2014年11月創業で2015年末にクラウドファンディングで2500万円を集めたウェアラブルデバイスの「BONX」が、音質や装着感を改善して再登場だ。この6月に社名をチケイからプロダクト名と同じBONXに変更した同社は、今日からIndiegogoでキャペーンを開始した。
登場時にTechCrunch Japanで紹介したとおり、BONXはパッと見た感じはスポーツタイプのBluetoothイヤホンの片側だが、これまで誰も解決して来なかった課題を解決しようとしている。それは「屋外活動や野外スポーツでは、グループで行動していても音声的には案外一人ぼっち」という問題だ。スノーボードや釣り、自転車、ランニングなど屋外で複数人で遊ぶようなとき、視界に仲間がいたとしても、距離や環境音、装備的な問題で会話が成り立たないケースは多い。
BONXを片耳にぶら下げ、ポケットに入れたスマホとBluetooth接続しておけば、専用アプリを通して他のBONX利用者と会話ができる。スマホ同士の通信はBONXが開発・維持するサーバーを経由して3G/LTEでつながっているので利用者同士は離れていてもオッケーだ。
BONX創業者でCEOの宮坂貴大氏によれば、2015年の最初のクラウドファンディングでは2016年2月までに2700台を出荷。サバイバルゲームで使ってみたとか、ドローン操縦で離れた地点でコミュニケーションできたなど想定外の用途でのユーザーの声が届いているという。その一方、「ハードもソフトももう少し作り込んだほうが良さそう」との判断から一般発売する予定をいったん延期して、今回Indiegogoにバージョンアップしたプロダクトを出すのだという。
UXと音質改善の積み重ね
ユーザーからの悪いフィードバックとして最大のものは「ちゃんと動かない」というもの。これはAndroidアプリの安定性が低いことと、ハードウェア機能を使いこなすことから機種依存部分が想定以上だったことが原因で、「機種によっては反応が悪かった」(宮坂CEO)という。このため次バージョンでは外部の協力で多数のAndroid機種の動作検証とQAを進めたそう。
反応が悪い、というのは具体的には、グループに入っても相手の声が聞こえてこないとか、電話を取ったり写真を撮った後に、BONXアプリで音声通信が復帰しないというようなこと。このときユーザーには「話せなくなった」としか分からず、フラストレーションとなる。そこで最近は「相手がミュートしている」とか「相手の電波が悪い」といった音声ナビを入れたそうだ。
肝心の音質についてはユーザーからネガティブな声があったというよりも、むしろ「自分たちが理想とするほど上げられなかった」(宮坂CEO)ことから改善を続けている。
BONXが新しいのは、ユーザーが話しているときだけマイクで音声を拾って送り届けるという「発話検知」や、電波環境に合わせて通信量を自動調節したり再接続したりする「VoIP」、風切音などの環境音をキャンセルする技術だが、ここはまだ改善の余地があるという。というのも、これらの要素技術自体は目新しくないものの、ICレコーダーなどと違って声が聞こえたら0.1秒以下で反応しないといけないし、環境音は常時変化するので数十秒おきにサンプリングしないといけないといった独特の要件があるからだ。環境音だけでなく、スポーツなどである「バン」と弾けるような突発音も除去できるようになってきたそうだ。ほかにも音声の波形を見てマイクからの距離を推定し、ユーザーの声だけを拾うといった処理も入れている。こうした複合的な改善の積み重ねで音声コミュニケーションの質は上がっているという。
それほどユニークな音声処理エンジンを作っているのであれば、むしろそれをライセンスして外販すれば良いのでは、とも思って宮坂CEOに聞いてみたら、むしろ事情は逆らしい。Jawboneの創業者たちは後に「NoiseAssasine」と呼ぶことになるノイズキャンセリング技術を開発して、その技術をヘッドフォンメーカーなどに販売しようとしていた。しかし、本来の性能を出すにはハードウェア込みじゃないとダメだということで出てきたのがJawboneヘッドセットだ。処理エンジン単体では理想とするユーザー体験が実現できない、ということだ。
ともあれ、新しいBONXはIPX5で生活防水となり、見た目は変わらないもののゴムが柔らかく耳の付け心地が良くなるなど改良が進んでいる。まだ価格は未定だが、希望小売価格は1台が1万5800円で、2台以上セットで安くするそう。
BONXは現在社員が8人。駒沢公園というおよそオフィスを構えるのに相応しくない住宅街に拠点を置いているのは4月にリニューアルオープンした駒沢オリンピック公園スケートパークに最も近いからだとか。以前オフィス移転先として渋谷が挙がったとき、「スケートボードができないとオフィスじゃないだろ」という意見が出て宮坂CEOを含む社員が反対したんだとか。リアルユーザーだからこそ情熱を持ってプロダクト開発に取り組めるっていいよね。遊ぶために仕事をしているのか、仕事で遊んでるのか、仕事が遊びなのかとか、そういうのが分からない時代になって来てるのかもしれない。
BONXは2014年末創業以来これまでにNEDOの助成金や銀行や日本政策金融公庫からの融資、VCからの出資などで合計約3億円の資金を調達している。BONXはTechCrunch Tokyo 2015スタートアップバトルのファイナリストでもある。ところで、耳につけるIoTデバイスは、ウェアラブルに対して「ヒアラブル」という言葉で呼ぶ人たちもいて、ソニーがMobile World Congress 2016で披露した「Xperia Ear」やモトローラの「Moto Hint」、Bragiの「Dash」なんかも注目されている。