宇宙のガソリンスタンドOrbit Fabが地球静止軌道にあるAstroscaleのサービス衛星に燃料供給する契約を締結

軌道上における持続可能な運用のための新境地を開くようなパートナーシップが誕生した。「宇宙のガソリンスタンド」を標榜するスタートアップ企業のOrbit Fab(オービット・ファブ)は、稼働衛星の寿命延長サービスに取り組むAstroscale(アストロスケール)と提携し、同社が保有する寿命延長衛星「LEXI(Life Extension In-Orbit、レキシー)に地球静止軌道(GEO)上で燃料補給を行うサービスを提供する。

AstroscaleとOrbit Fabは、どちらも人工衛星の活動期間を延ばすことを目的とした技術を中心に提供する企業だ。Orbit Fabは、衛星が宇宙で燃料を容易に補給できるようにするための技術をてがけており、そのために軌道上で他の宇宙船が簡単に着脱可能な燃料移送インターフェイスを設計した。Astroscaleは、LEXI衛星を使って、静止軌道(GEO)上にある既存の衛星に接続し、コースを修正したり、新たな目標傾斜にリロケーションすることで、ミッションを拡張するサービスを提供する。

AstroscaleはLEXIを「燃料補給できるように設計された最初の衛星」と謳っている。これによってLEXIは、Orbit Fabの燃料移送インターフェース(Rapidly Attachable Fluid Transfer Interface、略してRAFTI)と軌道上燃料タンカーにとって完璧なターゲットカスタマーとなる。計画通りに進めば、2026年にはAstroscaleのLEXIの1号機が宇宙で活躍することになり、Orbit FabはLEXIに最大1000kgのキセノン推進剤を補給する契約を結んでいる。

Orbit Fabによると、同社では今後5年から10年以内に数十の燃料タンカーと燃料運搬船を打ち上げ、地球低軌道(LEO)とGEO、そしてNASAのアルテミス計画に伴って活発化するはずの地球と月の間のシスルナ空間に、これらの宇宙機を戦略的に配備する予定だという。計画通りに進めば、2023年にはOrbit Fabの最初の燃料運搬船2隻が、LEOで試運転を行うことになる。

画像クレジット:Astroscale / Orbit Fab

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

軌道上の燃料補給サービスを目指すOrbit Fabの資金調達に航空宇宙分野大手ノースロップとロッキード参加

サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のOrbit Fab(オービット・ファブ)は、軌道上における燃料補給サービスの第1人者になることを目指しており、その実現に向けて1000万ドル(約11億円)以上の資金を調達した。この資金は、早ければ2022年末に開始を予定している燃料補給実験に使われる。同社はこの実験で、2機の燃料補給シャトルを宇宙に送り、ドッキング、燃料の移送、ドッキング解除の3つのステップを繰り返し行う予定だ。

今回の投資ラウンドは、Asymmetry Ventures(アシンメトリー・ベンチャーズ)が主導し、既存投資家のSpaceFund(スペースファンド)と、新たな投資家として丸紅ベンチャーズおよびAudacious Venture Partners(オーデイシャス・ベンチャー・パートナーズ)が参加した。中でも注目すべきは、Northrop Grumman Corporation(ノースロップ・グラマン・コーポレーション)とLockheed Martin Ventures(ロッキード・マーチン・ベンチャーズ)の両社も出資に参加したことである。請負業者として競合する2社が一緒に投資を行うのは初めてのことだと、Orbit Fabの共同設立者であるJeremy Schiel(ジェレミー・シエル)氏はTechCrunchに語った。

「私たちはすべての船を引き上げる潮目のようなものです」と、シエル氏はいう。「どちらかの企業に競争力を与えるのではなく、宇宙における持続可能性のために、全体としてより良い選択肢を採ることができるのです」。

同氏のいう「2つの大手企業を仲良くさせること」は、宇宙空間での燃料補給という事業を有利に進めたい同社にとって、重要な鍵となる。2019年のTechCrunch Disrupt Battlefield(テッククランチ・ディスラプト・バトルフィールド)で最終選考に残ったOrbit Fabは、RAFTI(Rapid Attachable Fluid Transfer Interface、高速取付可能流体移送インターフェース)と呼ばれる給油バルブを開発しているが、この部品は宇宙機が地球を離れる前に設置する必要がある。つまり航空宇宙関連業者など大手顧客から、購買契約は衛星が軌道に乗る前に獲得しなけれはならないのだ。

関連記事:軌道上の人工衛星に燃料補給するスタートアップOrbit Fabが約3億2000万円を調達

RAFTIを搭載した宇宙機は、地球低軌道や静止軌道、そして最終的にはシスルナ空間(地球と月の間)に配置されたOrbit Fabの燃料補給シャトルとドッキングできるようになる。2025年までには、すべての宇宙機にRAFTIが搭載されるようになることを期待していると、シエル氏は語っている。さらに長期的には、小惑星から採掘した材料を使って宇宙空間で燃料を製造するという、より大きな目標を同社は掲げている。

「私たちは宇宙のDow Chemical(ダウ・ケミカル)になりたいのです」と、シエル氏はいう。「月面採掘業者や小惑星採掘業者の最初の顧客となって、彼らが採掘した材料を買い取り、それを使って実用的な推進剤を軌道上で製造できるようにしたいと考えています」。

Orbit Fabによると、軌道上での燃料補給は急成長する新しい宇宙経済の基盤となるもので、物品や宇宙機をある軌道から別の軌道に移動させる必要が生じたり(これには非常に多くの燃料が必要だ)、資源を地球に戻すためのサプライチェーンを構築する際に不可欠となる。

「私たちは、宇宙で製造する推進剤のサプライチェーンになりたいのです」と、シエル氏は付け加えた。

画像クレジット:NicoElNino / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

2021年には軌道上での燃料補給や製造が理論から現実へ変わる

軌道上を周回中の人工衛星や宇宙船に燃料補給したり、修理したり、さらには新しい機能を追加するというアイデアは、一般的には「理論としては素晴らしい」ものとされてきた。しかし、Maxar Technologies(マクサー・テクノロジーズ)、Astroscale(アストロスケール)、Orbit Fab(オービット・ファブ)のリーダーは、TechCrunch主催のTC Sessions: Spaceにて、2021年はそれが現実になる年だと語った。少なくとも現実的にはなるという。

ひとたび軌道に打ち上げられた衛星は、通常は減価償却する一方の固定資産とみなされる。次第に時代遅れとなり、やがて燃料が尽きれば軌道を外れる運命にある。だが、少し調整してやれば、いろいろなかたちで、桁外れに高価な宇宙船の寿命を延ばすことができる。新しい衛星を打ち上げるコストを思うと、そうしたビジョンが魅力的に見えてくる。

「打ち上げコストは下がり、同時に打ち上げ頻度、つまり宇宙に物を送り届けるケイデンスが高まっています」とMaxar Technologiesのロボティクス担当ジェネラルマネージャーLucy Condakchian(ルーシー・コンダクチェイン)氏は指摘した。「なので、小さな部品や、小さなペイロードや、その他もろもろのものが打ち上げられるようになれば、宇宙で物を組み立てることが可能になります。衛星の役割を変更することもできるでしょう。実際に動力システムの交換、カメラ装置やコンピューター関連要素の交換など、どんなことも、上に行ってやればいいのです」。

それこそが、MaxarとNASAが来年、これまでRestore-L(レストアエル)と呼ばれていたOSAM-1(オザムワン)で実証実験を進めようとしていることだ。この宇宙船は、軌道上でアイテムの保守、組み立て、製造を行う。ちなみにOSAMという名称は、Orbit(軌道)、Service(保守)、Assemble(組み立て)、Manufacture(製造)の頭字語だ。

「私たちに何ができるのかを宇宙で実証できれば、『はい、できますよ』という段階に達して、その道のずっと先にある好機の展開が期待できるようになります」とコンダクチェイン氏。同社の火星着陸専用ロボットアームは汎用性が実証されているので、その衛星用アームも幅広く活躍できると考えて差し支えないだろう。

Maxarは将来の宇宙船への機能の追加を目指しているが、それに対してAstroscale US(日本企業エアロスケールの米国法人)の社長Ron Lopez(ロン・ロペス)氏は、今の老朽化した宇宙インフラに期待を寄せている。

「軌道上での点検サービスを開発している企業はたくさんあります。それは、すでに軌道上を巡っているが、そうしたロボティック機能を持たない、あるいは将来、衛星のオーナーや運用者が軌道に留まらせるか否か判断する際に、そのようなロボティック機能を追加できる予算がない衛星を対象としています」と彼は説明する。

「この能力には、さまざまな使用事例があります」と彼は続けた。「例えば、衛星に異常が発生して保険を請求するときは、何が起きたのか、そして宇宙の状況をしっかり見極める必要があります。宇宙を飛び交う物体の増加が、みなさんの大きな懸念要素になっていることも、私たちはもちろん認識しています。何がどこで、何をしているのか、またそれが宇宙の他のオブジェクトに危険を及ぼさないかどうかを把握することが、非常に重要です」

シリーズE投資で5100万ドル(約53億円)を調達したAeroscaleは、数カ月以内に、軌道上の宇宙ゴミ(スペースデブリ)を検知して除去する実証実験ミッションを開始する。ゴミと言っても、ISSの船外活動で落とした予備のネジみたいなものではなく、軌道上に放置され、仕事もなく漂い続けている運用を終えた衛星などだ。それは何年間も宇宙に居座る。それらは、ちょっと押してやりさえすればよい。それで地球低軌道は、安全できれいになる。

Orbit FabのCEOで創業者のDaniel Faber(ダニエル・ファーバー)氏は、そもそもそうした状況に陥らないよう「宇宙のガソリンステーション」と彼が呼ぶものを構築しようとしている。ガソリンスタンドと言っても、地上にあるものとは少し違う。むしろ、ジェット機に燃料を補給する空中給油機に近いと言えば、なんとなく理解してもらえるだろうか。

「Orbit Fabが想定する未来は、宇宙経済が大いに協力的に賑やかになることです。すべての宇宙船にロボットアームを装着したところで、それは実現しません。何か不具合が発生したり壊れたりすれば、牽引トラックがどうしても必要になります。ロボットによる複雑なサービスも必ず必要になります。しかし現状では、点検保守を受けるように作られているものはありません。そのため、どんなタイプの宇宙船でも牽引できるトラックが必要なのです」と同氏は話す。

「衛星用ガソリンタンカーの製造は叶いませんでした。衛星に給油口がないからです。なので、私たちはそれを作りました」と同氏は同社のRAFTIコネクターについて説明した。現在、数十の提携企業がこれを各社の衛星に採用することにしている。「顧客の衛星に燃料補給できるようにするためには、その他の製品や技術を開発する必要もありました」。

同社のタンカーは、初めての軌道上テストを行う。その時期はもうおわかりだろう。来年だ。先日新たな資金調達を発表し、同社のシードラウンドは総額で600万ドル(約6億2000万円)に達した。それがテストの実現に拍車をかけたようだ。2021年は、宇宙産業のさまざまな分野にとってビッグな年になる。しかし、とりわけこの分野では、可能性が実証される時となり、その先の大な発展につなが年になることだろう。

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カテゴリー:宇宙
タグ:人工衛星、Maxar Technologies、Astroscale、Orbit Fab
画像クレジット:Maxar/NASA

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(翻訳:金井哲夫)

「宇宙のガソリンスタンド」を目指すスタートアップOrbit Fabがシードラウンドで6.2億円を調達

TC Disrupt 2019にて衛星カップリングシステムを披露するOrbit Fabの最高開発責任者Jeremy Schiel (ジェレミー・シール)氏

「宇宙のガソリンステーション」の構築に特化した企業を自称する、軌道上でのサービス提供を目指すスタートアップOrbit Fab(オービット・ファブ)は、シード投資ラウンドに新たな投資者を迎えた。この追加拡張投資は、Munich Re Ventures(ミューニック・リー・ベンチャーズ、世界最大クラスの保険会社ミュンヘン再保険グループのコーポレートベンチャー投資部門)によるものだ。Munich Reグループは、特に衛星運用者には非常に重要な保険会社であり、打ち上げ前、打ち上げ時、軌道上の運用をカバーする保険商品を提供している。

2019年TechCrunch Disruptバトルフィールドの最終選考まで勝ち残った経験のあるOrbit Fabのシステムは、基本的には、宇宙船を軌道上の給油所まで誘導する宇宙タグボートで成り立つ。給油所には、同社が注文に応じて製作するインターフェイスを使って接続できる。新しく衛星を設計する際に、比較的簡単に組み込めるようデザインされており、キャプチャーやドッキングのための特別なロボットシステムなどを必要とせず、宇宙空間で簡単に燃料補給ができる。

このスタートアップの目標は、宇宙船の寿命を延ばして宇宙デブリを減らし、運用者の経費を削減することで、持続可能な軌道上の商用運用環境の構築を助けることだ。Munich Re Venturesの参加は、衛星運用者の打ち上げと運用のリスクモデルに持続可能性が高く運用期間が長い宇宙船を組み込めるという点で、極めて大きな前進となるずだ。

「推進剤のサプライチェーンの立ち上げを見てみると、その大部分は財務モデルです」と、Orbit Fabの共同創設者でCEOのDaniel Faber(ダニエル・ファーバー)氏はインタビューで私に話した。「顧客のリスクを移動し、設備投資を運営費用に確実に移動し、それでいて新たなリスクを招かないようにするには、これをどう使えばよいのか。そのすべてを、Munich Reの財務商品、保険とリスクの評価に任せることができます。なのでこれは、大変に意味深いパートナーシップなのです」。

ファーバー氏は続けて、Munich Re Ventures のTimur Davis(ティムア・デイビス)氏が宇宙関連のカンファレンスによく顔を出すようになり、そうしたイベントでファーバー氏は彼と言葉を交わすようになったと話した。それがやがて、宇宙でのサービスと基盤整備を見すえたMunich Re Venturesの投資計画に発展し、Orbit Fabはその新計画を背景とした最初の投資先となったわけだ。

この新規投資によって、Orbit Fabのシード投資ラウンドの総額は600万ドル(約6億2000万円)に達した。この中には、ベンチャー投資企業からのものに加えて、米国政府からの200万〜300万ドル(約2億6000万〜3億9000万円)の資金援助も含まれている。同社はまた、新たにドッキングのための「自動運転衛星」キットを着想し研究を行っている。これには、米国立科学財団から予備的な要求開発のための資金を獲得し、現在、その設計製造に着手できる段階に至っている。2021年は、宇宙産業の新企業にとっては大きな年となる。持続可能で規模の拡張が可能な衛星運用というアプローチを掲げるOrbit Fabも、間違いなくその中の1つだ。

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カテゴリー:宇宙
タグ:Orbit Fab人工衛星保険持続可能性

画像クレジット:TechCrunch

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(翻訳:金井哲夫)