3Dプリントによる次世代小型バイオリアクターの開発でStämm Biotechが約20億円調達

この1年、細胞を使った食肉加工や微生物を使った医薬品製造など、バイオマニュファクチャリングが盛んに行われるようになっている。しかし、合成生物学は、バイオリアクターという重要な装置なしには成り立たない。生物学を利用した製造業の実現に向けて、世界中でさまざまな議論が行われているが、ある企業ではすでに最も重要な装置を再考に取り組んでいるしている。

2014年に創業されたStämm Biotechは、工業用やベンチトップのバイオリアクターにすら見られるタンクとチューブとつまみの集合体とはかなり異なっているデスクトップ型のバイオリアクターを開発している。ブエノスアイレスに拠点を置く同社はこのほど、1700万ドル(約20億円)のシリーズAを発表、これまでのシードとプレシードのラウンドを合わせると総調達額は2000万ドル(約23億円)になった。

Stämmが行っていることを理解するために、バイオリアクターは通常どのような形状で、その中で何をしているのかをまず知ろう。基本的には、工業用のバイオリアクターは、巨大な滅菌タンクだ。タンクの中に、特定のタイプの細胞や微生物を育てるための培地があり、それらが目的の製品を生産したり、あるいはそれ自体が製品そのものだ。

これらの細胞培養の工程はまず全体がモーターで撹拌され、冷却液を使って正しい温度を維持し、正しい量の酸素を供給、または無酸素状態を維持してその成長を促す。この工程はタンクではなく使い捨ての袋を使っても行うことができ、別のものを育てるときのタンクの滅菌作業を省略できる。

Stämmの方法は要するに、以上の工程からタンクと撹拌とチューブをなくしてしまう。その代わりに同社は、独自に開発した3Dプリントの基本装置を利用して、微小な流路の稠密なネットワークをプリントし、そこを細胞が通過する間に必要な栄養と酸素を供給される。そしてこの動きが、撹拌の役をする。

液体の流路が3Dプリントされる様子。細胞と酸素と栄養はさまざまな場所で加えられる。(画像クレジット:Stämm Biotech)

流路の設計はStämmのソフトウェアを使って行う。Stammの共同創業者でCEOのYuyo Llamazares(ユヨ・ラマザレス)氏によると、その工程全体を、クラウド上のCDMO(医薬品製造受託機関)と考えることができる。

「バイオ製品を開発する意志と、現在、市場に出回っているツールの能力との間に、大きなギャップがあることに気がつきました。そこで、それを自分の問題として解決しようと考えたのです」とラマザレス氏はいう。

バイオマニュファクチャリングは、製薬や化学、テキスタイル、香料、そして食肉に至るまで、多様な分野で、その細胞からものを作るという考え方が、次世代の生産技術として大きな関心を寄せられている。

たとえば150億ドル(約1兆7275億円)の評価額でIPOに至ったGinkgo Bioworks(時価総額は72億4000万ドル[約8338億円])は、製薬とそれ以外の分野の両方でバイオマニュファクチャリングの応用に積極的に取り組んでいる。しかしそんな、世界を変えるような製造技術も、エビデンスは少しずつ漏れてきている。

バイオマニュファクチャリングが約束していることはどれも、バイオリアクターがなければ実現しない。Stämmのアプローチは、マイクロ流体力学を利用してリアクターのサイズを小さくする。

3Dプリントされた部品の中を流れていく液体をCGで表現(画像クレジット:Stämm Biotech)

現在の同社の技術では、バイオマニュファクチャリングを行う設備の大きさを従来の数百分の一程度に縮小できる。しかしそれでも、これまでの大きなバイオリアクターに比べるとかなり小さい。Stämmのバイオリアクターの最大出力は約30リットルで、工業用に多い数千リットルではない。しかし、同社によると、そのプリントされた微小流路方式でも、理論的には約5000リットルまで可能だという。

技術のポテンシャルは大きいが、Stämmはまだ、その技術の商用化を始めたばかりだ。現在、同社はバイオシミラーの生産にフォーカスしているヨーロッパのバイオ製剤企業と協働しているが、他に検討しているパートナー候補は5社いる。計画では、同社が「パイロットスケール」に移行するのは2022年中となっている。

今は、パートナー企業が増えることがStämmの主な成功の証だとラマザレス氏はいう。「できるだけ多くのパートナーと直接の関係を持ちたいと考えています。それによって、私たちが開発した製品の有用性を確認したい」。

ビジネスの面では、まださまざまな問題がある。装置のコストについてラマザレス氏に確認すると、彼はコメントしなかった。そして彼は、クライアントが従来のマシンではなくマイクロ流体力学方式のリアクターを使い慣れて欲しいという。マシンとサービスの価格は未定だ。

「今は勉強の段階です。いろいろなビジネスモデルを理解し、クライアントとの対話に努めたいと考えています」とラマザレス氏はいう。

Stämmは、今回得た資金で社員数を倍増して200名にし、国際的なプレゼンスを拡張、さらに同社のマイクロ流体力学によるバイオリアクターとその制御に必要なツールの改良や開発を進めたいという。

このラウンドの新たな投資家は、リード投資家がVaranaで、他にVista、New Abundance、Trillian、Serenity Traders、Teramips、Decarbonization Consortium。そして彼らが仲間に加わった既存の投資家は、Draper Associates、SOSV、Grid Exponential、VistaEnergy、Teramips、,Cygnus Draper、そしてDragones VCもこのラウンドに参加した。

画像クレジット:Stamm Biotech

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(文:Emma Betuel、翻訳:Hiroshi Iwatani)

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TechCrunch Japan

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