Infinitusが医療企業を対象とした「新世代のロボコール」で22.6億円獲得

ロボット・プロセス・オートメーション(RPA)は、人がより複雑な作業に集中できるよう、AIやその他のテクノロジーを効果的に活用して反復的な作業を自動化することで企業のIT分野を支えてきた。Infinitusというスタートアップがこの概念を医療分野に適用し、分断された米国の医療業界における音声通信プロセスを高速化すべく、これまでの沈黙を破り忽然と姿を現した。

例えば、医療提供者や薬局が保険会社へ電話する場合、支払い承認や手続きの前に通常一般的な質問を相手側の人間に尋ねるが、Infinitusは「音声RPA」を用いて音声を機械で生成することでこのプロセスを代行するというサービスを提供している。これらの会話はその後Infinitusのプラットフォームに取り込まれ、関連情報を解析して適切なフィールドに入力され、必要なアクションへと繋げられる。

同スタートアップは「ステルスモード」から脱したところだが、実はすでに数年前から存在しており、医薬品卸大手のAmerisourceBergenなど多くの大手ヘルスケア企業と契約を結んでいる。また、現在のパンデミックをめぐる公衆衛生のための取り組みにもその技術を社会貢献として無償で提供しており、ある組織では現在、ワクチンの入手可能性についての情報を得て最も早くワクチンを必要としている層により早く接種できるようにするため、複数の州にまたがる大規模な通話システムを自動化すべくこの技術を活用している。

同社のシステムは2021年1月だけで1万2000の医療提供者に代わって7万5000件の電話をかけている。

Infinitusは大規模な資金調達とともに公に姿を表した。同社はビジネス構築のため、大物投資家グループからシリーズAの資金調達で2140万ドル(約22億6000万円)を得ている。

同ラウンドはKleiner PerkinsとCoatueが共同でリードしており、Gradient Ventures (Googleの初期AIファンド)、Quiet Capital、Firebolt Ventures、Tau Venturesの参加の他、Ian Goodfellow(イアン・グッドフェロー)氏、Gokul Rajaram(ゴクル・ラジャラム)氏、Aparna Chennapragada(アパルナ・チェンナプラガダ)氏、Qasar Younis(カサル・ユニス)氏などAIおよびビッグテック界で活躍するエグゼクティブからの個人投資も受けている。

CoatueはRPA分野において大規模な投資家になろうと目論んでおり、2月初めにはこの分野の有力企業であるUiPathへの最新の投資を共同で主導したことを明らかにしている。同社は前ラウンドにも参加している。

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「InfinitusのシリーズAをリードすることができ大変光栄です。私たちは、RPAとエンタープライズオートメーションの変革力を大いに信じています。Infinitusの音声RPAソリューションは医療機関にとってコストのかかる手動の電話やファックス作業を自動化し、エンドツーエンドでのプロセス自動化のメリットを発揮してくれることでしょう」とCoatueのジェネラルパートナーYanda Erlich(ヤンダ・アーリック)氏は述べている。

Infinitusが取り組んでいる課題は、特に民営化が進んだ米国市場の医療分野でありがちな、わかりにくく時間がかかるお役所的な手続きの煩わしさである。そしてそのプロセスの中で最も煩わしいのが、エコシステム内の異なる段階での重要なコミュニケーションの基礎となる電話での通話にあることが多い。

電話は、重要な情報を入手したり書類や前回の会話を確認したり、データを渡したり支払いの手続きをしたりと、ほとんどのプロセスを始める際に使用されている。

米国ではこの種の通話が約9億件あり、1回の長さは平均35分となっている。こういった電話をかける必要のある事務職の医療従事者は、1日に平均して約4.5時間を電話に費やすことになる。

そしてこれが結果的に、サービス提供の遅れのみならず、米国の法外な医療コストや領収書上の謎の手数料の数々につながるわけだ(そして同社が取り組んでいるのは、こうした課題のほんの一部である)。

共同設立者兼CEOのAnkit Jain(アンキット・ジェイン)氏は、幾度となく起業家として活躍してきたGoogle出身者で、エンジニアリングの上級職や検索大手Gradientの創業パートナーを務めた経験を持つ。同氏はTechCrunchとのインタビューで、同氏がまだGradientにいた数年前にInfinitusのアイデアを初めて思いついたと教えてくれた。

「当時、テキストを音声に、音声をテキストにする音声通信技術に大きな改善が見られるようになっていました。機械が誰かと完全な会話を行えるような通話の自動化が、そのうち可能になると確信しました」。

実際、その頃にはGoogleがDuplexという同じ原理で作られたサービスを開始していたが、これは消費者を対象としたもので、レストランやその他さまざまなサービスなどの予約のために利用されることを目的としていた。

特殊な専門用語や特定のシナリオが多々ある医療業界のエンタープライズアプリケーションでは、人間のように自然な言葉を話せて理解できるかどうかだけが問題なのではないと同氏は判断した。

「医療分野のために誰かがこれを作るとしたら、医療業界は変わると思いました」と同氏。そして自身でそれを実行に移したのである。

ジェイン氏は、同氏が以前設立したQuettraの他、GoogleやSnapでも勤めた経験を持つShyam Rajagopalan(シャム・ラジャゴパラン)氏とともに同社を共同設立した。同氏によるとInfinitusはパブリッククラウドの音声テキスト化システムを利用しているが、会話から得た情報を格づけして利用するための自然言語処理やフローは社内で構築しているという。

コンテンツやインタラクションの特殊性も、同社が少なくとも今現在はRPA界の大手他社との競合をさほど気にしていない理由の1つだろう。

しかしジェイン氏はこのテクノロジーも競争と無縁ではないと述べている。つまり同社が医療以外の分野にも拡大していく可能性があるということを示唆するのと同時に、他の企業も同社の製品と戦えるようなものを作り出す可能性があるということだ。

まるで「人間のように」聞こえる、いわば新世代のロボコールともいえるこのようなサービスは、消費者向け製品が長らく目指してきたものだ。その試みはあまり順調ともいえないが、例えばDuplexは初期の頃、データを利用しながら回答を記録している機械と話しているということがユーザーには明らかではなかったため、優れた品質がむしろ詐欺的に聞こえると批判を受けていた。しかしInfinitusはロボットらしい声を意図的に選び、電話の受け手にその事実を明確にしているとジェイン氏は説明する。

これはまた「雑談を減らす」役割もあり、ユーザーが内容に集中できるようにするためでもあると同氏はいう。

同社のサービスも他社の音声RPAサービスと同じように動作し、会話が複雑になった場合には生身の人間が通話を引き継ぐことができるものの、実際にはあまり必要でないという。

「我々のシステムは十分に高い成功率を見せているので、人間が関わる必要はありません」と同氏は語る。

医療業界での電話による通話自体を廃止してしまえば良いのではとお考えの読者もいることだろう。通話の行為が時代遅れといわれるような、データ交換の新たな方法が他にいくらでもあるだろう。しかしジェイン氏によると、少なくとも今のところはこれがすぐに変わることはないという。

その理由の1つは、市場が断片化されているため、無数の保険金支払者、医療提供者、製薬グループ、請求書発行および回収組織などに対する新しい基準を全面的に導入することが困難であるということにある。

そして結局のところ、何百種類もの決済会社などを扱う事務職員にとっては、電話での通話が最も簡単な手段なのだ。

「認知的な負荷が高いため、電話をかけるのが結局は一番楽な方法なのです」とジェイン氏はいう。

Infinitusのような音声RPAの導入は、大規模なシステムのアップデートに向けた長期戦のほんの一部である。

「どちらか一方が自動化することで、もう片方の側にも自動化が可能だということを示すことができます。今はあまりにも多くの関係者がいるため同じ基準を採用するよう説得するのは大変な作業ですが、少しずつ成功させていく以外ありません。最終的な着地点は従来の音声による通話ではないはずです。そして大多数が何か別のものを基準とすることに合意できた場合、世界は前進するはずです」とジェイン氏は語る。

カテゴリー:ヘルステック
タグ:RPAInfinitus資金調達

画像クレジット:panda3800 / Shutterstock

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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