理容室業界にバックエンドマネジメントツールを提供するSquire、予約から決済までを一元管理

新型コロナウイルスのパンデミックに強いビジネスという点において、理容店向けのサービスを提供するスタートアップは最初に思い浮かばないだろう。米国中で多くの理容店が一時閉鎖を余儀なくされる前に、何百万ドルも資金調達していれば話は別だが。

Dave Salvant(デイブ・サルヴァント)氏とSonge LaRon(ソンジ・ラロン)氏が共同で2016年に創業したニューヨーク拠点のSquire(スクワイア)はバックエンドの理容店マネジメントツールを独立事業者向けに提供している。同社は3月初めにCRVがリードしたシリーズBで3400万ドル(約36億円)を調達した(PR Newswire記事)。ちなみに、2018年にはTrinity VenturesがリードするシリーズAラウンドで800万ドル=約8億6000万円を調達している(未訳記事)。その数日後、「まったくのゼロになった」とラロン氏は顧客ベースについて回顧する。すべての理容店が営業を一時停止したのだ。

調達した資金は、成長機会をうかがうためのものから、運転資金へと変わった。Squireは定期利用料金をすべて免除し、www.helpbarbershops.comという情報サイトを立ち上げた。そして消費者がお気に入りの理容店のためにオンラインギフトカードを購入して支援できる手段の提供を始めた。ある理容店はわずか数日で3万ドル(約320万円)超を販売した。

厳しかった数カ月を経て、Squireはいま営業再開を準備している理容店のかなりの需要を享受している。Squireはキャッシュレス支払いや予約管理を提供していて、いまバーチャル待合室も実験している。これらの機能は全てコロナ後の理容店が導入を検討しているものだ。Squireは現在45都市でサービスを提供している。

Zoomでバーチャルヘアカットが行われたり、 VCが散髪ワークショップをホストしたりと外出が禁止されている間、一部の人は自分での散髪を余儀なくされた。しかしDIYセッションは理容店での体験に取って代わるものではない。Barbershops(バーバーショップ)は黒人、アフリカ系米国人のコミュニティがおしゃべりをしたり、文句を言ったりするために集う場所を長らく提供してきた。

ここ数年は、同社のカルチャーは会話がメインのものとなった。現在ではLeBron James(レブロン・ジェームズ)氏がプロデュースするトークショーシリーズもあり、この番組では散髪をしてもらう間にゲストがおしゃべりする。アトランタでは、同市のトップの政治家たちが非公式に集う場所となっている奇妙なAtlanta barbershopがある。

「理容サービスはあらゆる職業や人種、民族の男性が共鳴するもので、しかも本当にユニバーサルな体験であることがわかった。だからテック企業にとってチャンスだととらえた」とラロン氏は話した。

サルヴァント氏とラロン氏は理容店をビジネスの場所としてとらえる以前に終始快適に過ごす場所と考えていた。「理容師というのは男性にとってパートタイム・セラピストだ」とラロン氏はTechCrunchとのインタビューで語った。

友達同士で、当時居住していたハーレムからコロンビア大学に通っていたサルヴァント氏とラロン氏は、理容店が文化と関連しながら成長している一方で、理容店業界のテクノロジーの多くがそのまま手付かずになっているのに気づいた。彼ら自身も髪を切ってもらうときに毎回、長い待ち時間、現金でのみの支払い、予約の悩みがあった。

Squireでは理容店が予約を管理したり、ポイントプログラムを提供したり、コンタクトレス・キャッシュレス支払いを導入したりできる。「理容店のオペレーションは、決済処理を行う業者が複数あること、加えて顧客が1つのサービスの中で異なる理容師の異なるサービスをチェックするかもしれないことから、他の種の小規模事業よりも複雑だ」と2人は主張する。そこでSquireの出番だ。ややこしい処理を管理するPOS(販売時点情報管理)としての役割を担う。

画像クレジット: Squire

「男性と理容師の関係に取って代わろうとは思っていない。理容に付随する面倒ごとを引き受けたいだけだ」とサルヴァント氏は話した。Squireは、理髪店の規模やニーズに応じて月30〜250ドル(約3200〜2万7000円)課金することで売上を得ている。

Squireの成長を脅かすのは、Squareのような中小の決済インフラ企業だ。創業者2人は、Squireがもっぱら理容店に特化したベンチャーの支援を受けた唯一の事業者であり、理容店にとってSquireがベストなソリューションだと自信を持っている。ロサンゼルス拠点のBoulevard(ブールヴァード)は、展開するサロンとスパの管理ソフトウェアのために11月に資金を調達した。

しかしSquireは、サロンテクノロージーが邪魔にならないほどに理容店のサブカルチャーはニッチだと考えている。そして理容師は自分たちと同じくらい情熱的な事業者と提携したがっている。

「彼らは理容師であることを仕事だと思っていない。天職だととらえている」とラロン氏は話した。

基準は、Squire初期にラロン氏とサルヴァント氏が理容店の椅子に座って多くの質問を投げかけていた体験に基づいている。実際、サルヴァント氏は600店近くの理容店で髪を切ってもらったと話す。

Squireの共同創業者であるソンジ・ラロン氏とデイブ・サルヴァント氏(画像クレジット:Squire)

「理容師があなたを信用し、あなたもまた理容師を信頼するというのは、あなたが椅子に座って髪を切ってもうらうときに起こる」とサルヴァント氏は話した。全般的に理容師からのフィードバックは、Squireのオリジナルプロダクトが顧客や個人の理容師をターゲットとしていたのとは対照的に、店全体のソリューションを必要としているというものだった。このフィードバックにより、Squareなどが提供する幅広い業種向けのソリューションではなくニッチなソリューションを追求することになった。

シリーズBラウンドに参加したCharles River Ventures(CRV)の投資家Reid Christian(リード・クリスチアン)氏は「ニューヨーク州バッファローの理容店Rust Belt BarberingでSquireのプロダクトを体験したときにSquireが成功することを確信した」と話した。同氏はSquireを決済機能のある「Venmoのような体験」となぞらえた。同氏はまた、男性が理容に費やす金は何十億ドルにもなると推定する。

理容店が全国的に営業を再開するとSquireも上向く。しかも多くの人が受け入れるであろう絶好のタイミングだ。創業者2人は、Squireにいずれ関心が向けられることはずっと昔に確信していた。

昨年2人はConnecticut Barber Expoに出席した。1万5000人超が業界のことについて知るために米国北東部にあるコネチカット州に集っているのを前にして納得した。

「ほとんどの人がこのエキスポについて知らないし、実際に目にするまでは信じないだろう」とサルヴァント氏は話した。「エキスポはそれがいかにパワフルなものかを思い起こさせるものだ」。

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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