新型コロナウイルス蔓延による外出自粛要請の真っ只中でも、子供が学べる環境は日々どんどん進化している。子供の就学後としては、多くの家庭が体験したことのない夏休みより長期の休み。将来のために子供に何を学ばせるのか、いま重要な時期かもしれない。
首都圏を拠点に中学・高校生向けの学習塾を全国展開している駿台予備校(学校法人駿河台学園)は4月30日、1学期(7月11日まで)の同校校舎での対面授業をすべて取りやめることを発表した。新型コロナウイルス感染拡大の⻑期化を見越した決断だ。
もちろん同予備校は、新型コロナウイルス禍でも生徒の学習の機会をきっちり確保する。対面授業の代替として大型連休明けの5月7日から、atama plusが開発したAI学習システム「atama+」のオンライン版「atama+ Web版」を全講師と全生徒に提供し、1学期の期間中は在宅での授業を続行するのだ。なおatama+ Web版で学べるのは、英語、数学、物理、化学の4教科となる。
atama+ Web版は、新型コロナウイルス蔓延による政府や自治体の外出自粛要請を受けて、atama plusが急遽開発に着手し、2月25日にリリースしたインターネット版のatama+。従来は、学習塾内の専用タブレットでしか使えなかったatama+を、生徒の自宅にあるPCやスマートフォン、タブレット端末などで利用可能にしたほか、講師が利用するコーチングアプリも校舎外で使えるようにした。4月24日時点ではatama+を導入する全国の 塾・予備校のおよそ7割にあたる1300教室以上で、atama+Web版を使ったオンライン授業が実施されている。
実は駿台予備校は2月28日、2020年4月からこれまでの集団授業をすべて廃止し、全校舎にatama+を全面導入することを発表していた。当初は、生徒を教室に集めて生徒各自に配布したタブレット端末をベースに授業を進め、講師がタブレット上での各生徒の学習の進捗度合いを確認しながら個別指導するという講義スタイルとなるはずだった。
atama+のAI教材は、各生徒の学習理解度をAIが瞬時に判定し、学習や知識が不足している分野につながる基礎的な問題を個別に自動生成することで、生徒のつまずきを解消してくれるのが特徴だ。
具体的には、数学の正弦定理が苦手な生徒の場合、正弦定理の問題を片っ端から問いて身体で覚えるのではなく、平方根や三角形の内角などの基礎的な要素を理解させることに重点を置く。生徒の苦手分野を特定するためにさまざまな角度からatama+が出題し、その生徒が何を理解していないのかを把握する。そして、その苦手分野を補う5分程度の短い動画教材や例題などを組み合わせたカリキュラムを自動で生成するという仕組みだ。
講師側はコーチ専用アプリ「atama+ COACH」から全生徒の学習状態を一元把握できる。具体的には各生徒が、いま解いている問題、もうすぐ解き終わる問題、解答に時間がかかってる問題などがわかり、各生徒の進捗に応じたきめ細かい学習指導が行えるわけだ。
なお、atama+ Web版での講師から生徒への個別指導には電話を利用する。
ちなみにatama plusが調査したオンライン授業における生徒の学習動向を見ると、通常の対面授業とほぼ変わらないか、一部はオンライン授業のほうが良好な進捗を見せているケースもあった。同社によると、生徒のモチベーションは講師のサポートがある限り、維持される傾向が高いとのこと。またモチベーションの高い生徒は、授業外もatama plusで自主学習しているそうだ。
受講者数については、オンライン化へ移行で塾を辞めるという状況は発生しておらず、全国休校要請前と比較して1日あたりの利用ユーザー数はむしろ約10倍に増えているそうだ。
atama plusは、2017年4月に設立されたスタートアップ。代表取締役を務める稲田大輔氏が、大学時代の友人だった中下真氏(同社取締役)と川原尊徳氏(同社取締役)を誘って起業したEdTech企業だ。稲田氏は東京大学工学部卒業・東京大学大学院情報理工学系研究科修了後に三井物産に入社。社内で教育関連の事業を立ち上げたあと、ブラジルでベネッセとの共同事業を進め、ベネッセ・ブラジルの執行役員や海外EdTech投資責任者などを歴任したあと、atama plusの創業に至った。
稲田氏はブラジルの教育の現場を目の当たりにし、テクノロジーの活用において日本が大幅に遅れていることを痛感。日本では、義務教育や高校で学ぶ科目や学習内容に変化はあるものの「学校での授業形態は150年ぐらい前からほとんど変わっておらず、教室の前に立つ教師の話と、黒板に書かれた情報を基にクラス全体で学習を進めていくというスタイルが長らく続いている」ことを問題視していた。
atama plusはこういった旧態依然の学びの環境を学習塾と協力して進化・効率化させ、余った時間を「社会でいきる力」の習得に当てるというミッションを掲げ事業を運営している。
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