ユーザーインターフェースデザインに特化したデザインスタートアップのグッドパッチ。同社は2月19日、DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNCを引受先とする総額4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。また資本参加した各社との事業連携も進める。
今回の資金調達をもとにプロトタイピングツール「Prott」のさらなる開発を行うほか、新サービスの提供を進める。また同社が拠点を持つドイツ・ベルリンを中心としたヨーロッパをはじめとして、Prottを世界展開していくという。
ニュースアプリの「Gunosy」や家計簿アプリ「Money Forward」、キュレーションアプリ「MERY」をはじめとしたユーザーインターフェースのクライアントワークを手がけつつ、自社プロダクトのProttの開発を進めてきたグッドパッチ。inVisionなど海外発のプロトタイピングツールがある中、Prottは現在世界140カ国・5万人以上が利用するまでになった。クライアントにはリクルートやヤフー、ディー・エヌ・エー、グリー、IDEOなどの名前が並ぶ。
会社は順風満帆、さらに調達して一気に自社プロダクト開発を進めるといった状況かとも思ったのだが、グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏いわく、この1年は「組織化に苦しんだ1年」だったという。
「フラットな環境」作れず、4カ月で10人が退社
「去年の今頃は社員50人がいたものの、役員は自分だけ。給与振り込みすら僕がやっていた。『伝言ゲーム』でなく、社長と直接話し合えるフラットな環境でいたいと思ったから。だがよかれと思ってやっていたことは、お互い不幸なだけだった」(土屋氏)
直接やりとりをするつもりが、スタッフの人数が増えすぎて結局1人1人とコミュニケーションを取ることができなくなった。採用を優先すると今度は現場のコミュニケーションができない状況になっていた。人材コンサルを入れて改めて組織作りを進めたが、昨年8月頃から4カ月で——転職や引き抜き、デザイナーとしての独立など様々な理由で——10人の社員が退社した。退職した社員の中には創業期からグッドパッチを支えたメンバーもいた。
前年比での成長はキープできたものの、スタッフが抜けたことで売上も下がった。だが苦しい時期だったが人材採用に関しては好調だった。経営陣を強化氏、事業責任者を置き、組織作りを進めて、80人規模の強い組織作りができているという。
「一番変わったのは『人に任せる』ということがやっとできるようになったということ。今までフラットさについて勘違いをしていた。たとえ組織が階層化されていたとしても、マインドセットがフラットであればそれでよかった」(土屋氏)。土屋氏はこれまでにFailconなどでも自身の創業期の苦悩を語ってきたが、昨年から今年のこの時期を越えて、「起業家」から「経営者」としての道を歩み出したと語る。このあたりの心境は土屋氏のブログで詳細に書かれている。
クライアントワークは継続、新サービスも開発
組織作りで苦労した1年だが、きっちりと成果も出した。例えばMERYなどは、日時利用者数ではブラウザのほうがユーザー数は多い一方、記事閲覧数では圧倒的にアプリが増えているのだという。グッドパッチがデザインしたアプリは、ウェブより回遊率の高い構造になっているというわけだ(ディー・エヌ・エーの決算資料より)。そのほか、コミュニティサービスの「ガールズちゃんねる」では、UI改善により1セッションあたりのPVで約124%増、PV数は約134%増という結果を残した。
調達では今後Prottの開発や世界展開に加えて、新サービスの提供も進める。新サービスはプロダクトマネジメントツール。プロトタイピングツールだけでなく、今後あらゆる開発工程を一気通貫で管理できるシステムの開発を目指す。「いわばAtlassian方式。BtoBのプロダクトは時間が掛かると思うが、3年後、5年後のインパクトは大きい。そのための調達だ」(土屋氏)
では今後、クライアントワークを捨てて自社プロダクトに注力するのかというと、そういうわけではないらしい。クライアントワークでデザインの価値を上げていきたいと土屋氏は語る。
「グッドパッチののミッションは『デザインの力を証明する』ということ。日本ではデザインが勘違いされてきた。ビジネスサイドが企画を立ててワイヤーフレームを書き、それをデザイナーがデザインして、エンジニアが実装するという世界だった。だがデザインへの投資を促さないといけない。海外では事業会社がデザイン会社を買収する流れが増えているが、日本ではやっとスタートアップで重要視されてきたというところ。『デザイン会社』という立場は捨てない。いかにプロダクトを主体的に作るデザイナーを育てるかは重要だ」(土屋氏)