東南アジアでUberとライバル関係にあるGrabが、中国でUberを破った既存株主のDidi Chuxingとソフトバンクから新たに20億ドルを調達した。
他の既存株主や新しい投資家の意向を考慮すると、ラウンドの規模は最大25億ドルになりえたと同社は語っている。またGrabの広報担当者によれば、ソフトバンクからの出資はビジョン・ファンド経由ではなく、ソフトバンクグループ株式会社によるものとのこと。
さらに情報筋によれば、今回の資金調達によってGrabのポストマネー評価額は60億ドルを超えたとされている。これは、2016年9月に同社が7億5000万ドルを調達した際に報じられていた、30億ドルという評価額の倍以上だ。
「Didi・ソフトバンクとの戦略的関係をさらに深めることができ大変嬉しく思っている。また、先進的な両社が私たちと同じように、東南アジアや当地のオンデマンド交通市場、決済市場に期待していて、Grabがその巨大なチャンスを手にする上で有利な立場にあると考えていてくれていることにも勇気づけられる」とGrabの共同ファウンダーでCEOのAnthony Tanは語った。
要するにDidiとソフトバンクは、昨年8月にUberが中国事業をDidiに売却したのと同じように、Grabには東南アジア市場でUberを負かすだけの力があると考えているのだ。今月に入ってUberがロシア事業を現地の競合Yandexに売却したこともあり、その期待は高まる一方だ。
「市場でのポジションやテクノロジーの優位性、現地市場へのフォーカスといった特徴を備えたGrabが、配車事業を手始めに、東南アジアのネット経済でリーダー的な立場を築きつつあるのは明白だ」とDidiのファウンダーでCEOのCheng Weiは声明の中で述べた。これはUberにとってはかなり痛烈なメッセージだ(中国事業を買収したときの契約に基づき、DidiはUberの株式を一部保有している)。
現在Grabは東南アジアの7か国・36都市で営業しており、アプリのダウンロード数は5000万以上、ドライバーの数は110万人にのぼるとされている。サービスの中心は、営業許可を保有するタクシーや自家用車を使ったものだが、国によってはバイクタクシーやシャトルバス、カープーリングなどのサービスも提供している。
Uberは東南アジア事業の数字を公開していない一方で、インドネシアでGrabとしのぎを削るGo-Jekは、同国ではマーケットリーダーとして考えられている。
またビジネス面に関し、Uberは昨夏に東南アジアの一部で黒字化を果たしたと言われていた。しかし同社は中国市場から撤退した後、東南アジア(+インド)市場への投資額を増やしている(前CEOトラビス・カラニックは中国事業には年間10億ドルかかると語っていた)。Grabの広報担当者は「特定のサービス・都市に関しては黒字化を果たしているが、細かな分類は行っていない」と語ったが、同社が以前行った調査では、東南アジア全域に関し、営業許可のある車両を使った配車サービス市場の95%、自家用車を使った市場の71%をGrabが握っているとされていた。
今後ビジネスをひとつ上のレベルに押し上げるため、Grabはモバイル決済プラットフォームの開発にも取り組んでいる。そのかいもあってか、サービスローンチ当初は現金のみの支払いだったのが、クレジットカードも利用できるようになった。さらに決済プラットフォームの開発を進めるうちに、Grabは東南アジアで最大規模の経済、そして世界第4位の人口密度を誇るインドネシアでのフィンテックサービスに商機を見出した。
昨年Googleが共著したレポートによれば、東南アジアの配車サービス市場の規模は、2015年の25億ドルから2025年までに131億ドルへ成長すると予測されており、インドネシアがその半分以上を占めることになると言われている。Grabもインドネシアの古びれた銀行システムの影にその可能性を感じており、パイを拡大するためにも現代的な金融システムの開発を行っているのだ。
今年のはじめに、同社はインドネシアでのサービス開発に向けた7億ドルの投資プログラムを発表し、そのうち少なくとも1億ドルを企業への出資や買収に投じるとされていた。その後、発表から2か月ほどでオフライン決済スタートアップKudoを買収し、関係者によれば買収額は1億ドル近かったと言われている。
Go-JekもGrabが手をつけ始める前から決済サービスを提供しており、両社の正面衝突は必至だ。Go-Jekに近い情報筋よれば、同社は今年の5月にTencentを中心とする投資家から12億ドルを調達したと伝えられているが、当時Go-Jekはそれを認めず、それ以後も資金調達に関する発表を行っていない。しかし今回のGrabのニュースを受けて、Go-Jekは財務面のプレッシャーを感じていることだろう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)