スマートフォンのOSがプライバシー保護を重視する方向に変化すると、これまで陰で行われていたサードパーティー製アプリの活動が表沙汰となり、利益目的でユーザーの追跡や個人情報の収集を行う、巨大アドテック企業が展開した監視インフラが浮き彫りになってきた。
すなわち、今週末に一般公開されるiOS 13は、すでにFacebookの魅力的なアプリがBluetoothを使って近くのユーザーを追跡していることを突き止めたということ。
Facebookはなぜ、こんなことをしたがるのか?Bluetooth(およびWi-Fi)のIDをマッチングさせ、物理的な位置情報を共有することで、同社のプラットフォーム上でのユーザー同士の活動をデータマイニングして、少しずつ情報を集めてソーシャルグラフを補完していくのが狙いだ。
こうした位置の追跡は、個人が(少なくとも)近くにいたことを物理的に確認できる手段となる。
それを個人情報と組み合わせることで、Facebookは人々とつながり続け、位置そのものの性質に関連する周辺データ(例えば、バーにいるとか、家にいるとか)を確保できる。それが、Bluetoothという短距離無線通信技術を逆手に取って、近接していると判断された人と人の関係性を推論するための、明確な道筋をFacebookにもたらす。
個人を対象にしたターゲティング広告を収入源とするFacebookには、人の交友ネットワークを詳しく知りたい明確な商業的理由がある。
Facebookは、人々がデバイスの接続などの善良な目的で使用するBluetoothに便乗し、その広告ビジネスを人々と“ペアリング”しようとしている。その卑怯な手口がiOS 13によって摘発されたわけだ。
広告がFacebookの事業だと、CEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が米上院で話したことは、よく知られている。しかし、このソーシャルネットワークの巨大企業が出会い系サービスにも手を伸ばそうとしていることにも注目したい。同社はそこに、人々がどこで誰と時間を過ごしているかを詮索したくなる、新しい製品主導の誘因を持ち込もうとしている。
共通の好みなど無機的な信号に基づくアルゴリズムによるマッチメイキングは、別段、目新しくはない。今のところFacebookで考えると、同じページやイベントに「いいね」をしたといったものになるだろう。
しかし、誰が誰とどこでいつ会っているかといった、温かい血の通った信号(Bluetoothの機能を逆用して個人の物理的な位置を追跡することで人と人の交流に関する情報を収穫する)を加味すれば、Facebookは、人の行動をカーテンの影でこそこそ行っていた監視を、次のレベルに引き上げることができる。
Facebookのアプリのユーザーが、自分のデバイスで位置の追跡を許可すれば、つまり、位置情報サービスを有効にすると、人々の動きの追跡に対して無抵抗になってしまう。位置情報サービスは、GPS、Bluetooth、クラウドソースのWi-Fiホットスポットや携帯電話基地局の機能に関係している。
Facebookの出会い系サービスを使うには位置情報サービスが必要であることは驚きにあたらない。位置情報サービスが無効なとき、有効に切り替えるようアプリがユーザーに促すと、Facebookは私たちに明言した。またFacebookは、ユーザーが位置情報サービスを無効にしている場合は、位置の特定にWi-FiもBluetoothも使わないと私たちに述べている。
さらに同社は、ユーザーはいつでも位置情報サービスを無効にできると強調した。だが、Facebookの出会い系サービスを使いたくなければの話だ。
いつものとおり、Facebookはデータ処理の別々の目的をごちゃまぜにして、人々が自分のプライバシーを有効に守るための選択の幅を狭めている。そのため、Facebookの出会い系サービスのユーザーには、このサービスを使うか、またはFacebookによる物理的な位置情報の追跡を全面的に拒否するかの選択肢しかない。否が応でも、それしかない。
iOS 13の新しいプライバシー保護機能は、アプリのバックグラウンドでの活動をポップアップで知らせてくれるのだが、これは、AppleのCEO、Tim Cook(ティム・クック)氏が言うデータ産業複合体の不誠実な手法への明らかな対抗手段だ。手動でBluetoothの位置追跡(上記の例を参照)を無効にできる第3の選択肢を提供し、ある程度の管理権をユーザーの手に取り戻してくれる。
Android 10も、ユーザーによる位置追跡の管理権を拡大した。アプリの使用時のみ位置情報を共有できるという機能だ。しかしこのGoogle製OSは、アップルがきめ細かいポップアップで提示したものに比べるとずっと遅れている。
Facebookは、(自社にとって)厄介なスマートフォンレベルでのプライバシー保護環境の変化に対処すべく、先週、位置情報サービスの更新を行った。これは、iOSユーザーがiOS 13にアップデートした途端にFacebookのアプリから洪水のごとくあふれ出るであろうデータ取得関連の警告に、先手を打つものだ。
ここでFacebookは、「お知らせ」という形で通知を出し、バックグラウンドでの追跡戦術を積極的に表に引っ張り出そうとするアップルを混乱させる手に出た(ちょっと目先を変えただけで)。
Facebookは「Facebookでは、あなたの位置を知らせる相手を選べます」と主張するが、そこには厚かましいまでの矛盾がある(ユーザーはスマートフォンやタブレットの位置情報サービスを使って、追跡を拒否できると話している)。だが、位置情報サービスを無効にしても、Facebookがユーザーを追跡できなくなるわけではないことを、後から付け加えている。
自分の位置情報を収集して欲しくないという明らかなメッセージをFacebookにぶつけたところで、Facebookはそれを尊重するはずはない。あり得ない!
「それでも私たちは、チェックイン、イベント、インターネット接続情報などから、あなたの地位を把握できます」と書かれている。Facebookの「把握」という言葉をより深く理解するためには、これを「失敬」に置き換えるといい。
さらに厚かましいひと言は、個人情報の収集に対抗してOSがプライバシー保護対策を固めているのは、あたかもFacebookの手柄であるような主張だ。Facebookは、この前向きなお知らせを、こう締めくくっている。「私たちは、あなたがいつどのようにご自分の位置情報を共有するか、その管理方法をより容易にするための努力を続けてまいります」
広範な個人情報収集をもみ消すための誤解を招きやすい言葉(「容易にする」など)をFacebookが持ち出すのは、いつものことだ。しかしFacebookは、変革の風がびゅーびゅー吹きつけるなかで、プライバシーに関する罪を覆い隠す薄っぺらな木の葉が、いつまで耐えられると思っているのだろう。一寸先はわからない。
man, Safari is going to rattle a whole lot of cages over the next few months pic.twitter.com/innpwsLEVo
— alex hern (@alexhern) September 11, 2019
Safariはこれから数カ月間、檻という檻をガタガタ言わせるぞ!
[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)