電動キックボード事業を展開するLime(ライム)は早ければ今年中に日本市場に参入する。同社のCEOのBrad Bao(ブラッド・バオ)氏がTechCrunch Japanとの取材で明かした。
日本といえば規制大国。電動キックボードを取り巻く環境についても例外なく厳しい。
Limeは出資を受けているデジタルガレージとともに日本展開に向け準備しているが、なぜ日本で電動キックボードのシェアリングサービスの展開を目指すのだろうか。「Limeは日本での電動キックボードの普及に大いに貢献できる」と意気込むバオ氏に、電動キックボードとマイクロモビリティーの日本における可能性について話を聞いた。
電動キックボードの“社会的な意義”
ライドシェアやカーシェアリング、自転車のシェアリングなど、近年、様々な移動のオプションが誕生してきた。だが、そんな中でも電動キックボードのシェアが圧倒的に拡大している理由は、混雑を緩和できる、時間を節約できる、環境に優しい、など、「他の乗り物にはない利点」が多く存在するからだとバオ氏は説明する。
バオ氏はKinzon Capitalの代表パートナーでもある。モビリティ領域を研究する中、Uberのようなライドシェアに注目していたが、「Uberにより交通渋滞や環境汚染が改善されるわけではない」と気付き、2017年にLimeを共同創業する。創業から約2年だが、同社はこれまでに7.77億ドル(約844億円)調達し、バリュエーションは24億ドル(約2600億円)だ。
「車やUberを使っても交通渋滞に引っかかってしまうので、毎日のように同僚と『今日も渋滞はヒドかった』と会話をすることになる。だからこそ、苦しみ続けながら繰り返し文句を言うのではなく、何らかのアクションを取る必要があった。単に『短距離移動』にビジネスチャンスを見出しただけではなく、社会的意義を感じてこの事業を立ち上げた」(バオ氏)。
LimeはこれまでにLime BikeやLime Transit Podなども展開しているが、現在注力しているのが電動キックボード。
Limeが4月に発表したレポートによると、「車でなくLimeを利用することで、ユーザーは1日26ドル節約でき、年間200kgものCO2を削減できる」。同社いわく、Limeはこれまで90万ガロンものガソリンを節約。これは1700台の車が一年間稼働しなかった際に節約できるガソリンの量と同等だ。
加えて、National Household Travel Surveyが2010年にリリースした調査結果によると、車や自転車の利用を含む全ての移動の40%が2マイル以下、そして1マイル以下の移動の60%は車、ピックアップトラックやSUVなどの自家用車によるもの。そのため、移動の多くは車でなく電動キックボードで済む、とも言えるだろう。
車以外の選択肢だと、電動キックボード以外にも自転車シェアリングなどがあるが、自転車はドックまで取りに行く必要があるうえ、最悪必要時にすべて貸し出されていることも。その点、アプリでその辺に転がっている電動キックボードを探すのは比較的楽だ。
また、電動キックボードは「自転車と違い、どんな服でも乗ることが可能」。バオ氏いわく、「性別や年齢を問わず乗りこなすことができるため、自転車と比べて女性の利用者の率が高い」。確かに、スカートを履いている場合やスーツをきている場合などには、自転車よりも電動キックボードのほうが乗りやすいだろう。
同社が3月にリリースしたレポートによると、Limeユーザーの33%は女性。一方、通勤で自転車を利用する人たちのうち28%が女性。大差ないように思えるが、バオ氏いわくこの差は今後も開いていく見込みだ。
電動キックボードの王者、Limeは日本をどう見ているのか
日本の規制が厳しいことはバオ氏も十分に理解している。だが、同氏はそれ以上に「可能性」を日本に見出しているようだった。
「日本は最も参入しにくい市場だが、最もポテンシャルのある市場でもある」(バオ氏)。
展開する場所は現段階では定かではないが、地方都市で実証実験を行なった末、いずれは「ビッグチャンス」である東京での展開も視野にある。
「日本は都心部の人口密度が非常に高く、交通機関は混雑しており、シェアリングサービスが活躍できる。加えて、我々はサービスを提供し利益を得るだけでなく、『新たなライフスタイル』を提案することが重要だと考えている。より環境に優しく、効率的で楽しく。そして東京のような街は文化的な影響力が強い。他の街や国へ文化が伝わっていく」(バオ氏)。
バオ氏いわく、東京では高いタクシーに金を出すか、駅で電車を待つしか選択肢がないため、Limeの電動キックボードは大いに活躍することができるという。東京、もとい日本にはUberなどのライドシェアもないも当然。
なぜ他社の日本参入よりもLimeの上陸のほうが「電動キックボードの普及・定着」に大きな意味があるのか。バオ氏は、それはこれまでLimeが都市と「データをシェア」することで業界をリードしてきたからだと話す。
「そのデータをもとに、都市はキックボードの設置エリアなどを検討する。このようなデータは街は持っていないし、プライベートカンパニーは従来、シェアすることを拒んできた」(バオ氏)。
Limeでは乗車位置や降車位置のほか、交通状況、ホットスポットなどに関するデータも蓄積している。
「プラニングのため、街と情報をシェアしたり、安全のためのキャンペーンや低所得層やスマホを持っていない人たち、クレジットカードを持っていない人たちでも利用できるようにしている。日本では現金がよく使われているが、すでにソリューションはある」(バオ氏)。
そして「Limeは世界中の地下鉄やバスなどの交通機関との連携してきた。そして我々はあくまでラストワンマイルに最も適したソリューションを提供している」と同氏は加えた。
現在は日本には電動キックボードに特化した規制はなく、道路交通法の規定により公道の走行には一定の制約がある。具体的には、国内では原付バイクと見なされるため、前照灯、番号灯、方向指示器などを搭載しないと公道は走れない。利用者は、原付バイクの免許の携帯とヘルメットの着用が必須となる。
だが、バオ氏は「我々が交渉した街や政府は変化に対し柔軟な姿勢だった」と話し、「Uber、Lyft、そしてその他のサービスがあったからこそ、ライドシェアが盛り上がった」ように、他のローカルプレイヤーと連携することで電動キックボードの普及に貢献し、海外では実現してきた規制緩和を日本でも現実のものとすることを誓った。
現在、日本では、電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP(ループ)」が、将来的な実装に向け「安全性・利便性を検証する実証実験」を7月1日より浜松市と開始したほか、同様の事業を展開するmobby rideが福岡市での実証実験に続き神戸市にて体験会を8月9日に開催するなどと発表している。
ユーザーの安全のために2018年11月より半年間で25万個ものヘルメットを世界中に無料配布すると宣言したり、飲酒運転を阻止するべく対策を練っているというLime。
バオ氏は「あくまでも規制は厳守する」と繰り返し、規制や他社の介入をディスラプトするのではなく、あくまでも「業界のリーダー」として日本での電動キックボードの普及に貢献すると誓った。
「デジタルガレージやローカルチームと協力し、ローンチまでに市場の分析を進めていく」(バオ氏)。