どの社員が何のスキルや資格を持っているのか?何万人の社員を抱える会社にとってその管理は骨の折れる仕事だ。特に製造業では、重要なスキルを持っているベテラン層が引退して、プロダクトの品質に影響があっては大問題だ。イノービアの提供する「SKILL NOTE」は社員の持つスキルや資格を見える化し、そういった問題を解決する。本日イノービアはインキュベイトファンドから7000万円の第三者割当増資と日本政策金融公庫から4000万円をデットファイナンスで総額1億1000万円を調達したと発表した。
SKILL NOTEは主に製造業、工事業、IT業の企業が社員の保有資格やスキルを管理するためのクラウド型システムだ。SKILL NOTEにはスキルや資格の管理機能と各社員のキャリアプランのための機能、そして教育研修の募集や申し込み、参加履歴などを管理する機能などを備えている。SKILL NOTEの特徴は全社員の実務スキルと保有資格のデータを蓄積し、そのデータを可視化する点だ。例えば「スキルマップ」では、横軸に社員、縦軸にスキル項目が並び、誰がどのスキルを習得したかを一覧で確認することができる。習得済みや習得予定、レベルなど、全体の習得状況が一目で分かる。
規模の大きい製造業の会社では全社で5万から10万種類のスキルを設定しているとイノービアのファウンダーで代表取締役の山川隆史氏は説明する。社員が1万人を抱える企業だとその情報量は膨大な量となるが、未だに各部署の担当者は社員のスキルを紙やエクセルで管理しているところもあると話す。エクセルの管理だと上書きした場合に過去の履歴が参照できなかったり、人材が異動した場合に対応できなかったりすると山川氏は指摘する。SKILL NOTEではそういった情報を一元的に管理することが可能となる。
ただ、「SKILL NOTEは紙やエクセルを置き換える以上の価値を提供することができると考えています」と山川氏は話す。SKILL NOTEに社員のスキル情報が蓄積するほど、現時点のみならず、将来のスキルの習得状況も予測できるようになる。例えば「年齢別スキル分布」のデータからは、各年代ごとのスキルの習得状況が分かる。ベテラン層に重要スキルが集中している場合、彼らが引退した時にその仕事を引き継げる人がいないという状況になりかねない。データを随時確認することで、事業を運営していく上で必要なスキルを保持するための統合的な人材育成を図ることができるようになる。
スキルの可視化で、キャリアプランの制定もしやすくなると山川氏は言う。SKILL NOTEの「ステップアップシート」では、会社が職種ごとに若手や中堅に求めるスキルや資格を明示することができる。これまでも会社側は社員のキャリアプランを考えてはいたが、それを社員に明示することは少なかったと山川氏は話す。会社は様々な教育研修を用意し、社員のスキルアップを促してきたが、社員の方としては全体のキャリアプランが見えないために、なぜこの研修を受ける必要があるのか理解できないこともあるという。そこを明示することで、社員は自分のキャリアプランを見て、ステップアップとして次にこういったスキルが必要だから研修に参加しようと計画を立てることが可能になる。研修を受けるモチベーションにもつながると山川氏は言う。
山川氏は信越化学工業で市場開拓や次世代技術開発などに従事した後、2006年3月に製造業の人材育成を支援する会社を創業した。その会社では製造業向けの教育研修を担っていたが、次第に単発の研修だけでなく、技術者の能力を見える化して戦略的な教育研修ができるソリューションを提供できないかと考えるようになったと山川氏は話す。そのためのシステムを少しづつ構築し始め、このサービスの展開のため2016年1月にイノービアを設立した。2016年6月からサービスを「SKILL NOTE」にリブランディングしている。
社員数によって価格は変動するが、SKILL NOTEは社員100名なら料金は月額2万円からだそうだ。すでにリコーインダストリー、JFEスチール、ヤマサ醤油など大手企業を含む50社以上に導入が進んでいるという。小規模なスタートアップにも関わらず、大手製造業からの引き合いが多いのはスキル管理に特化したサービスが他に少ないこと、大手企業が抱える課題にうまく刺さっていることが理由のようであると山川氏は説明する。問い合わせの多くは各企業の人事やITソリューション部ではなく、社員のスキル管理に日々頭を悩ませている現場に近い技術部門からなのだと言う。
今回の資金調達では営業とマーケティング力の強化、そして導入企業のフィードバックを元にサービスの拡充を進めていくという。総勢20名程度スタートアップだが、次の2、3年でSKILL NOTEを国内の製造メーカーへの普及を進め、5年後には海外でも使用されるサービスになることを目指すと話している。