ケーブルまたはファイバー。インターネットを自宅に引く際、米国に住む大多数の家庭に選択の余地はない。都市部のマンションではその両方から選択させてくれるありがたい大家さんがいる場合もあるかもしれない。しかし今やインターネットは猫の写真を投稿するためだけのものではなく、非常に多くの人があらゆる目的において依存しているツールであり、特にコロナ禍においては生活手段とも言える存在となっている。この状況下、より多くの選択肢と市場競争が必要とされているのは明らかだ。
ユタ州に拠点を置くWeLinkは、その選択肢になりたいと考えている。ミリ波スペクトルの5Gの進歩とハードウェアコストの急速な低下を利用して、同スタートアップは比較的安価なインフラストラクチャの設置コストで地域全体に高帯域幅の信号を送信できる無線基地局のメッシュネットワークを開発している。
この仕組みが投資家の目に留まり、Cisco(シスコ)と深い関わりのある通信系VC、Digital Alpha Advisors(デジタルアルファアドバイザーズ)がレベニューシェア(SaaS証券化のハードウェアバージョンの一種)との引き換えにエクイティファイナンスとデットファイナンスで1億8500万ドル(約192億円)の投資を行った。同VCはデットファイナンスを「成果ベースの財務構造」と呼んでおり、またWeLinkの取締役会には同VCのRick Shrotri(リック・シロトリ)氏とNeil Sheridan(ネイル・シェリダン)氏が参加する予定だ。
2018年、同スタートアップはCEOのKevin Ross(ケビン・ロス)氏とCTOのAhsan Naim(アサン・ナイム)氏によって設立された。ロス氏は2005年からワイヤレスインターネット事業に興味を持っていたものの、技術面においてまだ時は熟しておらず、また非常に高額だった。「私は当時、15年か20年程時代の先を行っていたため技術が実際に商業化されるのを首を長くして待っていました」とロス氏はいう。やがて同氏はこの分野で会社を設立し、最終的にはBlackstone(ブラックストーン)が所有していたスマートホーム企業Vivint(ビビント)に売却したが、2020年65億ドル(約6800億円)でソフトバンクの一部門と逆さ合併を行っている。当時のVivintのバイヤー、Luke Langford(ルーク・ラングフォード)氏はLucid Software (ルシッドソフトウェア)という別のスタートアップに移ったが、最近社長兼COOとしてWeLinkの経営に加わった。
我々はワイヤレスインターネットについて過去10年以上にわたって注目してきたが、これといった成功例は特に見当たらない。しかしロス氏は信頼性の高いミリ波5G(約60〜70Ghz)と劇的に安いハードウェアコストを組み合わせることにより、高品質のワイヤレスインターネットへの扉がついに開けたと確信している(TechCrunchの親会社であるベライゾンにはファイバーサービスを提供する顧客が少なからずいるが、TechCrunchは編集部として独立しているためこの記事も差し障りないだろう)。
WeLinkの技術はメッシュアーキテクチャーを使用しており、これにより信号がファイバー接続のあるPoP(Point of Presence)ステーションに到達するため必要に応じて地域中の異なる基地局間を行き来することができる。典型的な戸建て住宅の場合、ロス氏によると10cm角の小型基地局が屋根に「衛星放送のアンテナと同じように」備えつけられ、そこから自宅のルーターやWi-Fiステーションに接続される仕組みだ。
ロス氏によるとWeLinkのメッシュネットワークを機能させるのに多くの密度は必要なく、少ない数で広範囲をカバーすることができる。「地域での利用率が数パーセント程度でも十分な範囲をカバーできます。また5%以上はすぐに達成することができるでしょう」という。利用率が10%以上にもなると「充分過ぎる状況」になる。同社は「最大940Mbpsのダウンロード / アップロード」を提供すると伝えているが、もちろん実際のマイルはさまざまだ。帯域幅はケーブルインターネットとは異なり対称型のため、リモートワーク時代におけるビデオ通信や大容量ファイルのアップロードに適している。
また同氏によると、このシステムの導入にはこれまでインターネット回線のスタートアップにとって大きな障害となってきた市からの認可を必要としない。「通信アクセスポイントのPoP以外は何の許可も必要ないため手続きが最小限で済みます」。
WeLink初の立ち上げ地域はラスベガス郊外のネバダ州ヘンダーソンで、その後ツーソンとフェニックスなどアリゾナ州にも拡大し、今後数年間で10の市場に拡大していく予定だ。メッシュネットワークを機能させるのに十分な密度を持ちながらも、アンテナ間を遮らないような環境が整っている郊外の住宅地や分譲地が理想的な市場である。「初めは、主にドーナツ化現象の起きている大都市周辺のベッドタウンに焦点を当てていきます」とロス氏はいう。
価格設定は月単位のプランで月額80ドル(約8300円)、2年契約で月額70ドル(約7300円)。2年後の価格は「ロイヤリティディスカウント」として月10ドル(約1040円)の割引が適用される予定だ。
投資面においてはDigital Alpha AdvisorsのCiscoとのコネクションを重要視しているとCOOのラングフォード氏はいう。「シスコとの関係もありますし、インターネットサービスプロバイダーのスタートアップ企業として、予想以上の成功を収めることができ、またネットワークテクノロジー界のリーダー達と関わりを持っていけるというのは非常に魅力的です。彼らは大規模なビジネスに怯むことがありません」。負債モデルについては「希薄化をしないことによる利点も多くありますが【略】顧客を増やしていくための資本も持っているのも利点になります。」とラングフォード氏は語る。
ワイヤレスインターネットのスタートアップ企業は当然のことながら他にも多く存在する。支援者の顔ぶれからして最も有力なのはシアトル発のインターネットサービスプロバイダーStarlink(スターリンク)だ。しかしWeLinkの帯域幅は非常に高く5Gのメッシュアーキテクチャにより信頼性が高いため、同社のことを競合他社として見ていないとロス氏はいう。ケーブルやファイバーなど他のインターネット接続技術の実行が難しい地方市場では、Starlinkが競争相手になり得ると見ているようだ。
巨額のベンチャーマネーを費やした5G空間におけるこの真剣な挑戦が、いずれZoomの低画質と葛藤する人々を救い、高帯域幅インターネット界の市場競争の向上に貢献してくれることを願うばかりである。
カテゴリー:ハードウェア
タグ:WeLink、資金調達、ブロードバンド、メッシュネットワーク、5G
画像クレジット:MR.Cole_Photographer / Getty Images
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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)