10年ぶりの新規参入、スマホ証券「One Tap BUY」が今日ついにローンチ

TechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトル決勝戦で審査員特別賞とAWS賞を受賞したり、2015年12月に金融商品取引業者として登録完了したことなどを順次お伝えしてきたスマホ証券のスタートアップ「One Tap BUY」が、4月末から続けてきた1000名規模のクローズド・ベータ期間を経て、本日正式にアプリ(サービス)をローンチした(iPhoneアプリAndroidアプリ)。

One Tap BUYは名前の通りに手軽さをウリにしている。既存のオンライン証券会社が提供するアプリだと、売買手続きに16〜18タップが必要なところ、One Tap BUYは3タップで終わる。ローンチ時点ではアメリカ株の取り扱いだけとなるが、FacebookやGoogle(Alphabet)、コカ・コーラやウォルト・ディズニー、スターバックス、COACHといった日本人にも親しみのある海外ブランドの株式を1万円という少額から購入可能だ。

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口座開設や使い方の説明もスマホネイティブ

口座開設もアプリ上からできる。住所氏名や投資経験などに回答して、運転免許証や住民票など本人確認書類の写真、そしてマイナンバーの番号を入れて写真をスマホで撮影する。後は書留で送られてくる書類に従ってログインするだけで完了だ。金融機関にありがちな大量の書類が送られてきてハンコをつくような面倒がなく、これまで投資経験がない層に対してハードルを下げる工夫が感じられる。

アプリ内からダウンロードできるマンガでは、実際の運用や銘柄選びのヒントを解説している。口座登録の流れと売買の様子を説明する「マニュアル」もマンガ。想定ターゲット層のひとつの類型と思われる若い女性が登場人物となって、初めての投資を体験している様子がマンガ仕立てで分かるようになっている。個別銘柄の創業(者)ストーリーや投資運用のミニ講座などもアプリ上にあるマンガとして読める。TechCrunch Japan読者なら、米Yahoo!創業物語がどう描かれてるかとかは気になるところかも。ウォーレン・バフェットの教えなんかもマンガになっている。

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ポートフォリオの円グラフを指でグルッと回して銘柄の持ち分比率を直感的なUIで変更したり、含み益のぶんだけを売ったりできるなど、従来の株取引アプリと違ったアプローチが多く取り込まれている。このへんは株式投資を経験したことがない若い世代に対して、本気でお金のリテラシーを啓蒙しようというOne Tap BUYの考えが色濃く反映されているところだ。さらに大手銀行口座と直接つなぎ込みをして普通預金口座から直接株を売買できるような仕組み(実際には一旦資金はOne Tap Buyへ送られるが)を秋口に用意する計画であるほか、クレジットカード決済による小口の積立投資にも対応していくという。いったんネット証券の口座にまとまったお金を振り込んで、それを元手に売買をする従来のネット証券の方式とは異なるアプローチでハードルを下げていくそうだ。

売買の約定は24時間可能。これは委託取引ではなく、いったんOne Tap BUYが株式を事前に仕入れて在庫や評価額の変動リスクを引き受ける相対取引としているから。こうした証券基幹システムは通常、野村総研や大和総研、日本電子計算、日興システムソリューションなど数社のソリューションを使うことになるが、今回One Tap BUYはAWS上で自社開発したという。One Tap BUY創業者の林和人CEOによれば自社開発としたからこそ、新しい仕組みを取り入れることができたのだという。

One Tap BUY創業者でCEOの林和人氏

One Tap BUY創業者でCEOの林和人氏

1%の利用者が高速売買をしているのが現状のネット証券市場

既存証券会社による子会社設立や、事業譲渡による参入などはあったものの、過去10年ほど新規設立のネット証券会社というのは登場していない。東証での個人投資家の売買代金もライブドアの株式分割ごろの約180兆円をピークに、ライブドアショック以後の近年は50〜60兆円と低調。アベノミクスで少し増えているものの、まだまだ低いままだ。

取引している金額ベースでいっても、その6割程度は月100回以上の売買を行ういわゆる「デイトレーダー」によるものだそう。ネット証券の口座自体は1800万程度はあるが、売買が活発なのは、このうち約1%の口座に過ぎない。ネット証券会社の登場によって以前よりは株式売買が身近になったとはいえ、日本における個人の株式取引の大部分は、今も一部のデイトレーダーの投機だけとなっているということだ。

「1%の人が回転売買をしているだけ。政府は貯蓄から投資へとは言ってるが、貯蓄から『投機』へとは言っていない。ここに何らの歪みがある。その歪みを解消すれば大きな市場があるだろうということです。そこに大義を見出しています。ネット証券は現状1800万口座にすぎないですが、日本の成人人口は約6000万です。銀行口座はみんな持っていますよね? 証券口座もそんなふうになればと思っています。例えば郵便局の学資保険は6兆円の市場なのですが、それよりこっちのほうがいいといって、10年、15年とスマホで子どものために積み立ててあげる。そういうふうになればと思っています」(林CEO)

今は若者でも、いずれ10年で稼ぐようになる

日本の個人資産の約1800兆円のうち約半分が現預金となっていて、欧米などに比べると中長期の資産運用ができていない(例えば日本銀行調査統計局のPDF資料参照)。個人資産に占める金融商品の割合はアメリカだと約半分、日本では6.3%にすぎない。この眠っている個人資産を動かすべく、例えばロボアドバイザーのWealthNaviTHEO、それからFolioなどが資産運用系のFintechスタートアップ企業が出てきているわけだ。

One Tap BUYが取り組もうとしているターゲット層の1つはスマホネイティブの若者。しかし、若者だと投資の金額的にも極めて少なく、動かないものはやっぱり動かないのでないか?そう尋ねると、林CEOからは次のような答えが返ってきた。

「以前に中国株専業のネット証券会社を創業して売却したのですが、そのとき15年やって分かったことがあります。当初20代とかで株式やったことのない人たちだった顧客層も年齢が上がっていくということです。事業を売却したとき、利用者の平均年齢は43歳となっていました。だからOne Tap BUYで取り込む若年層だって、10年も続ければ、いまはアルバイトでも、いずれお金を稼ぐようになるでしょう」

証券会社を立ち上げてエグジットした経験のある林CEOは、単にモバイルの証券会社を立ち上げようというのではなく、「貯蓄から投資へ」という課題に取り組むという中長期のビジョンのもとに事業を開始したという。既存ネット証券と同じようなアプリを出したところで状況が大きく変わることはないとしたら、そこに自分が取り組むほどの意義はないということだろうか。林CEOの言葉の端々には連続起業家としてのやり甲斐の見出し方と、さわやかな覚悟が読み取れた。

「すでに(起業家としてのエグジットは)1回やってるので、次にやるというなら違うことをやりたいんです。この歳(52歳)になって起業しようと思うと、新しいこと、大義が必要です」

「もちろん成功するかどうは本当に分かりません。やっぱり日本には高速売買しか市場がなかったね、ということになる可能性はあります。えっ、そうなったらですか? まあ、そのときは会社を畳むしかないですよね(笑)」

すでに事業計画ではIPOを見据えた数字を積み上げているというが、本当に市場があるかどうか分からない。国内VCや金融リテラシーの高い人たちの中には、One Tap BUYを見て「あんなのただのUIにすぎないでしょ」と肩をすくめたり鼻で笑う人もいる。だけど、型破りの新ネット証券というのは、すごく価値のあるチャレンジだと思う。結局のところ欠けているのは経済的インセンティブや資産形成・保全の合理的行動なんかではなく、その前段階にある国民一般の金融リテラシーや投資の原体験なのではないか。One Tap BUYがそこを変えていくことになるか。サイト上から密かに募って行っていたベータテストの利用者1000人のうち6割は投資未経験者だったというし、今後も動向が注目だ。

 

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。