【編集部注】執筆者のDeep Patelは、連続起業家、マーケター、そしてA Paperboy’s Fable: The 11 Principles of Successの著者である。
世界は取引(トレード)で運営されている。米国だけでも、貨物と物流にかかる費用は毎年約1.5兆ドル( 2015年のデータ )にも及んでいる。世界の経済規模が拡大するにつれて、その数字は増加の一途をたどることが予想されている、私たちが製品やサービスに関して、国際的なサプライチェーンにさらに依存するようになるからだ。
しかしながら、物流業界そのものは、その成長に耐えられる構造になっていない。現状では、構造的な非効率性と不正行為に晒されやすい、脆弱な基盤の上に載っているからだ。数え切れないほどの仲介業者が手数料を徴収し、輸送価格を引き上げている。問題は、こうしたプロセスの複雑さと不透明さが、適切な価格を算出することを困難にしているということだ。
FBIの推定によれば、貨物盗難により、米国では毎年約300億ドルの損害が発生していて、その平均盗難額は19万ドルに及んでいる。実際に、貨物盗難により、消費者にとっての製品コストは最大20%も増加しているのだ。こうした問題に関しては既に何十年にわたって、十分にレポートされているが、責任が分散していることよって、業界のステークホルダーたちには説明責任がほとんど生じていない。
しかし、いまやブロックチェーンテクノロジーの形で、大変革が業界に起きようととしている。この技術によって、より安く、より効率的な物流システムの登場が約束されているのだ。主要な既存企業たちだけでなく、革新的なスタートアップたちが、ブロックチェーンの開発に膨大な時間とリソースを投入している。
最近UPSは、ブロックチェーン技術標準の開発と貨物業界向けの啓蒙のためのフォーラムであるBlockchain in Transport Alliance(BiTA:輸送業向けブロックチェーン同盟)に参加することを表明した。BiTAは、セキュアなブロックチェーンシステムを導入することにより、運送業界全体向けの標準の開発を促進することを狙っている。
なぜ今なのだろう?なぜUPSは他の何百もの主要企業とともに、ブロックチェーンに賭けているのだろうか?
答:彼らは革命の一部になりたいから。彼らは、将来のスマートな物流ネットワークが構築される中で、重要な役割を果たすことを望んでいるのだ。そして彼ら自身が、自分たちで手を下さなければ、誰かがその役割を果たしてまうことを理解しているからだ。
物流と貨物の将来は、ブロックチェーンに大きく依存することになる。
ブロックチェーン技術の主な魅力は、分散されていて改竄(かいざん)されない台帳を作成できる能力にある。これは単一障害点を持たず、複数の関係者によって維持され、情報がハックされたり破損したりすることのないネットワークである。これにより、1つのトランザクションのライフサイクル全体が1つのブロックチェーンに格納されて、それら全ての情報に対するセキュリティと透明性が向上することになる。
現在貨物および物流業界は、大勢のブローカーと、複雑なサプライチェーンの中に隠された情報を、大量に抱え込んでいる。このチェーンのすべての側面にアクセスすることができる単一の事業者は存在しない。現在、貨物および物流業界は、荷主から運送業者への荷物の引き渡しを、円滑かつ容易にするために存在する、貨物ブローカーたちによって支配されている。ブローカーは荷物を探し出し、利ざやを乗せて、運送業者へと引き渡す。これは、運送業者のコストを上げるだけでなく、消費者に直接影響を与える下流価格の上昇にもつながっている。
現行のグローバルネットワーク全体にわたる効率性、透明性、セキュリティの欠如は、まさにブロックチェーンテクノロジーが解決するのにうってつけの問題なのだ。もしブロックチェーンが適切に活用されれば、より自由で透明性の高い世界的取引に参加する機会が顧客たちに与えられ、ブローカーの必要性が減り、仲介コストが削減される可能性がある。
こうした理由から、UPSのエンタープライズアーキテクチャならびにイノベーションディレクターLinda Weaklandは、ブロックチェーンにとても期待している。彼女は「物流業界の中での沢山の応用が考えられます。特にサプライチェーン、保険、支払い、監査、通関業務などがその対象となります」と語っている。この技術は、荷主、運送業者、ブローカー、消費者、ベンダー、その他のサプライチェーン関係者の間で、透明性と効率性を高める可能性を秘めていいる。
透明性と効率性を向上させる効果的な方法の1つが、Ethereumブロックチェーンを支える重要なイノベーションであるスマートコントラクトを活用することだ。スマートコントラクトは、本質的に、所定の規約が満たされたときに履行される自己実行型契約である。これによって、関連する仲介業者を排除または制限することが可能になり、途中で発生する利ざやを抑え、エスクロー(預託金)の運用効率性を向上させ易くなる。
ブロックチェーンはまた、サプライチェーンの追跡と透明性を高めることができる。荷主は、サプライチェーン全体の可視性を高めることができ、荷重、通過地点、そして基本的なコンプライアンス情報などの重要な情報を、運送業者との間で共有することができる。
一度出荷が確認され、ブロックチェーンに記録されると、それは不変である。つまり、誰も取引の正当性に異議を唱えたり、記録を不正に操作したりすることはできない。トランザクションがログに記録されると、スマートコントラクトはエスクローからの支払いを即座に行い、仲介処理に関連する時間とコストを削減する。
ブロックチェーンテクノロジーはまだ萌芽期であるため、世界中の企業やコンソーシアムが、商用化に先立ってソリューションをテストするために、実証技術を開発しているスタートアップたちに投資したり協業を始めたりしている。こうしたことに取り組むスタートアップの一例がShipChainだ。同社はブロックチェーン技術を物流業界に適用することを目指している。
BiTAの一員である同社は、現在物流プロセスの各段階についての洞察を与える、完全に統合されたサプライチェーン管理システムを構築している。さらに同社は、分散型の仲介システム(本質的に、荷主と運送業者のための公開市場)を構築することを目指している。ブロックチェーン上の情報の透明性を利用することで、荷主は各出荷のコストと時間を、公開市場の中で最適化できるようになる。
言い換えれば、荷主は、市場での決定を下す前に、特定の貨物について異なるルートの許容量、コスト、および推定納期を追跡することができるということだ。同時に、運送業者たちは、所有する輸送車両と輸送航路の、輸送能力に関する情報を継続的に入力し、供給と需要に基づいて最も公平な価格設定を動的に調整することができる。ブロックチェーンによってもたらされる透明性と効率性は、利潤を追求するブローカーによる人為的な利ざやを排除することで、最も効果的な方法でリソースを割り当て、すべての関係者に利便性をもたらす。
現行のグローバルネットワーク全体にわたる効率性、透明性、セキュリティの欠如は、まさにブロックチェーンテクノロジーが解決するのにうってつけの問題なのだ。
このプロセス全体を通しての可視性の向上は、業界を悩ましている盗難やハッキングを大幅に減少させる。ブロックチェーンテクノロジーと切り離せない特徴が、重要な輸送データの全てを記録する、分散型で暗号化された台帳を作成できる能力である。重要な情報を変更または削除することが誰にもできないため、ハッカーによって改変することもできないのだ。
ブロックチェーンの特徴は、非効率のはびこる業界に対しては有望だが、そのテクノロジーはまだ初期段階に過ぎない。現時点の実装では、東アフリカからヨーロッパへの出荷には、最大30箇所の異なる業者たちからの承認が必要となる可能性があり、また目的地に到達するまでには、最大200回の異なる相互作用が発生する可能性がある。
これらの相互作用の多くは、荷主と運送業者との間だけでなく、規制当局、小売業者、卸売業者、さらには顧客との間でさえも発生する。グローバルな物流ブロックチェーンネットワークが効果的に機能するためには、すべてのステークホルダーの参加が必要だ。
物流と貨物の将来は、ブロックチェーンに大きく依存することになる。世界各地の荷主たちは、現在でも、とりあえず輸送コンテナを追跡するための既存の手段は持っているし、ブロックチェーンに批判的な人びとは貨物輸送業界の追跡機能を完全に作り変えることは、大変過ぎる作業だと主張している。それでも業界のリーダーたちは、サプライチェーンを追跡するためのブロックチェーンの可能性を、既に認識している。
世界最大のコンテナ運送会社Maersk Lineは、既にIBMを提携を行い、それぞれの出荷に伴う膨大な事務処理を削減するために、貨物輸送の追跡へブロックチェーンを適用しようとしている。
荷主と運送業者たちは、ブロックチェーン技術の進歩が、この先何年もの間業界の成長を支えてくれるだろうと、楽観視している。
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(翻訳:Sako)