの興味深い顧客を見つけている。同社は2021年初め、DARPA(米国防高等研究計画局)との1450万ドル(約16億円)の契約締結を発表した。この契約では、サードパーティと協力して、準同型暗号処理に必要なリソースをより効率的に扱える新しいハードウェアを開発する。

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Dualityは、DARPAとの契約と並行して、準同型暗号と他のデータサイエンス技術を融合させたツールを開発し、Duality SecurePlusという名で販売している。これは、準同型暗号を最も機密性の高いデータに適用し、他のツールは別の場所で使用するという考え方だ。Dualityの顧客には、金融サービス、ヘルスケア、政府機関などが含まれている。

Dualityの技術は、ビッグデータの世界における根本的なパラドックスを解決する。

良い側面は、データコラボレーションが企業にとって大きな可能性を秘めていることだ。複数のソースから可能な限り幅広くデータを集めれば、画期的な医学的洞察、人工知能モデルのトレーニング、不正行為やセキュリティ問題の追跡、消費者行動のより良い理解など、さまざまな面で企業を支援することができる。場合によっては、物事を進める上で欠かせない要素であり、ビジネス上、選択するものではなく、必要不可欠なものとなる。

だが、良い物事には必ず悪い側面がある。企業は、意図しないあるいは悪意のあるデータ流出のリスクを負う。企業の権利が関わる状況では、競合する可能性のある他社とデータを共有することで得られるものには興味があるかもしれないが、自社の知的財産や貴重な顧客情報を他社と共有することには抵抗があるかもしれない。

昨今、データ漏えいやその他のサイバーセキュリティ問題が頻繁に発生する一方で、データ保護規制や消費者の期待は厳しくなっており、データの使用方法を管理する優れたツールの必要性が高まっている。

これが、Dualityが多くの戦略的投資家の注目を集めている理由の1つだ。

LGはこの点で興味深い投資家だ。Dualityの本社はニュージャージー州だが、そのルーツはイスラエルにある。LGはイスラエルでサイバーセキュリティや自動車などの特定の市場での応用を強化しており、その活動はますます活発になっている。LGは最近、イスラエルでの初の買収として、コネクテッドカーのサイバーセキュリティを専門とするCybellumを買収した

「データが主導する世界でプライバシーに関する課題が山積するなか、Dualityは急速に発展するプライバシー技術の分野でマーケットリーダーとしての地位を確立しました」とLG Technology VenturesのマネージングディレクターであるTaejoon Park(テジュン・パク)氏は語る。「プライバシー保護のためのAIや機械学習分析など、協調的で安全なコンピューティング技術への需要は急増しています。企業が複雑化するプライバシー規制に適切に対応しながら、データという宝箱の鍵を開けようとしている状況で、今後もその傾向は続くでしょう。Dualityは、この急激な変化の時期に、多くの業界におけるプライバシー強化コンピューティングの応用をリードする理想的な立場にあります。同社の極めて革新的なソリューションがさらに多くの分野に拡大していくことを期待しています」と述べた。

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画像クレジット:Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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