かつては電気自動車の分野において素人だったVolkswagen(フォルクスワーゲン)が今、その未来をテクノロジーに賭けている。3万3995ドル(約370万2700円、連邦政府または州による補助金の適用前の価格)から入手可能な5人乗りフル電動クロスオーバーである新しいフォルクスワーゲンID.4は、EVを主力製品にしようとするフォルクスワーゲンが初めてグローバル市場を目指して取り組んだ成果であり、2050年までにカーボンニュートラルを実現するというさらに大きな目標への一歩でもある。
結論から言えば、VW ID.4は、バランスよく融合されたテクノロジー・快適性・デザインをより手頃な価格で提供しており、Tesla Model Y(テスラ・モデルY)のような手頃な価格帯のモデルが少ないために空白地帯が残っている市場の一部を攻略しようと狙っている。VW ID.4のテクノロジーは堅実なもので、現実離れしすぎてクロスオーバーの平均的な購入者がしり込みするということはないが、1つ問題がある。充電拠点が不足しているために、他社の充電ステーションを見つけてそこに行かなければならないのだが、それがかなり面倒で、手間がかかるのだ。
VWの製品担当シニアマネージャーであるMark Gillies(マーク・ギリース)氏はTechCrunchのインタビューに対し「当社は、富裕層だけでなく、他の何百万人もの人々にも乗ってもらえる大衆向けの電気自動車メーカーになりたいと思っています」と述べた。
その言葉に偽りはないだろうが、ちょっとした問題がいくつかある。例えば、インフォテインメントシステムの反応が少し遅い。これは近日中に予定されているアップデートで改善されるだろう。また、前述のように充電拠点が不足している。もしフォルクスワーゲンがこれらの問題に取り組むことができれば、VW ID.4は活況を呈するクロスオーバー市場にしっかりと食い込む可能性がある。しかし、大衆がガソリン車に近いドライビング体験を提供する完全電動自動車を望み、VW ID.4が「大衆向けのクルマ」になる未来は実現するだろうか。
2021年のフォルクスワーゲンID.4クロスオーバーは、VWブランド初のグローバル市場向け全電動自動車だが、VWグループ全体としては以前にも消費者向け電気自動車を発売したことがある。VWグループは、2013年にすでにカリフォルニア州限定のフォルクスワーゲンe-Golf(e-ゴルフ)を発売しており(2020年販売中止)、同社のラグジュアリーパフォーマンスブランドPorsche(ポルシェ)では、2019年に全電動Taycan(タイカン)の販売を開始した。
発売当時のe-Golfは、同社にとってはどちらかというと二次的な位置付けで、カリフォルニア州限定で販売された。カリフォルニア州では電気自動車や充電インフラのインセンティブ、環境規制が比較的しっかりしている。対照的にID.4は「Beetle(ビートル)以来最も重要なフォルクスワーゲンの市場デビュー」の1つであり、全米で販売される予定だ。
際立つテクノロジー
ID.4のダッシュボードレイアウトや車内の雰囲気を見ると、フォルクスワーゲンは、ガソリン車のデザインをベースにしたのではなく、テスラを参考にしたようだ。
ID.4のインテリアデザインは、自動運転の未来を感じさせる。ステアリングコラムもインフォテインメントシステムも、完全に無くなる日を思い浮かべることができる。モジュール式カップホルダー、収納スペース、ワイヤレス充電パッドを備えたセンターコンソールも、いずれは改造して乗客スペースを増やし、ID.4のインテリアのフィーリングを今よりもっとオープンで広々としたものにできるかもしれない。
ID.4にはPro(プロ)、Pro S(プロS)、1st Edition(ファーストエディション)の3つのトリムがある。Proには10インチのタッチスクリーンが付属しており、Pro Sと1st Editionでは、12インチのインフォテインメント用タッチスクリーンがダッシュボードの中央にマウントされている。
センタースクリーンの方に手を伸ばすと、システムに近づく手の動きを室内カメラが感知して、スクリーン内のアイコンが反応する。ID.4の車内にある数少ないハードタッチ式ボタンはどれも、どちらかというと医療機器グレードの触覚感知ボタンで、空調やオーディオから、オプションの固定式パノラマガラスルーフの遮光スクリーンの開閉や、ドライビングモード、ドライバーアシスト機能まで、あらゆるものをコントロールできる。コツをつかむまでに少し時間がかかるが、慣れてしまえば、スライダー式ボタンのように機能し、押す強さを少し変えたり、左から右に少しスライドしたりして、音量や温度を調整できる。
「ハロー、I.D.」
フォルクスワーゲンはこの新しいID.4で、ボタンの代わりにハンズフリーの音声コントロールを採用したが、我々が試乗したときは、このシステムはまだベータ版のように感じた。
ドライバーも同乗者も、タッチスクリーンまたは特定の音声コマンドを使って、ID.4の一般的な機能やインフォテインメントの多くを利用できる。「Hello I.D.(ハロー、I.D.)」というと、車内のどの方向から声が発せられたのか(同乗者なのかドライバーなのか)をシステムが感知して、フロントガラス下部の細長いライトが点灯し、その話者が次に発するコマンドに対応する準備ができたことが示される。
今のところ、使えるコマンドはかなり限られており、キーフレーズ(「ハロー、I.D.」)を言うか、ハンドルにある音声コントロールボタンを押して起動する必要がある。ナビゲーションコマンドなどの基本的なことに加えて「寒い」とか「ジョークを聞かせて」といったこともいうことができ、ID.4のシステムは、声が発せられた側の温度を上げたり、シートベルトにまつわるジョークを言ったりして反応する。
試乗したのはロサンゼルスやロングビーチの界隈のみだったのだが、システムの反応は他の市販の音声システムと比べてとても遅く、Sirius XM(シリウスXM)のチャンネル変更などの操作で、接続の確保がスムーズにできなかった(特定のチャンネルの数字や名前が見つからない、という音声が繰り返し流れた)。システムが機能しなくなることもよくあり、コマンドを認識できない場合や接続できない場合に最終的に音声コントロールシステムをキャンセルするのにも、約10秒かそれ以上かかった。
反応の遅いナビ
また、ID.4のナビゲーションシステムも少し反応が遅く、精度も良くなかった。それで、元に戻ってGoogle(グーグル)マップやワイヤレスAndroid Auto(アンドロイドオート)システムをナビとして使った。ちなみに、GoogleマップとワイヤレスAndroid Autoは、Apple CarPlay(アップルカープレイ)とともにID.4の全ラインアップに搭載されている。しかし、ID.4に搭載されたナビゲーションシステムには、曲がり角に近づくとフロントガラスに沿った細長いライトの右側または左側が光って、進むべき方向を示してくれるという便利な機能がある。
インフォテインメントの画面は、ちょうど携帯電話かタブレットの画面のようだ。アプリのページやウィンドウをスワイプしていくと、目的のページにたどり着く。残念ながら、反応の遅いネットワーク接続(インフォテインメントシステムでは4G接続のバーが3~5本表示されているのにも関わらず)と、時間のかかる読み込みが相まって、ページをスワイプしているときに時々画面がフリーズし、次のページを読み込んでいるときにページの半分のみが表示されることがあった。
ここで補足説明をしておく。筆者は幸運にも、ロサンゼルスの記者のために用意された試乗用車両のうち複数台について、十分な時間をかけて試乗する機会が3回あったのだが、遅延やフリーズを経験した車両は1台だけであった。フォルクスワーゲンの広報担当者の話では、試乗車のソフトウェアは顧客が受け取る最終バージョンではなく、オーナーに届く前にアップデートされるので、筆者が経験した奇妙なもたつきや音声コマンドの問題は解決されるはずだという。
ID.4には、Car-Net(カーネット)サービスを通じて2021年中にAlexa(アレクサ)の機能も搭載される予定だ。これには、離れた場所からクルマをモニタリングするのに役立つ、シンプルで使いやすいアプリが含まれる。オーナーはこのアプリにログインして、自分のID.4の位置、バッテリー残量、充電状態を確認できる。
VWは、メイン計器パネルや変速レバーの配置を含め、ID.4車内のデザインについて数多くの興味深い選択をしている。通常のクルマのようにこれらのアイテムをダッシュボードやセンターコンソールに取り付けるのではなく、直接ステアリングコラムに取り付けた。ハンドルを動かすと、計器パネルとトランスミッションつまみも一緒に動く。ハンドルに取り付けられた5.3インチの画面上で、スピードや移動方向から、航続距離、走行距離、基本的なナビゲーション情報まで、あらゆる情報が提供される。運転モードの切り替えには、標準的なボタンやシフトレバーではなく、ハンドルの右側にあるひし形のつまみを使う。
ID.4の始動・停止ボタンはコラムの右側のあまり目立たない所にあるが、そのことはあまり問題ではない。クルマを開錠して運転席に座ると、ID.4の電源が入り、運転の準備ができる。シートベルトを外して車から出ると、ID.4の電源が切れる。クルマに友人や家族がいるときにちょっとした用事で外に出る場合などは少し面倒だが、ID.4の乗客は、ドライバーが車内にいなくても、インフォテインメント画面に表示されるコントロール項目を使って、少しの間エアコンや暖房などを続けて使うことができる。
EVへの乗り換え
フォルクスワーゲンは、自社の調査でクロスオーバーオーナーの約30パーセントが電動クロスオーバーを検討することがわかった、と述べている。ID.4が参入するのは、トヨタRAV4やホンダCR-Vなど、ガソリン車やハイブリッド車の超人気モデルがひしめく競争の激しいクロスオーバー市場だ。フォルクスワーゲンは、自社の調査に基づいて、消費者はまったく航続距離の心配をしないはずだと述べている。ほとんどのクロスオーバーオーナーの走行距離は1日あたり約60マイル(約97キロメートル)で、バッテリーシステムの航続距離はEPA推定で約250マイル(約402キロメートル)だからだ。ID.4は、125キロワットで、5パーセントから80パーセントまで38分で充電できる。
家でのフル充電には約7.5時間かかると推定されているが、外出時の場合、フォルクスワーゲンはID.4のオーナーに、最初の3年間はElectrify America(エレクトリファイ・アメリカ)のDC急速充電器を無料・無制限で使える特典を提供している。良い話だが、少し補足説明が必要だ。フォルクスワーゲンは、ほとんどの人が通常の住宅電源で一晩充電すると予測していると述べており、オーナーが外出先で公共の充電ステーションを使う頻度はそれほど高くないと同社が予測していることは明らかである。なぜなら、少なくともID.4の発売時点では、利用可能な充電ステーションをスムーズに見つけることは難しいからだ。
エレクトリファイ・アメリカはVWの子会社だが、その営業体制はフォルクスワーゲンとは完全に切り離されている。エレクトリファイ・アメリカは、全国で550の充電ステーションと2400を超えるDC急速充電器を運営しており、ID.4の車載ナビでも「充電ステーション」を検索できるが、ナビには近くの充電ステーションがすべて表示され、どれがオンラインで利用可能かはわからない。オンラインで利用可能なエレクトリファイ・アメリカの特定の充電器を見つけるために、オーナーは携帯電話を取り出して、エレクトリファイ・アメリカのアプリを開く必要がある。それから、特定の充電器の位置情報をAndroid AutoやApple CarPlayに送ってナビゲートできる。残念ながら、現時点では、エレクトリファイ・アメリカのアプリはAndroid Autoに表示されない。
このプロセスはかなり面倒で、充電ステーションに向かう前に安全に終わらせるには、オーナーはクルマを路肩に止める必要がある。少なくとも現時点ではそうだ。フォルクスワーゲンは、2021年中に実現する無線アップデートによって、エレクトリファイ・アメリカのステーションと車載ナビがもっとシームレスに統合されると述べている。
朗報がある。Pro Sモデルと1st EditionモデルのEPA推定換算燃費は、市街地走行で104 MPGe(ガソリン換算でリッターあたり約44キロメートル)、幹線道路走行で89 MPGe(同約38キロメートル)、市街地走行と幹線道路走行の組み合わせで97 MPGe(同約41キロメートル)である。
ID.4の際立った特徴の1つは、運転方法だ。ID.4のトランスミッションモードには、Bモードつまりブレーキモードが含まれている。これはどの電気自動車にもある、ことの他便利な設定で、1つのペダルで運転ができる。ブレーキから足を放すと、ID.4は少しスピードダウンし、電気を再生してバッテリーに送り返す。これは、交通渋滞にはまったときに真価を発揮する優れた機能で、フォルクスワーゲンは意図的に、ワンペダル運転を他の電気自動車ほど挑戦的なチューニングにはしていない。初めて電気自動車のオーナーになる人が馴染みやすいようにするためだ。
路上では、ID.4は安定感があり、見かけほど大きくは感じない。俊敏だが、出足が速すぎるわけではなく(VWは0~97キロメートル毎時のタイムを公表していない)、手に汗握るということはない。確かに、タイヤから煙を出して走ったり、ロケットのように駆け抜けるクルマではない。
かなり丸みを帯びた形をしているので、路上でスピードを出すとわずかに風切り音がするが、乗り心地は快適で安定感がある。時速32キロメートルを下回るスピードでは(バックにしたときも)、あの特徴的な電気自動車の音を出して歩行者に注意を促す。ウィンドウが閉まっていると車内では気づきにくいが、ガレージで車の手入れをしている隣人のそばを通ると、きっと家に着いたときに「宇宙船のような音がするクルマを運転していたのはあなたですか」と尋ねるメッセージが届くかもしれない。
ADAS(先進運転支援システム)の形式と機能
VWのTravel Assist(トラベル・アシスト)は、同社のレベル2自動運転システムのブランド名である。このシステムは時速0~153キロメートルの範囲で機能する。Travel Assistは、適応可能なクルーズコントロールと車線維持システムの両方を使って、前方の道路と他車に追従する。オートバイが突然車線に入ってくれば、計器画面上でオートバイの画像が車の直前に表示される。そのオートバイがランダムに急ブレーキをかける場合、ID.4はそれに対応して自動的にブレーキをかける。前方の交通が停止した場合、ID.4のTravel Assistは流れが再開するまで待機する。Travel Assistは、交通の動きに対する人間の反応に非常に近い反応を示す。異常に長く待って車間距離が開きすぎる(車列が間延びする原因になる)ことも、加速しすぎることもない。
このシステムは、ひどい交通状況での長時間運転を耐えやすいものにしてくれる。筆者は、ラッシュの時間にロサンゼルスの405号線で激しい渋滞にはまり、通勤に1時間かかったが、その間も、システムを稼働させ続けるために静電容量方式のハンドルに軽く手を置いておくだけでよかった。
スケートボード型パワートレイン
VW ID.4には、MEB(モジュラー・エレクトリック・ドライブマトリックス)と呼ばれる新しいスケートボード型プラットフォームが採用されており、201馬力、310ニュートンメートルのトルクを発生するAC永久磁石同期モーターがクルマの後部、後軸の上に搭載されている。これは旧型ビートルによく似ている。発売時点では後輪駆動モデルしかないが、2021年の終わりまでには302馬力の四輪駆動モデルが発売される予定だ。
フォルクスワーゲンは、ID.4のバッテリーをパナソニックから購入し、82キロワット時、12モジュール、288パウチセルのバッテリーパックを中国とドイツの自社工場で組み立てる。間もなく米国の工場で生産が始まる予定で、電気モーターもフォルクスワーゲンが自前で作る。
すべてが詰まったVW ID.4によって、電気自動車は、Jaguar I-Pace(ジャガー・Iペース)、Tesla Model Y、Polestar(ポールスター)、Audi e-tron(アウディ・eトロン)など、高価でラグジュアリーな全電動クロスオーバーを買う余裕のないクロスオーバー購入希望者層にも手の届きやすいものになる。
さらに、VW ID.4には7500ドル(約81万6000円)もの割戻金が支払われる可能性を考えると、ホンダCR-VやトヨタRAV4をはじめとする人気の高いガソリン車クロスオーバーにも十分対抗できる。VW ID.4が真に際立っているのは、先進のテクノロジーと手頃な価格が、航続距離を心配する必要のない魅力的なEVの中で融合している点である。VW ID.4は「大衆向けのクルマ」になるだろうか。その答えが出るまで、今しばらく見守ることにしよう。
カテゴリー:モビリティ
タグ:Volkswagen、レビュー、電気自動車
画像クレジット:Volkswagen
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(文:Abigail Bassett、翻訳:Dragonfly)