2015年の春、中国の科学者のグループがCRISPR/Cas9テクノロジーを使って54ものヒト胚のDNAを改変した 。これらの内、28個では成功したものの、約半数である26個では改変は失敗し、ヒトの遺伝子改変の倫理性に関して科学界で熱い議論が巻き起こった。
現在アメリカではヒトのDNAをCRISPRを使って改変する事は認可されていないが、ペンシルバニア大学の研究者がCRISPRテクノロジーを初めてヒトに使用する研究を提案している。このプロポーザルは、遺伝子編集によりT細胞を改変し遺伝性の3種類のガン細胞を攻撃する能力をT細胞に付与するというものだ。
本日、連邦生物安全倫理委員会はペンシルバニア大学のグループがヒトの患者で研究を行うことを認可した。今後実際に研究を行うには研究が行われる予定のメディカルセンターで計画が承認される必要があり、食品医薬品局からの承認も必要だ。
プロポーザルによると初期のトライアルは15人までの患者を使用し、CRISPRテクノロジーをヒトに適用した際の安全性と実現可能性を見極める予定だ。この研究はテック出身の億万長者ショーン・パーカーの創設したParker Institute of Cancer Immunotherapyから手厚いサポートを受ける。この組織は様々な研究機関と協力してガンを撲滅することを目的に、この春正式に設立された。
科学者の間では、ヒトのDNAを操作することの倫理性に関して意見が割れている。このテクノロジーは遺伝子のヒモを切り取ることで様々な驚くべき芸当を可能にするものだ。例えば、微生物に蜘蛛の糸を作らせたり、致死的な病気を引き起こすDNAを取り除いたり出来る。
CRISPRの是非に関しては、一方の言い分によると、CRISPRを使えばこれから生まれてくる子供たちは自分の親からの遺伝のせいで健康な生活が送れないといったことがなくなり、そのうち遺伝的にガンを引き起こす原因すら単純に切り取って治してしまうことが可能になるという。
反対側の意見としては、CRISPRを使うことは、それが究極的に我々に何を引き起こすか分からないうちに、我々の遺伝的基盤をみだりにいじくりまわすことだという。中国で行われた実験ではゲノム上に意図しない効果がもたらされ使用したヒト胚のほぼ半数が死んだ。
ペンシルバニア大チームのリードサイエンティストであるCarl June博士が本日のウェブキャストで認めている通り、望ましくない遺伝子を切り取ってしまう技術は完璧ではない。ある種のPD-1とTCRの遺伝子は、それらが欠損すると肺腫瘍を抑える効果があることが示されているにもかかわらず、今回の処理後も残ってしまう。しかしながら、データによると後に残ったもののレベルは十分に低く、そのおかげでCAR T細胞と呼ばれる特定のT細胞がガン細胞を攻撃する効果が増す。
しかし、ペンシルバニア大のプロポーザルは、今日皆がこの分野で起こっていると想像していたよりも一段上を行くものだ。遺伝子編集を専門とするEditas(本年度初旬に株式公開)は2017年にCRISPRを使った最初の臨床試験を行うという。
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(翻訳:Tsubouchi)