ほぼ3年前、提携の契約を交わした米国のスーパーチェーンKroger(クローガー)と英国のオンライン食料雑貨販売店Ocado(オカド)は米国時間4月15日、この契約による最初の主力製品を公開した。Krogerは、Ocadoの技術を使った顧客向けフルフィルメントセンターを、オハイオ州シンシナティの郊外、モンローに開設した。約3万5000平方メートルにおよぶその巨大な倉庫では、Krogerのオンライン店舗で受けた注文に応じて、何千種類もの商品を梱包して消費者に配達する。
Ocadoは自社の倉庫のことを「Shed」(シェッド、納屋)と呼んでいるが、ここでも他のシェッドと同様に、床には巨大なグリッドが描かれ、その上で1000台ほどのロボットと400人の従業員が、商品の棚出し、分類、移動を行うことになる。年間、実店舗20件に相当する7億ドル(約760億円)の売り上げにつながる処理が見込まれている。
注文を受けた商品は、Ocadoのバンをモデルに米国で製造されたKroger Delivery(クローガー・デリバリー)バンで配達される。これは温度管理が可能で、一度に20件分の荷物を積むことができる。この車両はまた、マッピング・アルゴリズムで最も早く、最も燃料を節約できるルートを割り出し、配達を最適化するOcadoのソフトウェアによって制御される。
KrogerとOcadoの提携関係は長い時間をかけて築かれてきたが、そこから生み出されるもへの関心は、2020年のオンラインショッピングの激増を受けて、今、最も熱くなっているに違いない。新型コロナウイルスのパンデミックと、社会的距離の確保を強要される事態から、実際の店舗へ出かけるより、食料品も生活必需品も丸ごとオンラインで注文したいと考える大勢の人々が、インターネットへ駆け込んだ。
その傾向は、この分野での競争も激化させた。Amazon(アマゾン)、Walmart(ウォルマート)をはじめ、昔ながらの食料雑貨販売業者もデジタル戦略を着々と進め、オンライン業界のプレイヤーたちは、今やオンラインでの買い物を受け入れるようになった消費者の市場をわずかでも確保しようと奮闘している。
この潮流はKrogerの船も浮き上がらせた。本日開催された記者発表会で、Krogerの会長兼CEOのRodney McMullen(ロドニー・マクマレン)氏は、Krogerの配達事業は、2020年150パーセントの成長を見せたと話した。
新型コロナが終息すれば(そう願いたい)、実店舗でのショッピングに戻る人もいるだろうが、業界では、壷から魔人が現れたと信じる向きは多い。オンラインショッピングに接した人の多くは、少なくとも一部はそのまま残るため、その新しい需要に応えるための新たなインフラを構築する時期に来たというのだ。
これを裏づけるデータはいくつもある。OcadoのCEOで共同創設者のTim Steiner(ティム・スタイナー)氏は、パンデミック以前のOcadoでの平均注文金額は105ポンド(約1万6000円)だったが、2020年は180ポンド(約2万7000円)となり、現在は120ポンド(約1万8000円)だと述べている。
多くの実店舗プレイヤーと同じく、Krogerもデジタル戦略における前線を複数築いている。同社はOcadoと協力して、たとえばShelf Engine(シェルフ・エンジン)などの企業と提携するなどして、倉庫内の業務の効率化を高める技術に投資してきた。さらに、Instacart(インスタカート)と食料雑貨の配達で手を結んだ。
KrogerとInstacartとの提携はまだ続いている。特に、Ocadoのアプローチよりもずっと広いエリアをカバーしているからだ。Ocadoは現在シンシナティで活動しており、フロリダに進出するという話も聞く。Krogerは本日、消費者向けフルフィルメントセンター(CFC)の規模はそれぞれ異なり「モジュール」という考え方に基づいて建設されると話していたが(ちなみにモンローの倉庫は7モジュールで構成されている)、これは、Instacartのモデルと比較するとまだ資本集約的なアプローチであるため、全体的に展開が遅く、おそらくその有効性が発揮されるのはKrogerの密度の高い市場に限られる。
「この2つの提携は、Krogerと私たちのお客様にとって極めて重要なものです」とKrogerのCIOであるYael Cosset(ヤエル・コセット)氏は本日の記者発表で語っていた。「私たちは、InstacartとOcadoとの戦略的パートナーシップで密接に協力できることを期待しています」。
Ocadoは、英国で2000年にスタートした初期のプレイヤーであり、多くの人たちからは、オンライン専用の食料雑貨販売ビジネスの構築と運用の業界標準と見られている。
だがOcadoは、食料雑貨直販ビジネスを英国外で展開して成長を目指すことはせず、むしろ自社のために開発したテクノロジーを活かし、それを商品化することでリーチを伸ばしてきた。商品化については、今も進行中だ。現在は、棚出しのロボット化やその他の自動化システム、さらには配達サービスの高効率化のためのテクノロジーの開発を進めている。
自社用に開発したテクノロジーを商品化して他社に販売するというOcadoの「AWS」戦略は実を結んだ。今では、オンライン食料雑貨販売サービスと、特にフルフィルメントセンター(日本ではイオン、フランスではCasino、カナダではSobeysと提携)でのパートナーシップが実現している。これは、Krogerの展開モデルが実証されたことを意味する。しかし、同社にとって米国進出は極めて重要な一手であり、同時に、WalmartやAmazonといった同国の巨大プレイヤーたちと戦うにはどうしても欠かせないインフラの一部をKrogerにもたらすものとなる。
そこに関しては、Ocadoの支援による巨大なインフラを、Krogerは他のプロジェクトにも応用するのか、するとしたらどんなかたちになるのかには大変に興味が湧く。同社は、Mirakl(ミラクル)と共同で、サードパーティーの小売り業者のための独自のマーケットプレイスを開発中だ。これは同様のサービスを展開している企業、そう、AmazonとWalmartとの真っ向勝負となる。
カテゴリー:ロボティクス
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画像クレジット:Kroger
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(文:Ingrid Lunden、翻訳:金井哲夫)