車載ホログラフィック・ディスプレイ開発の英国Envsicsが約53億円調達、Jaguarランドローバーへの搭載目指す

VR(拡張現実)技術の実現可能なビジネスモデルとはどんなものか、まだ世間は模索を続けている状態だ。そんな中、英国のあるスタートアップは、車の中に大きな市場があると見定め、ホログラフィック・ディスプレイとというかたちで賭けに出た。米国時間10月7日、言うなればその「ビジョン」を実現させる戦略的投資家による巨額投資の発表に漕ぎ着けた。

Envisicsは(エンヴィシクス)は、コンピュータービジョン、機械学習、ビッグデータ解析、ナビゲーションといったテクノロジーを自動車用のホログラフィック・ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)のためのハードウェアに統合し、マップ表示やナビゲーションガイド、危険の警告などの情報をドライバーに示す高度な「ダッシュボード」を提供する。同社は本日、シリーズB投資5000万ドル(約53億円)の調達を発表した。

同社の創業者のJamieson Christmas(ジェイミソン・クリスマス)博士はインタビューの中で、この投資は2億5000万ドル(約270億円)を上回る評価額の段階で実施されたと話している。前回のラウンドによって評価額が「大幅にアップ」したとのことだが、イングランドでロンドンの北西に位置するミルトン・キーンズを拠点とするEnvisicsは、これまで評価額を公表していなかった。

この資金は、すでにこのスタートアップに協力してきた、韓国のHyundai Mobis(現代モービス)、米国のGeneral Motors Ventures(ジェネラル・モーターズ・ベンチャーズ)、中国のSAIC Motors(上海汽車集団)、自動車販売と関連サービスで財を成した米国Van Tuyl Group(バン・タイル・グループ)のファミリーオフィスであるVan Tuyl Companiesからなる企業の強力な戦略的投資家グループによってもたらされた。

Envisicsは、すでに数社の自動車メーカーと手を組み、その技術の車両への導入を進めている。まずは市場のハイエンド層を狙い、「インドのTata Motors(タタ・モーターズ)が所有するJaguar Land Rover(ジャガー・ランドローバー)のモデルに搭載する」とクリスマス氏は話す。その技術を組み込んだ車の量産は2023年から開始される予定だ。

ARスタートアップ各社の足元が揺らいでいるこの時期にあって、今回の投資はEnvisicsの価値を認めるものとなるばかりか、同社の事業が関わる幅広い市場も評価されたことになる。

クリスマス氏がホログラフィック・ディスプレイの世界に足を踏み入れたのは、同氏が創業した最初のスタートアップであるTwo Trees(トゥー・ツリーズ)でのことだ。この会社は、Microsoft(マイクロソフト)とそのHoloLens(ホロレンズ)に抵抗できる優れた技術を探していたARグラスの企業Daqri(ダクリ)によって2016年に買収された(Forbes記事)。

クリスマス氏は、Daqriがヘッドセットに力を入れていた間も、ホログラフィック・ディスプレイを自動車メーカーに売り込む機会を引き続き探り続けていたという。事実、買収された時点でTwo Treesは、すでに自動車メーカー数社を顧客にしていた。

それが2年後の2018年、Envisicsのスピンアウトにつながった。前の企業と同じく、同社は英国のスタートアップとして創設されたが、今回は自動車へのホログラフィック技術導入に特化している。

それは結果的に適時の判断だった。結局Daqriは、ビジネス用途に軸足を置いたことで失敗し、すでにARには厳しい状況になっていた中で資金が底をついて2019年9月に倒産(未訳記事)してしまった。Daqriだけではない。当時犠牲になった企業には、特許や資産を売却に追い込まれたOsterhout Design Group(オスターハウト・デザイン・グループ)とMeta(メタ)がある。

Envisicsは燃え盛る舞台からの脱出に成功したと考えるなら、それは間違いなくフライパンから炎の中に飛び込むのと同じだった(紛らわしい火の比喩で申し訳ない)。自動車セクターには巨額の資金が投入され、次世代の輸送手段として期待が集まる自動運転車で、熱い競争が繰り広げられている。

もしあなたが、ARはまだビジネスとしての着地点を発見していないと考えていたとしても、自動運転車は、彼らの目標地点のずっと彼方にある。人間と同等の信頼できる判断が下せる完全な自動運転車が登場するのは、まだまだ何年も先のことだと多くの専門家は口をそろえる。そもそもその実現性を危ぶむ専門家もいる。

そこで、Envisicsのような技術の出番となる。同社のツールは人間のドライバーに取って代わるものではなく、人間の運転を支援するものであり、今から、最終的に自動車が自律走行をできるようになる未来までのいくつもの段階で同社などの技術は極めて重要で、また面白い役割を担い続けることになる。想像できる範囲内でも、自動車そのものの発達と共に進化していく余地は非常に大きい。例えば今、重要なデータを提供してくれるものが、将来、人が運転しなくてもよくなったときには気の利いた娯楽を提供してくれるようになるかもしれない。

「現代モービスは、2025年の量産を目指して、自動運転に特化したAR HUDをEnvisicsと共同開発しています」と現代モービスの上級副社長兼CTOのSung Hwan Cho(チョ・ソンファン)氏は声明の中で述べている。「私たちは世界の自動車メーカーに向けて、安全性を高め、ドライバーの集中力を削ぐことなく利便性をもたらす次世代型AR HUDを積極的に提案していきます」と続ける。

「GMは、Envisicsのホログラフィック拡張現実ヘッドアップ・ディスプレイ技術に大変に感銘しました」とGM Venturesの社長Matt Tsien(マット・チエン)氏は話す。「この技術は、Cadillac LYRIQのような将来のEVの手放し運転を支援する機能など、さまざまな安全機能や高度に統合された直感的なアプリケーションにより、自動車内の体験に革命をもたらします」

「私たちは、Envisicsの革命的ホログラフィック技術の商品化という冒険の旅に参加できることを、とても嬉しく思っています。そして、彼らと手を組み、中国国内および国際市場の次世代の自動車に、高度なAR HUDを展開できることを心待ちにしています」と、SAIC Capitaiの投資ディレクターMichael Cohen(マイケル・コーエン)は自身の声明で語っていた。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:Envisics、イギリス、HUD、資金調達

画像クレジット:Envisics

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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