ショートムービープラットフォームのTikTokに関するニュースの洪水は止む気配がない。
まず、100日前にTikTokにやってきたばかりの元ディズニー幹部のKevin Mayer(ケビン・メイヤー)氏がCEOを辞任したというニュースが飛び込んできた。
すでに売却をめぐるニュースは数多く報道されているがさらに米小売大手のWalmart(ウォルマート)もTikTok買収に参戦したことが判明した。 同社は複数のメディアの取材に対してMicrosoft(マイクロソフト)とチームを組んで買収を目指している(CNBC記事)ことを明らかにした。一方エンターテインメント関係ニュースのサイトでるThe Wrapは、Oracle(オラクル)がTikTok買収に200億ドル(約2兆1300億円)前後を提示したと報じている。
トランプ政権がTikTokを米国の安全保障に対する脅威として売却を命じて以後、同社はメディアの注目を一身に集めることになった。米国時間8月6日、トランプ大統領はTikTokの親会社である北京のByteDanceに対し「米国におけるTikTok事業の閉鎖を免れるためには45日以内に同社を売却する必要がある」とする大統領行政命令に署名した。この期限は後に11月中旬にまで延長された(The Verge記事)。
この命令はテクノロジー分野以外でも米中関係の緊張が大きく高まっている中で発せられた。対中国関係を悪化させた要因は、中国が治安維持を理由として香港に国家安全法を適用したこと ウイグルにおける数百万のムスリム住民の強制収容(New York Times記事)、関税、軍拡、南シナ海における領有権主張(ABC News記事)、さらには新型コロナウイルスの感染蔓延が中国発であることを否定したことなど数多い。
テクノロジー企業はこの2つのスーパーパワーの対立に巻き込まれた。TikTok問題の前にも米国政府は中国のファーウェイに対する制限を一段と強めていた(ロイター記事)。
大統領行政命令に対しTikTokは「命令には根拠がない」として裁判所に差し止めを申し立てるなど全力で反撃を始めている。一方米国のテクノロジー企業数社が買収に関してTiktokと話し合っていると報じられた。これにはマイクロソフトを筆頭に(未訳記事)、Twitter(Wall Street Journal記事)、Google(Wall Street Journal記事)、オラクル(未訳記事)が続いた。そして最新の参戦がウォルマート(CNBC記事)というわけだ。オラクルは8月27日午前中に「買収にあたって現金10億ドル(1060億円)とオラクル株式10億ドルぶんを用意し、買収後は同社の利益の半額を親会社のByteDanceに送金するという条件でホワイトハウスの了解を得られる見込みだ」(The Wrap記事)と報じられた。
TikTokアプリが米国の安全保障にとってどれほどの脅威になっているのか実際のところはまだ不明だ。行政命令はこの中国製のアプリが「合衆国の国家安全保障、外交政策及び経済活動に対する脅威」となっていると述べている。その根拠としてアプリが位置情報、インターネット閲覧履歴、検索履歴を含む米国市民の個人情報を収集していることを挙げている。批判者はTikTokは中国共産党による米民の個人情報の収集だけでなく、プロパガンダと検閲のツールとしても役立っていると指摘する。
TikTokアプリは最近米国で急成長を遂げ、ショートムービーの分野で驚くべきシェアを集めている。これは、例えば7月の下院司法委員会の反トラスト法公聴会でCEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が「Facebook は独占ではない」と主張したが、その根拠としてTikTokを挙げたほどだ。
アプリ情報の分析会社のSensor Towerによれば、TikTokは米国だけで19400万回近くダウンロードされている。これは中国版の抖音(Douyin)を含めて世界におけるダウンロード数の8.2%にあたる。また8億4000万ドルの総収入のうち米国は13%、1億1100万ドル占めているという。
同じくアプリ情報分析会社のApp Annieのデータによれば、TikTokは8月9日から15日までの1週間のアクティブユーザー数は5200万人だったという。アクティブユーザー数は上昇中で、7月15日から25日の週は2020年初めの数字と比較して75%もアップしていた。実際にTikTokはApp Storeの第2四半期で世界ベースで最大収入を得たアプリとなっている。利用時間の急増には新型コロナウイルスの感染蔓延で多くのユーザーが外出を制限されことが大きな影響を与えているのだろう。App StoreでもGoogle PlayストアでもTikTokは常に5位以内を占めてきた。
アプリの利用時間も間違いなくアップしている 。2018年8月の月間利用時間が5時間4分だったのに対し、2019年12月には16時間20分へと急増している。
こうした大成功にもかかわらず当社の今後は予測しにくい。同社は訴訟に注力する必要があるし、同時に買収にあたって米国の規制当局から承認を得なければならない。また大統領選挙が激しく戦われている時期にあたってユーザーからの信頼を繋ぎ止めるのも重要だろう。TechCrunchでも新しい情報が得られ次第、記事をアップデートしていく。
画像:Lionel Bonaventure / AFP/ Getty Images
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)