キーボードアプリFleksyの共同創設者であるKosta Eleftheriou(コスタ・エレフセリウ)氏(後にPinterestが買収契約で獲得)は、自身のアプリFlickTypeが詐欺の標的になったことを受け、偽レビュー、評価、サブスクリプション詐欺、悪質なクローンアプリなどのApple App Storeの問題に注意を呼びかけてきた。そしてこの開発者はApp Store改革の次の一歩を踏み出し、Appleを相手に訴訟を起こそうとしている。
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米国時間3月17日にサンタクララ郡のカリフォルニア州上級裁判所に提出された同氏の訴えでは、Appleは、安全で信頼できる場所であると宣言して、iOSアプリケーションを合法的に販売できる唯一の場所であるApp Storeのためのアプリケーションを作るよう開発者を促しながら、合法的なアプリ開発者が手にすべき利益を搾取する詐欺行為から開発者を保護していないと申し立てている。
さらに訴状によるところでは、詐欺師たちがサブスクリプションを利用して収益を生み出しており、そこにはAppleとの収益分配が含まれているため、Appleはそのような行為に対して無関心になっているとされている。
エレフセリウ氏は個人的にApp Store詐欺師の影響を受けてきた。同氏はPinterestでの高収入の仕事を辞め、Apple Watch用のスワイプ型キーボードの1つであるFlickTypeアプリの開発に努めてきた。ローンチ後、このアプリは模倣アプリ制作者たちの標的となった。彼らは、自分たちのアプリがFlickTypeと同じ機能セットを提供していると主張しながら、貧弱なデザインのソフトウェアを提供し、ユーザーに高価なサブスクリプションを押し付けている。さらに偽の評価やレビューを大量に表示することで、ユーザーがこの分野でアプリを探しているときにはるかに優れた選択肢であるように見せかけることも行っている。
一方、FlickTypeは3.5星の評価を受けており、開発者によるコントロールの及ばないApple Watchプラットフォームの問題や、ユーザーの関心を引きそうな機能が欠けていることなどがたびたび指摘されている。しかし、エレフセリウ氏は自身のアプリのユーザーと関わりを持っている。苦情に対応し、ユーザーが要求した機能が追加されたりバグが修正されたりしたことを知らせている。詐欺師たちは、アプリの総合的な評価を高く保つために5つ星のレビューを十分な数購入するだけだ。
言い換えれば、エレフセリウ氏がApple Watch用のスワイプ式キーボードのカテゴリを築くApp Storeの開発者として懸命に働いている間、潜在的な収入はApp Store上の偽アプリが横取りしているというわけだ。
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Appleは何年も前から、アプリの品質問題に真剣に取り組んできた。同社は、疑わしいサブスクリプションアプリを一掃し、定期的なスイープを通じてApp Storeからクローンやスパムを削除した。かつては、アプリの品質基準を高めるためにテンプレートを使って作られたアプリを禁止したこともあったが、これはより専門的なアプリを作るためのリソースや資金がない小規模事業者の怒りを買った。(Appleはその後、ポリシーをより公平なものに変更した。)
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しかし新たな訴訟では、Appleは開発者の不正行為から利益を得ているため、詐欺師のアプリを取り締まっていないと指摘されている。エレフセリウ氏はまた、自身の会社であるKPAW, LLCを通じてこれらの問題をAppleに提起しているが、Appleはこの問題を解決するために「ほとんど何もしなかった」と述べている。
だが、エレフセリウ氏のストーリーはさらに複雑だ。同氏のアプリは、Appleの特別プロジェクトマネージャーを務めるRandy Marsden(ランディ・マースデン)氏と買収の可能性について話し合った後、App Storeから何度も却下されているからだ。エレフセリウ氏はTechCrunchに対し、Appleと数字についても協議され、会議にはディレクターやバイスプレジデントなどが参加したと語っている。訴状によると、AppleはFlickTypeをApple Watchの機能にすることを検討していたという。
その直後、競合他社のアプリが承認されたにもかかわらず、FlickTypeはApp Store Reviewガイドライン違反でApp Storeから削除された。エレフセリウ氏はDeveloper Relationsを通じて抗議したが、今後同じ問題を防ぐ方法については何も指導を受けなかったという。
その後数カ月にわたって、FlickTypeはApp Store Reviewから拒絶され続けた。このアプリは多くのメディアの技術系ジャーナリストたちが称賛しており、Appleも購入を検討したことがあるにも関わらず、AppleのApp Store Reviewは「貧弱なユーザー体験」を提供するものだと伝えている。App Reviewは開発者に「フルキーボードアプリはApple Watchには適さない」とも伝えているが、競合他社によるキーボードアプリの公開は認めている。
AppleのApp Reviewチームは、FlickTypeの統合可能バージョンのキーボードを使っているサードパーティーアプリも問題なく承認した。その中には、RedditのNano、TwitterのChirp、WhatsAppのWatchChat、InstagramのLensなどのWatchアプリが含まれている。
The App Store has a big problem
You: an honest developer, working hard to improve your IAP conversions.
Your competitor: a $2M/year scam running rampant.1/
— Kosta Eleftheriou (@keleftheriou) January 31, 2021
Appleが2020年1月にFlickTypeを承認した後、常に拒否されていたわけではない競合他社のキーボードによって、FlickTypeの収益はすでに1年にわたって損なわれてきたと同社は主張している。それでもFlickTypeはApp Storeの有料アプリトップ10に名を連ね、最初の1カ月で13万ドル(約1400万円)を稼いでいる。その成功の結果、すぐに詐欺師たちの標的になり、彼らは水増しされたほとんど使い物にならない競合アプリをローンチし、FlickTypeの収益を減らしたのだ。FlickTypeの月間売上は2万ドル(約220万円)に落ち込んでいる。競合各社はまた、偽のレーティングを使って人気を保ち、疑いを持たないユーザーにアプリをインストールさせていた。
エレフセリウ氏のストーリーは、結果的に特殊なものではなかった。同氏はここ数カ月、App Storeにおける数百万ドル単位の詐欺行為を記録してきたが、その中には同氏が直面したものだけでなく、同様の苦労を体験した開発者たちのケースも含まれている。ソーシャルメディアでの同氏の記述によると、Appleが何らかの対応をしたケースもあり、そうでないケースもある。また、詐欺アプリの1つを削除するだけで、同じ開発者アカウントの他のアプリが動作し続けることを許可しているようだ。
今回の新たな訴訟は、エレフセリウ氏が直面した問題についてAppleに責任を負わせることを目的としており、同氏が失った収益の回復と、裁判所が裁定したその他の損害賠償金の支払いをAppleに求めている。
Appleにコメントを求めたが、現時点で回答は得られていない。
訴状のコピーは以下の通り。検証のための公的記録検索にはまだ現れていない。この訴訟がオンラインで表示されるようになったら、状況に応じて更新する。
Kpaw, LLC対Apple, Inc、Scribdより、TechCrunch提供
カテゴリー:ネットサービス
タグ:Apple、App Store、アプリ、Fleksy、裁判
画像クレジット:TechCrunch
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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)