HTCが約5.7万円の小型VRヘッドセット「Vive Flow」発表、気になる大きなトレードオフ

米国時間10月14日、HTCはコンシューマー向けの最新ヘッドセット、499ドル(約5万7000円)の「Vive Flow」を発表した。このヘッドセットは、コンパクトなデザインと189gの重さで携帯性を重視して設計されているが、後で触れるいくつかの大きな注意点もある。

私はサンフランシスコでこのヘッドセットを実際に試用する機会を得たのだが、その時の第一印象は、いかにコンパクトでデザイン性の高いハードウェアであるかということだ。HTCは、他のヘッドセットでは見られない、小型化のために設計されたいくつかのハードウェア上の特性を備えている。「パンケーキ」のような光学レンズは、他の市販のヘッドセットよりも薄く、調整可能な視度レンズにより、ユーザーはヘッドセット内で視力を補正することができ、事実上Flowでは眼鏡を使用しなくても済む。ヘッドセット全体としては、他の既存のスタンドアロン型ヘッドセットよりもMagic Leap Oneに近い軽量なデザインとなっている。

その他の主な詳細としては、ヘッドセットの、毎秒75フレームレートで表示される片目あたり1.6Kの解像度(正確な解像度は公表されていない)と、HTCが主張する100度の視野角などが挙げられる。小さいレンズはIPD調整ができないため、それができるなヘッドセットの外側または内側の範囲を使用している人にとっては、おそらく視野が狭くなり、快適な体験ができなくなるかもしれない。本体前面のバグアイレンズには、パススルーカメラが隠されているが、今回はそれをいかしたコンテンツを試すことはできなかった。もう1つの興味深い機能は、ヘッドセット内部のファンが顔や目から熱気を吸い取ってくれることだ。HTCは、これにより長時間のセッションをより快適にしてくれると主張している。快適さという点では、Flowのデュアルヒンジアーム(近接イヤースピーカーを内蔵)と、一般的なヘッドセットのストラップと比較して、ヘッドセットの固定が非常に優れていることに驚いた。

画像クレジット:HTC

今回の試用では、デバイス自体の多くの要素が非常によくデザインされていることに満足した。つまり、HTCがハードウェアのデザインを刷新したことは明らかだ。これは、Oculus Questに比べて劣っているとの評価を受けた、コンシューマー向けの最後の製品である2019年の「Vive Cosmos」には当てはまらない。しかし、Flowのフォームファクターを実現するためには、明らかにかなり物議を醸すような選択が必要だったのであり、率直に言って、大型だがより充実した機能を持つ「Oculus Quest 2」よりも200ドル(約2万2800円)も高いこのヘッドセットの潜在的な購入者は、かなりニッチなものになってしまうだろう。

まず、499ドルのデバイスにはバッテリーが搭載されていない。ヘッドセットを使用するためには、外部バッテリーチャージャーやスマホなどの電源に接続する必要があるのだ。また、ヘッドセットには旧世代のQualcomm XR1プロセッサが搭載されているため、Quest 2のような競合ヘッドセットを最大限に活用するために設計されたほとんどのコンテンツはVive Flowに対応していない。最も不可解なのは、Vive Flowには専用のコントローラーや内蔵型入力端子がなく、ヘッドセット内のコンテンツを操作するための基本的な機能が使えるスマホ上のアプリに頼っているということだ。

これらのトレードオフを正当化するのは簡単ではなく、HTCはユーザビリティよりもフォームファクターを優先したことで、自身を厳しい状況に置いてしまった。今回は完全なレビュー用に設けられた時間ではなかったが、1時間ほどチームと会話をし、デバイスを触ってみて、Vive Flowがどのようなものなのかをかなり理解することができた。しかし、私があまり理解できなかったのは、このデバイスが誰のために作られたのかということだ。

ゲームには対応していないが、HTCはFlowをウェルネスとマインドフルネスのためのデバイスとして販売しており、MyndVRやTrippなどのVR瞑想アプリに対応していると説明している。HTCの広報担当者は、このヘッドセットのサイズが、ちょっとした瞑想の時間に最適であることを詳しく説明してくれたが、これらの瞑想アプリのほとんどはまだ開発の初期段階にあり、有料の顧客を獲得する方法を模索しているということを考えると、VR瞑想の市場が499ドルの専用デバイスを必要とするほど大きいかどうかは疑問が残る。このヘッドセットは、多くの人が主に動画のストリーミングに使用していたFacebook(フェイスブック)の、製造中止になった「Oculus Go」とかなり重なる部分があると思う。ユーザーはFlowでも、アプリ内でAndroidスマホのディスプレイを接続してミラーリングし、Netflixなどの通常のモバイルアプリを使用することで同じことを行うことができる。これは決して最も未来感のある使い方とは言えず、ヘッドセットの位置トラッキングもまったく活用されていないが、重量のある競合ヘッドセットよりも数時間装着していても快適である可能性が高いこの軽量デバイスにとっては、おそらく最も堅実性のある利用例と言えるだろう。

画像クレジット:HTC

多くのVR愛好家は、Facebook製ではない、フル機能を備えたスタンドアロン型ヘッドセットの選択肢を求めているので、このヘッドセットの用途がこのように絞られているのは残念なことだ。一般的にHTCは、Facebookがより多くの消費者を取り込むためにヘッドセットの価格を積極的に引き下げ始めて以来、VR市場でかなり厳しい立場に置かれている。Facebookは、最終的な市場支配のためにハードウェアを赤字で販売する余裕があるが、はるかに小さな企業であるHTCにはそのような余裕はない。また、Facebookが数十億ドル(数千億円)の投資を行ったことで、Facebookのものが、HTCがFlowに搭載しているものよりも数年先を感じさせるソフトウェアを備えた、より充実した製品になっていることも明らかだ。

HTCは長い間VRゲームに携わってきたが、Vive Flowのハードウェアデザインを見れば、彼らがVRの革新をリードする存在として認められる準備ができていることは明らかだ。この499ドルのヘッドセットにはいくつかの大きなトレードオフがあるが、その大胆なデザインと縮小されたサイズにより、ほとんどのVRデバイスについて言えることだが、忘れられてしまうということは決してないだろう。本ヘッドセットは、2021年11月初めには出荷される予定だ。

画像クレジット:HTC

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(文:Lucas Matney、翻訳:Akihito Mizukoshi)

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TechCrunch Japan

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