もしTikTokに注目していないのなら、きっとぼーっと生きていたのだろう。Sensor Towerの最近のレポートによれば、北京のByteDanceが提供するこのショート動画アプリは、12月には新規ユーザーを過去最高となる月7500万人も獲得した。これは2017年12月に獲得した月2000万人に対して、275%も上回っている。
その急激な拡大にもかかわらず、まだ多くの人びと(多くは高齢者たち)が、一体TikTokとは何かがわからず、取り残されたままだ。
TikTokはよく「リップシンク」(口パク)アプリと呼ばれるが、そう聞くとオンラインカラオケ体験のように聞こえる。しかし、より近い比較対象はVineだろう。Vineは今でも多くの人びとに惜しまれているTwitterの(今はもう無くなった)ショート動画アプリで、そのコンテンツはYouTube上に編集されて今でも残されている。
TikTokが人気のあるリップシンクの本拠地であることは事実だが、実際のところは、音楽やその他のサウンドクリップに裏打ちされた、アクトアウトミーム(act-out meme:特定の動作や演技を行うミーム)で良く知られているのだ。それらは若者たちによって、無限に再現され、リミックスされ続けている。
使われている曲はバラエティに富んでいる ―― ポップ、ラップ、R&B、EDM、そしてDJトラックが、その15秒のビデオクリップのためのバックグラウンドミュージックとして機能する。しかし、そうしたサウンドはYouTubeミュージックビデオ(上のビデオの“I Baked You A Pie”を参照)やSoundCloud、あるいはPeppa PigやRiverdaleといったポップカルチャーからの奇妙な音源、もしくはオリジナル作品から取り込まれたものだ。
これらのミームビデオは、ゲーミング文化(下記参照)などのZ世代(1990年代以降生まれの世代)によく知られているものを引用している。それらが、スタンドアロンビデオ、リアクション 、デュエット、ミラー/クローンなどの形で提供される。
このアプリは、2017年11月に米国のライバル会社であるMusical.lyを8億ドル以上で買収してから着実に成長を続けている。その後2つのアプリのユーザーベースは1つに統合された。
この買収はTikTokに西洋のマーケットで成長する手段を与えた。そこでは例えばジミー・ファロンやトニー・ホークような米国の有名人の興味をひくことに成功した。また次の新しいネタを探しているYouTuberたちの関心もとらえたのだ。
しかし、Vine(安らかに眠れ)やYouTube、あるいはInstagramとは違って、TikTokはまだ(確かに存在はしているが)マイクロセレブたちによって支配されているとは感じられない。
その代わりに、そのメインフィードには、普通のユーザー(つまりド素人)が次々と登場し、何か可愛らしいこと、可笑しなこと、ちょっと感心するようなことを行うのだ。その大部分の根底には「は〜い、これがインターネットジョークだよ」という暗黙の了解があるのだ。
はい、はい、その通り。言いたいことはわかる。
こうしたビデオは”クリンギー“(cringey:困惑させたり居心地の悪い気持ちにさせるもの) と表現されることもある。
しかしそう感じるのは、TikTokについて話そうとしている私たちたちが、古き良きインターネットの中で育ってきた「高齢者」だからなのだ。
率直に言って、クリンギーというラベルは、コミュニティの中である一定の方向性を定めることに成功したTikTokを、貶める不当な呼び名だ。ここでは、ユーザーたちが頻繁に悪びれもせず楽しいコンテンツを投稿している。そしてここではウェブの他の場所よりも嘲笑を受けることは少ない。なにしろTikTokの上では、他のひとたちも似たような「クリンギー」なコンテンツを投稿しているのだ。
だがもしあなたのTikTokへの接点が、YouTubeの”TikTok Cringe Compilations”(TikTokクリンギー特集)でしかない場合には、そうしたことは知らないかもしれない。しかし、(奇妙なほど中毒性のある)TikTokフィードを一日見て過ごせば、(YouTubeを含む)ウェブ上の他のどこにもないビデオの世界が、ここにはあることに気が付くだろう。ビデオは確かにイカれている ―― しかし楽しいことも事実なのだ。
これは既存のソーシャルメディアプラットフォームとはまったく違うものだ。
現代のユーザーたちは、Twitterでは文化戦争に巻き込まれ(ナチスを禁止せよ!言論の自由を守れ!)たり、一方ではYouTuberたちは、広告主を震え上がらせるような、憎しみに溢れ 、搾取的で 、危険でもあり、さもなくば疑わしいコンテンツで、YouTubeのアルゴリズムの裏をかこうとしている。そしてFacebookときたら…戦争犯罪や民主主義の破壊に貢献している、
そうした中で、TikTokはオンライン共有の、また別のありかたを示しているのだ。単純で、間抜けで、計算抜きで…そして率直に言えば、それは大いに求められていた心のリセット手段なのだ。
例えば、人気の高いTikTokのミームの中には、子供たちがお母さんをフレームに引き込んで自分のお母さんがどんなに素晴らしいかを訴えかけるビデオがある。あるいはゴミを拾ったり水を節約することを訴えるビデオもある。彼らはひょうきんに振る舞っているかもしれないが、自己肯定的であり、そのあと自分自身を「かわいい」ものというより「息を飲むほどゴージャス」なものとして表現するのだ。
彼らは何時間もかけてAdeleのコンサート参加者としてグミベアを並べたり、階段をシャッフルダンスで登る方法を学んだり、お父さんとダンスバトルしたりするだろう。あるいはなんらかの特別な才能を披露するかもしれない、スケッチ、絵画、体操、ダンス、あるいはスケートボードなどだ。科学実験をしたり、冗談を言ったり、ちょっとしたビデオマジックのために特殊効果を使ったりもする。
彼らは“hit or miss!” と公共の場で叫んで、 誰が反応するかを待っている(詳しくはこちら)。
馬鹿げているときもあるし、巧妙なときもある。しかし、それは中毒性があるのだ。
もちろん、それはインターネットに過ぎないし、TikTokは完璧なものではない。
このアプリは、その「ダーク」サイドの問題も指摘されてきている。伝えられるところでは、子供を狙うものが沢山いたり、ティーンエージャーの間でのいじめや嫌がらせもあるという。とはいえ、TikTokが苦しむこれらの問題が、その他の大規模な、ディフォルトが公開設定になっているソーシャルアプリよりも悪いものかどうかは、明らかではない。
また、一部のアプリとは異なり、心配する親たちやユーザー自身が、TikTokアカウントを非公開にしたり、コメントを無効にしたり、アカウントを検索から非表示にしたり、ダウンロードを無効にしたり、リアクションやデュエットを禁止したり、メッセージの受信を制限したりすることが可能だ。
とはいえ、13歳未満の子供たちが、親の同意無しにソーシャルメディアカウントを開設していることには、心配の声があがっている。(とはいえ、まあ、FortniteやRobloxの状況は見たことがあるだろうか?これが子供たちのしていることだ。少なくともTikTokのメインフィードは厄介なものではない)。
だがもっと大きな問題は ―― そして将来的にはTikTokにダメージを与えかねない問題は ―― コンテンツフィルタリングと削除要求に応え続けることができるかどうか、そして拡大して行く中でセキュリティとプライバシー保護の問題に対処できるかどうかなのだ。
TikTokの成長に貢献しているのはコンテンツとコミュニティだけではない。
ショートビデオの概念を導入したのはVineだったかも知れないが、TikTokはビデオ編集を驚くほど簡単にした。クリップをさまざまな効果でまとめるのに、ビデオの専門家である必要はない。これはモバイルビデオ時代のInstagramなのだ ―― 既にInstagram自身が真似できないやりかたで、インフルエンサーや広告主と連携しているのだ。
一方、TikTokの巨大なユーザーベースは、欧米市場での成長だけでなく、中国やインドなどの新興市場からの牽引力によるものが大きい。
2018年に最もダウンロードされたアプリに関するApp Annieのデータによれば、こうした新興市場の力によってTikTokはiOSとAndroidの合計で、世界第4位にランクされることが可能になったのだ。iOSでは、主に中国のおかげで、TikTokは年間で最もダウンロード数の多いアプリとなった。
昨年にはTikTokは、Facebook、Instagram、Snapchat、そしてYouTubeよりも上位にランクされた。
App AnnieとSensor Towerの両方で、2018年にはTikTokが全アプリの中で、最もインストールされたアプリとして3位になっている。
現在、TikTokはインドで成長していると、Sensor Towerは発表している。
この国は、2017年11月から2018年12月までの新規インストールの27%を占めており、先月はTikTokの新しい7500万ダウンロードのうちの3230万ダウンロードを占めていた。これは前年に比べて25倍の伸びである。
アプリの広告ネットワーク利用の調査を行っているApptopiaのレポートによれば、この成長の一部は広告費の投下によるものである(それはまたYouTubeの広告を使って、人びとの怒りを駆り立てている)。
売上も増え始めている。
Sensor Towerの推計によれば、世界全体では、ユーザーたちはお気に入りのライブストリーマーに対して600万ドルをチップとして支払っている。これは2017年12月の合計170万ドルに対して1年で253%したことになる。だが、ライブストリーミング機能はTikTokのデフォルト機能ではない。これはMusical.lyのライブストリーミングアプリLive.lyがシャットダウンされた後に、機能追加されたものだ。
上図:アプリが起動されたときに表示されるTikTokのフルスクリーン広告(今日表示された)
これは私が@tiktok_usで見た初めての本格広告キャンペーンだと思います。
上図:今月初めに掲載された広告
TikTokはアプリ内広告のテストも開始しており、その結果広告代理店たちから注目を集めている。TikTokを起動すると、フルページのスプラッシュスクリーン広告が表示されることがある。ただし、同社はまだ正式な広告商品を発売していない。
しかし、ブランドたちは注目を寄せ始めている。例えば今週TikTokは、スーパーボウルに間に合うようにARアニメーションステッカーを紹介しようとしているSportsManias(公式NFL Players Associationパートナー)とコラボレーションを行った。こうした動きは、ブランド提供のコンテンツがどれくらい上手くTikTokの世界で受け入れられるかをテストするもののように思えるが、同社はそれを「広告取引ではない」と説明している。
同社はまた、現在TikTokを使用している人が何人になるかを明かさなかった。
とはいえ、親会社であるByteDanceは、合併後のリブランディングを行った後の昨年の発表で、月間アクティブユーザーの数は5億人であると公式に発表している。グローバルユーザーベースの新しい数字はまだ発表されていない。
と言いつつも、ByteDanceは、TikTokアプリの全てのバージョン(Google Play Androidバージョンも含む)に対する、中国国内のみでの最新情報は発表している。それによれば、TikTokは現在、中国だけで月に5億人のアクティブユーザーを抱えているという。
Sensor Towerは本日、TikTokが中国でのAndroid分を除いて、インストール数が8億回近くに達したという推定値を発表した。
中国国内でインストールされているAndroid分を考慮に入れると、ダウンロード数が10億を超えたと言っても間違いではないだろう。
さあこれが、新・新インターネットだ。これは大規模で、新興市場、モバイル、ビデオ、ミームを席巻しつつあり、オンラインでもオフラインでも大流行している。
もしこれまでTikTokに注目していなかったとしたら、始めてみたいと思うかもしれない。
画像クレジット:ByteDance
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(翻訳:sako)