米国スタートアップ界で話題の次世代SNS「Clubhouse」になぜ100億円以上も時価総額がつくのか?

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するポッドキャスト「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、次世代SNSの話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

2020年4月にバズり初めて、米国時間5月15日に異例となる1億ドル(約1098億円)時価総額の調達を発表した次世代SNS候補のClubhouse。前回のnote記事では現在人気なSNSのトレンドや軽くClubhouseなど次世代SNSを紹介しましたが、今回はClubhouseだけについて記事を書かせていただきまし

一部重複する部分はあるかもしれませんが、Clubhouseのサービス概要、利用シーン、実績、資金調達状況、Clubhouseに出ている批判の声、そしてどのポイントが最も魅力的かを説明します。

Clubhouseとは?

Clubhouseは音声版Twitterと言われている音声SNS。さまざま人の「部屋」に入り、話を聞いたり、手を挙げて参加することが可能だ。部屋に入っていれば友達を呼べるが、その友達が承認しないと実際には入ってこない。オフラインのClubhouseっぽい感覚に近いサービスになっている。

テーマは参加している登壇者が決めるので、かなり自由なユースケースが生まれるのと、今現在はテック業界などの著名人が集まっている。例えば、D2CエキスパートのWeb Smith(ウェブ・スミス)氏がShopifyの話をしていたときに、ShopifyのCEOが自ら参加していた。

グループ(部屋)フォーマットになっているので、WhatsAppのマイクロコミュニティに似ている。WhatsAppマイクロコミュニティでは特定の会話で人を招待したりしている。何かのトピックでグループを作ったりするのは、日本ではTwitterでやっているイメージだ。

ただ、この目的を明確とせず、コミュニティドリブンな感じが面白さである。

過去の音声SNSとの違いは?

こちら前回のnoteでも記載したが、TTYL含め過去にさまざなな音声SNSが登場してきた。Clubhouseの一番よかった部分は同期されたSNSを作ったのと、パブリックな音声プラットフォームを作ったこと。TTYLだと50人の友達を誘うのが面倒だし、逆に友達が数名入らないと使えないが、Clubhouseは好きな著名人が使っていればすぐに試してみたくなる。

同期化のトレンド

ほとんどのSNSは、いままでは非同期で会話を行っていた。Clubhouseが従来のSNSと違うのは、ここ数年のトレンドである同期アプリであるHQ TriviaやTTYLなどの分類に入る。Twitterを同期化したもの、もしくはAIMなどチャットルームの音声版といえば一番わかりやすいかもしれない。

現状はAirPodsを常に付けたまま生活を送る人が多くなっている。AirPodから生まれるプラットフォームがあるのは間違いない。去年それについてツイートしましたので、詳しく知りたい読者は以下スレッドを参照してほしい。

何人かの子供たちは親のAirPodを「4人目の子供」と呼んでいる。それだけ付けたままの状況になっている。音声だと見た目のことを気にしなくていいのと、流し聞きが出来る。実際にClubhouseは仕事の合間や空き時間に使う人もいるが、同時に料理中、仕事中、シャワー中、トイレ中までも使っている。初のパッシブに参加できるSNS。ほとんどのユーザーはミュートで聞いているだけとなる。

同期された音声サービスの一番いいところはコミュニティ感を味わえて、コンテンツ量が多いのに期待値が低いこと(メイクしたり部屋をきれいにしなくて良い)。しかも同期と言うことはその瞬間に参加していないと二度とその会話を聞けないかもしれない。これは永久にFOMO(Fear Of Missing Out、取り残されることへの恐れ)の感情をユーザーに持たせることができて、その影響でアプリに戻ってくる。

実績

Forbesによると現在約5000人のユーザーがいる。いろんな人に聞くとだいたい2000〜5000のレンジの数字を聞く。他のSNSプラットフォームが$100Mの時価総額のタイミングと比較すると、

引用:Forbes、Techcrunch、Vator、Mashable、Techcrunch、Techcrunch、Crunchbase

Instagramは少し異例だが、そのほかの1億ドルぐらいの時価総額を比べると、Clubhouseのユーザー数は圧倒的に低い。

ウェイトリストでのFOMO作り

Clubhouseは、現在テストフライトのURLを受け取り、それに記入。すると、Clubhouseチームからウェイトリストから選ばれたらアプリへのリンクが送られてくる。私も数週間前にウェイトリストの登録フォームを記入したが、いまだに声がかからず。早く使ってフィードバックしたいところだ。

他のSNSプラットフォームの初期リアクションとの比較

ClubhouseはかなりVCドリブンなSNSアプリである。過去のTwitterがSXSWでバズったように、コロナの影響もあってClubhouseはバズっている。

TwitterやSecretなどはVCは初期から使っていたが、逆にSnapchatはあまり使っていなかった。多くのVCは自分たちの子供に聞いてSnapchatの使い方のレッスンを受けていた。それと比べるとClubhouseはSnapchatよりは非常に使いやすい。

そしてClubhouseはここ数年どのC向けに投資しているVCが考えていた分野である。誰も音声が来るとは認識していたのと、次のSNSを探していた。何故このタイミングで次世代SNSを探していたかについては、以下の関連をチェックしてほしい。

関連記事
【Twitter、Snapchat編】米国SNSの最新事情とZ世代が新しい場所を求める理由(その1)
【Instagram、TikTok編】米国SNSの最新事情とZ世代が新しい場所を求める理由(その2)
【次世代SNS編】米国SNSの最新事情とZ世代が新しい場所を求める理由(その3)

資金調達

過去ラウンド
初回は2020年2月に資金調達したらしい。The Informationによると、そのときは100万ドル(1億800万円)ほどを、Houseparty創業者であるBen Rubin(ベン・ルービン)氏、SuperhumanのCEO であるRahul Vohra(ラフル・ボーラ)氏、AngelListの共同創業者であるNaval Ravikant(ナバル・ラビカント)氏、Color Genomicsの共同創業者であるElad Gil(エラッド・ギル)氏などから出資を受けたらしい。

今回ラウンド
報道されている情報だと以下今回のディールサマリーとなる。

  • 合計1200万ドル(約12億8500万円)調達、時価総額は1億ドル
  • リード投資家はAndreessen Horowitz
  • 1200万ドル調達の中、1000万ドルは第三者割当増資、200万ドルは創業者からの譲渡
  • a16zパートナーのAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏が社外取締役としてClubhouseにジョイン

著名VCであるAndreessen HorowitzがBenchmark Capital と戦い、リード投資家の座を得られた。フォーブスの記事によると、セレブをアプリに参加するようにお願いしたり、価格交渉で高値を出したとのこと。

まだベータ版の音声SNSアプリClubhouseが1200万ドルを調達し、時価総額が1億ドルと、米国VC業界では大きな話題になっている一方で、批判の声も上がっている。

批判の声について

調達に関しての批判
今回の調達に関して極端に「良い投資だ」と「悪い投資だ」と分かれている。その中でも「悪い投資」と指摘している側は、Clubhouseの実績と時価総額が合わないことを指摘している。

特にClubhouseの場合だとリリースすらしてないので、ベータ版でこれだけの調達した会社は異例だ。

上記ツイートのスレッドに記載のとおり、C向けサービスでベータ版かつローンチ前でこれだけ調達できた会社だと、Color、Magic Leap、Quibiなどとなる。特に直近のQuibiがランキングがようやくトップ100入りをもう一度したところを考えると、あまりいい事例はない。

そしてセカンダリーで創業者が各自100万ドル(約1億800万円)ずつほど株を売ったことについても批判が出ている。

実はこのセカンダリーディールは、大失敗したC向けアプリのSecretも同じことをやっている。Secret創業メンバーの2人はシリーズB調達の際に、セカンダリーで300万ドル(約3億2400万円)ずつ株を売った。

Secret以外にはRobinhoodがシリーズAで同じことを、BufferやSnapchatも過去にやったことがある。ただ、マネタイズする前、特にローンチ前にやるのは異例な出来事。

さらに見た目的にこのセカンダリーを実行したa16zが、創業者にフィーをセカンダリー株で払ったっぽく見えてしまう。正直そこまで悪さは感じないものの、こう言う指摘は入ることはわかる。

女性が少ないという批判
テック業界と同じく、Clubhouseの初期は女性率が低い。その声は多々出ている。

実際に女性だけで集まるClubhouseの回も出てきているが、今後もこの課題は続くと思う。そしてこれからは女性だけではなく、白人しかいないなど、ダイバーシティー面では長いごと言われるだろう。

コロナだから上手く行っているという批判
1つ上がっている批判・懸念点は、新型コロナウイルスが蔓延しているいまだからClubhouseが伸びていて、コロナ後は人気度が下がること。確かにコロナの中、Zoom疲れをしている中でClubhouseで新しいインタラクションができることによって、より使われているとは思う。

コロナ後は実際どうなるかはわからない。ただ、米国では何となく見えるのがコロナの影響でソーシャル・ディスタンスは当分の間続くこと。もちろん外に出られる世界が戻ると常にインタラクティブな同期音声アプリを使わない。それでも今までのClubhouseユーザーの行動を見ると、いいコンテンツを探しやすく、配信し続けられたらエンゲージメントレベルはそこまで下がらないと予想している。仕事中にライブ配信しているポッドキャストやラジオを聞いていると同じ感覚になる。

Clubhouseの一番の評価ポイントはエンゲージメント

注目されるアプリのほとんどは成長スピードが主な原因。Snapchat、Facebook、Musica.ly、Twitterも全てそうだった。Clubhouseはそうではない。だからこそ批判を浴びているのかもしれない。Clubhouseが注目されているのはユーザー成長率ではなく、エンゲージメントが異常に高いから。入っているユーザー層、どれだけ長くいるか、そしてどう言う会話をしているかが面白い。1日に何十回も開けさせるアプリはなかなかない。

アーリーステージで投資判断をするには「バカらしいけどなぜか熱狂的なユーザーが使っている」になっていることが大事。この成長が続くか?何百万人もこんなことするか?と疑問点を抱く人が増える。実際にClubhouseはそう感じる。

初期Facebookはそうだった。ただ、エンゲージメントの数字を見ると、これは何かがワークしていることが分かる。

それではClubhouseユーザーのエンゲージメントを見てみよう。1週間で最も使わ底るのがClubhouseになっている(驚異的な15時間も使っている)。

Product Hunt創業者のRyan Hoover(ライアン・フーバー)氏も同じくClubhouseがトップ。

最も凄かったのはこの方。ほぼ37時間使っている。

なんとなく見ると、TwitterやHousepartyなどのリプレイスになっている。以下は、あるシード投資家のClubhouse利用前後のアプリ利用時間のスクショだ。

人によっては、睡眠時間を減らしてまで使ってた。

しかしこれを見ると、人によっては1日平均4時間も使っている人がいる。これはPMFを証明している、エンゲージメントが異常に高いことを表しているのに間違えない。

アプリを使った人からのフィードバック
いろんなVCやコメントを見て、何となくClubhouseユーザーの意見をまとめてみた。多くの人はZoomのミーティングの間でチェックして、面白そうな会話が見つかればバックグラウンドで流し聞きするパターンが多い。そしてよく聞くのが23〜24時頃、寝る前にClubhouseを開けると面白い会話がありすぎて結局2〜3時間聞いてしまう。しかもその会話のクオリティが高いので不満は感じず、満足している様子。

そして以前話した同期だから生まれるFOMOは本当にみんな感じている。多くの人は1日10〜20回ぐらいアプリを開いていて、何が起きているかを見に行っている。これはFacebookとかでは起きない現象。利用目的が「学び」と「面白い話を聞けないことの恐れ」らしい。

バカらしい?何でもスタートはそう見える

Clubhouseが「バカらしい」や「意味わからん」と言う人は多い。これは正しい発言だと思う。でも投資判断としては間違いではない。パラダイムシフトや行動変化を及ぼすよなアイデアの多くはバカらしいと思われてきた。Facebookは初期にMySpaceがいるなかで始めるのは意味ないと言われ、Uberはタクシーがいると投資家から断られて、Airbnbも知らない人を家に泊めると言うコンセプトをほとんどの人は理解しなかった。

もちろん逆もあると思う。バカらしく聞こえたアイデアがそのままダメになるケースがほとんど。でも投資家としてはそう言うところでリスク取らないと意味がない。ホームランを打ちにいくビジネスとしては、誰も考えてないけど面白いアイデア、本当に世界を変えるかもしれないアイデアを支援するのがベンチャーキャピタリストだ。

Clubhouseは果たしてうまく行くのかはわからない。今の実績や状況を見ると1億ドルの評価額は高い。でも可能性ベースを見ると、将来のTwitterになると考えると1億ドルだとかなり儲かるチャンス。Clubhouseが今のエンゲージメントの数字を保ちながらスケールできれば、Twitterレベルの時価総額に行ってもおかしくないと思う。

もちろん実績・トラクションは違ったが、Facebookも1億ドルの時価総額の時に高いと発言した人が多かった。

引用:Techcrunch

正直こう言うアプリが出てくると批判が多いのは当たり前なこと。特にこんな高いバリュエーションを出すと、過去に失敗したSecretなどを思い出す。そして恐らく9割ぐらいの場合は批判する声が正しい。それだけスタートアップ、特にこれだけ違う世界観を持っているアプリが成功するのが難しいから。でも残りの1割は批判組が見誤って、その場合は100倍以上間違ってることになる。

Facebookが成功して、MySpace、Spoke、Tribe、Ning、Friendsterなどが失敗したのと同じ。失敗すると言い続けることは簡単だが、そうすると大成功はしない。

Clubhouseの今後、どのようにスケールしていくか

現状部屋の名前や概要文を入れられないので、参加している人の名前をベースに何を話しているかを予想するしかない。現在はテック業界の人しか入ってないのでまだ大丈夫だが、今後スケールするにあたり厳しくなる。

スケールする際には部屋の名前と概要文、そしてプロフィール作成などが重要になってくる。その人に合いそうな部屋を探しやすくする必要があるので、検索機能も充実させないといけない。最初にどの部屋に入ってもらうかなど、オンボーディングフローをしっかりしないといけない。

今は小さいコミュニティなので親密なアプリと感じるが、スケールするとその親密度をキープできるかが今後のスケールする際の課題となる。そしてClubhouseでは、どのようなユースケースで、どのように改善がされるか?Instagramはフィルターを使って写真の加工。Musica.lyも動画の加工。Snapchatや顔のフィルター。SNSは人がより自分の自己表現をしやすくするためにある。Clubhouseだとまだそこまで明確なものがないのは、今後の課題となるかもしれない。今だと「本当に面白い会話を聞ける」となっている。

そして今後の大きな課題は著名人をアプリに引き寄せられるか。TwitterやInstagramも結局これで大きくユーザーを増やしたし、トップSNSとして認識されたのもインフルエンサーのおかげ。Clubhouseだと、スポーツ選手、ハリウッド・YouTubeスター、音楽アーティスト、政治家、経営者などを招いてClubhouseで良いコンテンツを作ってもらって、それが彼らにとってどう言うベネフィットを与えるかがまだ見えない。ここを解決しないと次世代SNSにはなれない。

結論

僕個人として、FacebookがWhatsAppを買収したときや、Snapchatに買収オファーをしたときは正直批判した。払った値段が意味わからないと言った。でも徐々にその考えも変わり、さまざまユーザーの行動やサービスの可能性を見るようになった。そしてMusica.ly(現TikTok)が成長していた時は、(特に投資はできなかったが)運よくそれを見極められた。当時作ったデックで、11ページ目にMusica.lyについて記載している(デックは2016年10月にアップしたが、実際にMusica.lyに注目し始めたのは2015年の半ばぐらい)。

Clubhouseを見ているとこれだけのエンゲージメントレベルを過去見たことないぐらいすごいと感じル。個人としてはClubhouseの成功を見届けたいし、例え失敗してもこの分野(音声SNS)は絶対来ると思っている。a16zとしては1000万ドルでもしかしたら次のTwitterの10%を取得できた。合計120億円のAUMを考えると、1000万ドルのリスクを取るのは当たり前のこと。

P.S.

直近のClubhouse上では鳥のアカウントがバズっている。

この鳥は金曜にClubhouseに入ってくるらしい。Clubhouseに入ったらまずはこの鳥をフォローしなければw

ClubhouseではなくBirdHouseも徐々に人気になっている。

 

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。