Intelがイスラエルの交通アプリMoovitを約960億円で買収、自動運転部門を強化

イスラエルでは、スマート輸送の世界でいくつかの大きなM&Aが進んでいる。TechCrunchが入手した複数のレポートや情報筋によると、チップ大手のIntel(インテル)は、AIとビッグデータによる交通状況の分析に基づき世界約8億人におすすめの経路情報を提供するスタートアップのMoovit(ムービット)を買収する最終段階だという。買収契約は近く、10億ドル(約1070億円)程度の買収価格で完了する見込みだ。

(編集部注:インテルはその後に約9億ドル、約960億円でMoovitを買収したと発表)

Moovitの創業者兼CEOであるNir Erez(ニル・エレズ)とインテルの広報担当者に連絡しコメントを求めた。詳細は入手次第更新する。現時点では、Moovitの広報担当者はレポートの内容やTechCrunchが直接入手した情報を否定していない。

「現時点ではコメントはないが、何か変更があった場合は必ず知らせる」とMoovitの広報担当者は述べた。

Moovitは以前Intel Capitalから戦略的投資を受けている。情報筋によるとMoovitは、Mobileye(モービルアイ)を核とするインテルのイスラエルの自動車ハブの一部になるようだ。Mobileyeはインテルが2017年に153億ドル(約1兆6300億円)で買収した自動運転の会社だ。

Moovitがハブで果たす役割はまだはっきりしない。基本的に、自動運転車を導入する上で最も困難な点の1つは、信頼できるリアルタイムの交通情報データ取り込みとインテリジェントルーティング(最適な経路の選択)の実行だ。これはMoovitのコアビジネスだ。

実際、Moovitは既にMobileyeやインテルと協力している。インテルは、Moovitの最後のラウンドとなった2018年のシリーズDで5000万ドル(約53億円)の調達をリードした。その一環として、インテルの上級副社長でMobileyeのCEO兼CTOのAmnon Shashua(アムノン・シャシュア)教授がオブザーバーとしてMoovitの取締役会に加わった。シリーズDに参加したインテル以外の投資家にはNGP Capital、BMW、Sound Ventures、Gemini Israelといったそうそうたる名前が並んでいる。

人材を獲得し、それをインテルのより大きな戦略に統合することが買収の主な動機のようだ。従業員はリテンションパッケージの一部として最終的な買収金額の約10%を受け取る。詳細はイスラエルのヘブライ語の新聞The Markerによって報じられ、Wadi VenturesのアナリストであるDavid Bedussa(デイビッド・ベデュッサ)氏がTechCrunchに報告した。

最後の資金調達ラウンド時点で、Moovitには5億ドル(約530億円)以上のバリュエーションがついていたが、その後2年間で大きく成長した。

同社は都市内の最適な移動経路を教えてくれる人気のスタンドアロンアプリを開発している。Uber(ウーバー)のようなアプリとも統合し、Uberタクシー、自転車、公共交通機関、徒歩などの異なる移動手段を組み合わせるマルチモーダルルートを提供する。

Moovitは2018年にiOSAndroidウェブアプリが世界80カ国2000都市で1億2000万人のユーザーが利用したと発表した。2020年現在は102カ国、3100都市、45言語、8億人を超えている。

輸送面では、現在世界中の多くの人々が、世界的なパンデミックとなった新型コロナウイルスの感染拡大を遅らせるため、移動を控えるよう求められている。この公衆衛生危機の結果として世界経済は大きな下落局面にある。どちらも自動車業界に直接的な影響を及ぼしている。新型コロナの感染拡大を封じ込めるだけでなく、購買需要の著しい減退に対応するため、生産活動のスローダウンと次世代戦略の変更を余儀なくされている。

技術面では規模の大小を問わずあらゆる企業が、できるだけ最適化された方法でテクノロジーを活用し、物事を前に進める役に立つよう取り組んできた。特にこれは輸送関連のスタートアップの世界でも起こっていることだ。

移動の抑制によりユーザーによるMoovitアプリの利用量が大幅に縮小するなか、同社は一連の新型コロナ関連サービスを開始した。これは、今なお仕事を続け、移動を必要とする人々へのサービスだ。

サービスには、トランジットデータマネージャー(通常のB2B製品と異なり無料で提供されている)が含まれている。これは最新のトランジットデータ(経路情報)と交通量データの両方を受信し、短時間で大量の処理を迅速に行い、ユーザーは最新の情報に基づき最適なルートを選択できる。

また、Moovitアプリのユーザーがアラートを受け取れるリアルタイムサービスも開始した。さらに「緊急モビライゼーションオンデマンド」サービスも開始した。これにより、交通サービスのマネージャーはバスをより迅速にルートに再配置して、公共交通機関を利用しているエッセンシャルワーカーにより良いサービスを提供できる。

Moovitがさらなる資金調達を狙っていたのか、他の多くのスタートアップと同様に資金調達に不安を感じていたのか、あるいは買収提案の内容が良すぎて断れなかったのか、そもそも買収の話は新型コロナ前からあったのか、いずれも定かではない。Moovitのビジネスの規模と範囲を考えると、当面は進める価値があるビジネスのように見える。

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(以下、続報の要約)

インテルは5月4日、Moovitを約9億ドル(約960億円)で買収したと発表した。ただし、既に保有する持分の価値増加分を差し引くと、買収で支払う金額は8億4000万ドル(約896億円)となるという。

MoovitのテクノロジーはMobileyeの「Mobility as a Service(MaaS)」の拡大・強化に利用する。Mobileyeのドライバーアシスタンステクノロジーは現在約6000万台の自動車に搭載されている。「ロボタクシー」などの自動運転サービスはまだ初期段階にあるが成長の見込みは大きい。インテルはロボタクシーだけで2030年までに1600億ドル(約17兆1000億円)の市場規模になると考えている。

「インテルの目的は地球上のすべての人の生活を豊かにする世界に変えるテクノロジーを生み出すことであり、我々のMobileyeチームはその目的に向かって毎日前進している」とインテルのCEOであるBob Swan(ボブ・スワン)氏は述べた。「MobileyeのADAS(先進運転支援システム)テクノロジーは数百万台の自動車の走行安全性を既に改善しつつある。Moovitはフルスタックモビリティープロバイダーとして移動手段に真の革命をもたらす。混雑を緩和し、人命を救う」。

今回の買収が興味深い点は、インテルが自動運転事業への関与を深めていることを裏付けるだけでなく、新型コロナの影響による世界的な景気後退の中で自動車会社や自動運転車の試みが延期・中止されるこの時期に行われたことだ。Ford(フォード)は自動運転サービスを2022年まで延期すると発表し、Waymo(ウェイモ)とVoyage(ボヤージュ)はいずれもサービスを中止している。

「経済は逆風下にあり、自動車の研究開発に取り組む企業は計画を減速・縮小するかもしれないが、我々はドライバーレスMaaSのビジョンをいち早く実現するのに必要な価値ある資産を獲得する機会だと捉えている」とシャシュア氏はブログ投稿で説明した。

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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