約1万円のガジェットで音楽を作る

去る1月のCESで、筆者は楽器製作のためのクラウドファンディングをしていた/している何人かの創設者に会った。これは魅力的な分野であり、音楽やテクノロジーに差し当たりの興味を持っている人の注目を集めている。大多数のハードウェアスタートアップと同様、この分野の大部分の企業は、運が良ければ1つ製品を生み出すが、それさえも見込みがないと感じられがちだ。

Hail Maryのハードウェア開発と、楽器を再発明しようとする真剣な試みを組み合わせることは、無益な行為のように感じられるし、正直なところ、その通りである。しかし、ときおり刺激的なかたちで何かが起こる。ROLIは近年の現象の最も良い例の1つであろう。同社のSeaboardはシンセサイザーを巧みに利用したもので、このイギリスの会社は巧妙な音楽関連製品をリリースし続けている。

ナッシュビルを拠点とするArtiphonも、Instrument1というシンプルな名前の製品でオンライン音楽愛好家の想像力をかきたてることに成功した。ギターとピアノのハイブリッドスタイルのデバイスは、2015年にKickstarterで130万ドル(約1億3600万円)という途方もない額を集めた。今年のCESでこのプロジェクトについて同社の創設者と話をしたが、筆者が真に興味を持ったのは同社の2つ目のデバイスだ。

画像クレジット:Brian Heater

昨年行われたOrbaのKickstarterキャンペーンでは、140万ドル(約1億4600万円)の資金を調達した。理由は容易に理解できる。同社はキャンペーンページで次のように説明している。

Orbaという新しい楽器を体験してください。シンセサイザー、ルーパー、MIDIコントローラーで、誰でもすぐに音楽を作ることができます。Orbaのシンプルなデザインは、ゲームコントローラーとグレープフルーツの半切れを掛け合わせたような形で、指や手からのジェスチャーが軽やかな感度で音に生まれ変わります。これまで楽器を演奏したことがなくても、Orbaなら、どこでも音楽を作ることができる新しくて楽しい方法をご提供できます。

特に最後の言及が気になった。1月に私が見たほとんどのデバイスにはある種の基本レベルの音楽スキル要件があり、それは理解できるのだが、限られた能力しか持たない熱心な音楽愛好家としては、能力を超えて音楽を楽しめる何かを探していた。正直、ROLIのBlocksにかなり期待していたが、最終的にはその初心者向けのアピールが誇張されていることに気づいた。

筆者は1月からOrbaの発売時期をチェックしていた。COVID-19のシャットダウンがここニューヨークで本格的に始まったのを機にOrbaへの関心が一気に高まったのは、Tiger Kingの再視聴に頼らずに時間を過ごすには良い方法だと思ったからだ。当初は4月に発売予定であったが、創設者兼CEOのMike Butera(マイク・ブテーラ)氏によると、COVID-19や現在進行中の貿易戦争が計画の足を引っ張っているという。

「そうした状況でも、私たちは1万2000人以上のKickstarter支援者への出荷を今年の夏に開始し、今や全世界で95%出荷済みです。販売を開始した国では100%に達しています」と同氏は語る。「残りもすべて出荷準備に入っています」。

画像クレジット:Brian Heater

 

デバイスが届くまでしばらくかかったが、ついに手に入れ、今夢中になっているところだ。筆者の興味の持続が1〜2週間を超えるとは断言できないが、今それを深掘りしている。音楽のスキルは役に立つが必須条件ではない。学習曲線は驚くほど小さく、文字通り箱から出してすぐに使える。パソコン(USB-C経由)やスマートフォン(Bluetooth)に接続すれば、もちろんエクスペリエンスは向上するが、それも必須ではない。

この特徴的で小さなオブジェクトを簡単に言い表すとすれば、プログラム済みの小型MIDIコントローラーのようなもので、その場でループを重ねて曲を作ることができる。「グレープフルーツ」の例えはかなり適切で(特に柑橘系のシリコンカバーがあれば)、各「スライス」は楽器の異なる要素を表している。「リード」または「コード」モードでは、これらは概して異なる音符を表す。「ドラム」とは、キットやその他の打楽器に含まれるさまざまな部分のことだ。

大きな「A」を押すと、楽器の切り替え、BPM(テンポ)の調整、トラックの録音または再生が可能。一番簡単なアプローチは、ドラムでリズムトラックを作り(内蔵メトロノームにする)、その上にコードを重ねることだ。これが1日目にしてできる。BachやWendy Carlosとまではいかないが、全体像は掴むことができる。

このソフトウェアは現在曲の保存/エクスポートをサポートしておらず、これはとても残念だ。上記の録音は、再生中に楽器をマイクにかざすという非常にローファイで簡易的な形で行われる。他にもヘッドフォンジャックをオーディオアウトにするなどの方法はあるが、これが一番簡単な方法であった。この機能は説明書に記載されているが、アプリには備わっていない。ブテーラ氏によると、録音/共有機能はまもなく追加されるとのことである。

今のところ、このアプリは音を切り替えるのに適している。楽器ごとに約10のサウンドパックが存在し(かなりの重なりがある)、これはなかなか良いスタートではあるがほとんど電子的な印象から脱することなく、ドラムサウンドはアナログドラムキットというより808に近い。理にかなってはいる。繰り返しになるが、これはMIDIコントローラーであって、チェンバーオーケストラとは異なるものだ。

画像クレジット:Brian Heater

 

コード/リードは音階があるため、間違った音を出すことはない(少なくとも難しい)。Artiphonは、サウンドライブラリの拡張に取り組んでいる。ユーザーがライブラリに投稿できるようにする予定はないが、MIDIコントローラーとしてシステムを使用することで、ユーザー自身がサウンドを変更できるようになる。

現在のレベルのカスタマイズに若干不十分な点はある。しかし、これは小規模スタートアップの第1世代製品にはありがちなことだ。そして、正直なところ、最初は比較的シンプルにしておくべきである。プラスチックの小さな塊は、物理的な相互作用に関しては驚くほど万能であることも指摘しておく必要がある。「キー」はないが、同社は入力を変えるための巧妙な方法をいくつか追加した。慣れるまでには多少時間がかかり、時折意図しない結果が出ることもあるが、全体的に見て良い機能だ。

画像クレジット:Artiphon / Kickstarterからの画像引用

現時点では、Orbaを本格的な楽器として分類することは難しい。とはいえ、それが重要だとも思わない。次のFlying LotusやDan Deaconになるという幻想は持っていないが、99ドル(約1万円)のガジェットが、横になって息抜きをしたり、時間をつぶしたり、退屈な電話会議をしている間(もちろんミュートにして)に自分を満たしてくれることに楽しさを感じずにはいられない。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:音楽 レビュー ガジェット

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(翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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