FacebookがインドのReliance Jio Platformsに約6100億円出資

Facebook(フェイスブック)は10年以上にわたり、インドで圧倒的なリーチを謳歌してきた。だが、急速に成長する中国のByteDance(バイトダンス)が世界第2位となったばかりのインターネット市場で手ごわい競争相手として浮上してきたところで、米国のソーシャルメディアの巨人は次の10年に向けた賭け馬を見つけた。

世界最大のソーシャルメディア企業であるFacebookは4月22日、インドのReliance Jio Platforms(リアイアンス・ジオ・プラットフォームズ、Jio)に57億ドル(約6100億円)を出資し、9.99%の持ち分を取得すると発表した。Jioは、インド国内で最も価値評価の高いReliance Industries(リアイアンス・インダストリーズ)の子会社となって3年半が経つ。3億7千万人以上の加入者を抱えるインド最大の通信事業者だ。

Jioのバリュエーションはプレマネーで659億5000万ドル(約7兆円)。この出資でFacebookはインドの通信ネットワークにおける最大の少数株主となる。

Facebookはこの投資が「インドへのコミットメント」を示すものであり、Jioと協力して「成長するデジタル経済において人々と企業がより効果的に事業を運営するための新しい方法」を生み出すことに焦点を当てるとしている。これは、テクノロジー企業による世界最大の少数株主投資であり、インドのテクノロジー業界に対する最大の海外直接投資でもある。

Facebookの最高収益責任者であるDavid Fischer(デイビッド・フィッシャー)氏およびFacebook Indiaの副社長兼マネージングディレクターであるAjit Mohan(アジト・モーハン)氏によると、コラボレーションの可能性として、JioとReliance Retail(インド最大の小売チェーン)のeコマースのジョイントベンチャーであるJioMartとWhatsAppの組み合わせが考えられるようだ。WhatsAppにとってインドは世界最大の市場で、4億人を超えるユーザーを抱える。Facebookのウェブサイトによると、Facebookのインドにおけるユーザー数は約3億5000万人に達する。「シームレスなモバイル体験によって人々がビジネスとつながり、さまざまなモノを選び究極的には購入することが可能になる」と2人は語った。

Jioは2016年下半期に開業し、6カ月間にわたり大量の4Gデータと無料の音声通話を提供することで、地域の通信市場を一変させた。通信会社間で始まった価格戦争で、ローカルネットワークプロバイダーのVodafone(ボーダフォン)とAirtel(エアテル)はデータプランとモバイル料金の改定を強いられた。両社は国内で最大の通信事業者となったJioに対抗すべく奮闘している。

JioのユーザーへのアプローチがFacebookの関心事かもしれない。Facebookはインドで無料のインターネットを提供するFree Basicsを拡大しようとしたが失敗した(同社はその後、Express Wi-Fiをインドで展開したが、その規模と潜在性はまだ比較的小さい)。

Jioの事業には音楽ストリーミングサービスJioSaavnを含む一連のサービス、スマートフォン、ブロードバンド、オンデマンドライブテレビJioTV、決済サービスJioPayがある。

写真:Dhiraj Singh/Bloomberg via Getty Images

Facebookの共同創業者兼最高経営責任者であるMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏はブログ投稿で次のように述べた。「当社は金融投資を行った。ただそれ以上に、インド全土の人々に商取引の機会を開くいくつかの主要なプロジェクトに協力することを約束した」。

ここ最近の数四半期、Facebookは地域のスタートアップに関心を持ち始めている。昨年、同社はソーシャルコマースMeesho(ミーショー)に投資した。 今年の初めには、edtechスタートアップのUnacademy(アナカデミー)に小切手を切った。Facebookは2つのスタートアップにそれぞれ約1500万ドル(約16億円)を投資した。

モーハン氏は昨年のTechCrunchのインタビューで「当社はもっと多くの投資機会を求めており、インド市場向けのソリューションを構築するスタートアップと提携する用意がある」と語った。「当社が今行っている仕事を超える可能性があると思える分野ならどこでも、さらなる投資機会を探求したい」と彼は述べた。とはいえ、数十億ドル規模の投資はサプライズだ。

だがFacebookにとって、この取引にはもう1つの特典がある。Mukesh Ambani(ムケシュ・アンバニ)氏だ。インドで最も裕福なこの人物は、インドのNarendra Modi(ナレンドラ・モディ)首相と親密な関係にあり、同氏の会社は一貫して与党政府の政策提案を支持している。近年Facebookはモディ政権の下、インドでこれまで以上に精査されてきた。

アンバニ氏は声明で「2016年にRelianceがJioを立ち上げたとき、我々は『インドのデジタル・サルボダヤ(理想郷)』の夢に駆り立てられた。インドの包摂的なデジタル化は、すべてのインド人の生活の質を向上させ、世界をリードするデジタル社会としてインドを前進させる。従い、我々Relianceの全員がFacebookを歓迎している。Facebookは、すべてのインド人の利益のためにインドのデジタルエコシステムを成長させ変革し続ける、そのための長期的なパートナーだ」。

「JioとFacebookのシナジーがあれば、モディ首相の『デジタルインド』ミッションを実現できる。このミッションは2つの野心的な目標『生活のしやすさ』『ビジネスのしやすさ』をゴールとしている。すべてのインド人のすべてのカテゴリーにおけるミッションだ。例外はない。私はコロナ後のインドの経済の回復と最短期間での復活に自信を持っている。パートナーシップがこの変革に重要な貢献をするのは間違いない」とアンバニ氏は付け加えた。

10年以上の間、インド市場はFacebookとGoogle(グーグル)の2社が独占していた。Jioは消費者向けサービスを構築しているが、米大手企業のいずれかと直接競合するサービスはほとんどない。だが近年、ByteDance(バイトダンス)のTikTok(ティクトク)が、他社がリーチに苦戦しているユーザーを獲得している。TikTokはインドで2億5000万人を超えるユーザーを集めており(昨年時)、今年さらに1億人が加わる見込みだ。

Convergence CatalystのアナリストであるJayanth Kolla(ジャナンス・コラ)氏によると、TikTokはFacebookの見えないところで米国の企業ができなかったことをユーザーにもたらした。Facebookは予想通り、Lasso(ラッソ)という同様のサービスを構築しようとした。現在特定の市場でのみテストされているが、インドは含まれていない。

画像クレジット:Sanjit Das / Bloomberg / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。