2021年には軌道上での燃料補給や製造が理論から現実へ変わる

軌道上を周回中の人工衛星や宇宙船に燃料補給したり、修理したり、さらには新しい機能を追加するというアイデアは、一般的には「理論としては素晴らしい」ものとされてきた。しかし、Maxar Technologies(マクサー・テクノロジーズ)、Astroscale(アストロスケール)、Orbit Fab(オービット・ファブ)のリーダーは、TechCrunch主催のTC Sessions: Spaceにて、2021年はそれが現実になる年だと語った。少なくとも現実的にはなるという。

ひとたび軌道に打ち上げられた衛星は、通常は減価償却する一方の固定資産とみなされる。次第に時代遅れとなり、やがて燃料が尽きれば軌道を外れる運命にある。だが、少し調整してやれば、いろいろなかたちで、桁外れに高価な宇宙船の寿命を延ばすことができる。新しい衛星を打ち上げるコストを思うと、そうしたビジョンが魅力的に見えてくる。

「打ち上げコストは下がり、同時に打ち上げ頻度、つまり宇宙に物を送り届けるケイデンスが高まっています」とMaxar Technologiesのロボティクス担当ジェネラルマネージャーLucy Condakchian(ルーシー・コンダクチェイン)氏は指摘した。「なので、小さな部品や、小さなペイロードや、その他もろもろのものが打ち上げられるようになれば、宇宙で物を組み立てることが可能になります。衛星の役割を変更することもできるでしょう。実際に動力システムの交換、カメラ装置やコンピューター関連要素の交換など、どんなことも、上に行ってやればいいのです」。

それこそが、MaxarとNASAが来年、これまでRestore-L(レストアエル)と呼ばれていたOSAM-1(オザムワン)で実証実験を進めようとしていることだ。この宇宙船は、軌道上でアイテムの保守、組み立て、製造を行う。ちなみにOSAMという名称は、Orbit(軌道)、Service(保守)、Assemble(組み立て)、Manufacture(製造)の頭字語だ。

「私たちに何ができるのかを宇宙で実証できれば、『はい、できますよ』という段階に達して、その道のずっと先にある好機の展開が期待できるようになります」とコンダクチェイン氏。同社の火星着陸専用ロボットアームは汎用性が実証されているので、その衛星用アームも幅広く活躍できると考えて差し支えないだろう。

Maxarは将来の宇宙船への機能の追加を目指しているが、それに対してAstroscale US(日本企業エアロスケールの米国法人)の社長Ron Lopez(ロン・ロペス)氏は、今の老朽化した宇宙インフラに期待を寄せている。

「軌道上での点検サービスを開発している企業はたくさんあります。それは、すでに軌道上を巡っているが、そうしたロボティック機能を持たない、あるいは将来、衛星のオーナーや運用者が軌道に留まらせるか否か判断する際に、そのようなロボティック機能を追加できる予算がない衛星を対象としています」と彼は説明する。

「この能力には、さまざまな使用事例があります」と彼は続けた。「例えば、衛星に異常が発生して保険を請求するときは、何が起きたのか、そして宇宙の状況をしっかり見極める必要があります。宇宙を飛び交う物体の増加が、みなさんの大きな懸念要素になっていることも、私たちはもちろん認識しています。何がどこで、何をしているのか、またそれが宇宙の他のオブジェクトに危険を及ぼさないかどうかを把握することが、非常に重要です」

シリーズE投資で5100万ドル(約53億円)を調達したAeroscaleは、数カ月以内に、軌道上の宇宙ゴミ(スペースデブリ)を検知して除去する実証実験ミッションを開始する。ゴミと言っても、ISSの船外活動で落とした予備のネジみたいなものではなく、軌道上に放置され、仕事もなく漂い続けている運用を終えた衛星などだ。それは何年間も宇宙に居座る。それらは、ちょっと押してやりさえすればよい。それで地球低軌道は、安全できれいになる。

Orbit FabのCEOで創業者のDaniel Faber(ダニエル・ファーバー)氏は、そもそもそうした状況に陥らないよう「宇宙のガソリンステーション」と彼が呼ぶものを構築しようとしている。ガソリンスタンドと言っても、地上にあるものとは少し違う。むしろ、ジェット機に燃料を補給する空中給油機に近いと言えば、なんとなく理解してもらえるだろうか。

「Orbit Fabが想定する未来は、宇宙経済が大いに協力的に賑やかになることです。すべての宇宙船にロボットアームを装着したところで、それは実現しません。何か不具合が発生したり壊れたりすれば、牽引トラックがどうしても必要になります。ロボットによる複雑なサービスも必ず必要になります。しかし現状では、点検保守を受けるように作られているものはありません。そのため、どんなタイプの宇宙船でも牽引できるトラックが必要なのです」と同氏は話す。

「衛星用ガソリンタンカーの製造は叶いませんでした。衛星に給油口がないからです。なので、私たちはそれを作りました」と同氏は同社のRAFTIコネクターについて説明した。現在、数十の提携企業がこれを各社の衛星に採用することにしている。「顧客の衛星に燃料補給できるようにするためには、その他の製品や技術を開発する必要もありました」。

同社のタンカーは、初めての軌道上テストを行う。その時期はもうおわかりだろう。来年だ。先日新たな資金調達を発表し、同社のシードラウンドは総額で600万ドル(約6億2000万円)に達した。それがテストの実現に拍車をかけたようだ。2021年は、宇宙産業のさまざまな分野にとってビッグな年になる。しかし、とりわけこの分野では、可能性が実証される時となり、その先の大な発展につなが年になることだろう。

関連記事
ロボットが軌道上で部品から宇宙船を組み立てるMaxarとNASAの実験
Astroscaleが約54億円を調達、静止衛星長寿命化や軌道上デブリ除去など業務を多様化
「宇宙のガソリンスタンド」を目指すスタートアップOrbit Fabがシードラウンドで6.2億円を調達

カテゴリー:宇宙
タグ:人工衛星、Maxar Technologies、Astroscale、Orbit Fab
画像クレジット:Maxar/NASA

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。