iPad Proレビュー:Appleの新しいタブレットは、成熟の予兆を見せ始めた

iPad Proがラップトップに取って代わるだけの説得力を持つものなのかどうか、ユーザーはすでにかなり長い間注目してきた。

その答えは、Appleを含めて、誰の言うことを信じるかによる。すでにある時点でラップトップを置き換え得るデバイスだと見なされていたのか、アプリの開発者コミュニティしだいでどのような機能をも持ちうる純粋なタブレットなのか、あるいはiPad独自の世界を築いているのか。

しかし、新しいiPad Pro、Smart Keyboard Folio、Apple Pencilの新バージョンの登場によって、ついに明らかになってきたことがある。

いよいよPhotoshopの完全なフル機能版が巨大なファイルも扱えるようになり、デスクトップ版と同じツールやブラシも装備した。それを発売するAdobeのような会社の能力と意欲が、新しいハードウェアと組み合わさったことで、iPad Proによって可能なことの領域には、新たな扉が開かれた。あとは、その機会に乗ずる準備がAppleにできているかどうかだ。

Pencil

ダブルタップのジェスチャーは自然に使えるかって? もちろん。私はシリアルポートで接続するタイプの第一世代のワコムの製品から、電子式のドローイングタブレットを使ってきた。それらの多くは、伝統的に、いわゆる「アクションボタン」を装備している。クリックすることで描画モードを切り替えて消しゴムにしたり、パレットを表示するものだ。それによって、作業中にタブレットから離れることを極力減らすことができる。

Apple Pencilの新しいダブルタップ操作が目指すのも、まさにそれだ。内部にある部品の多くは、第1世代のPencilとほとんど変わらない。ただし、新たに静電容量を検知するバンドが内蔵され、ペン先側の1/3ほどの領域をカバーしている。このバンドがダブルタップを可能にしている。感度もちょうどいい。有機的な感覚で、スムーズに操作できる。ダブルタップの間隔なども、Pencilのコントロールパネルで調整可能だ。

コントロールパネルを使えば、消しゴムではなくパレットを出すように設定したり、画面をPencilでタップすることで「メモ」アプリを直ちに開く機能をオフにしたりもできる。その設定では、写真と同じように現在のメモに留まることになる。そのうちに、タップしてスリープ解除する機能も変更できるようになれば嬉しいが、もちろんまずはそれで起動しなければ始まらない。

誤ってダブルタップしてしまったことは1度もなかった。それがデフォルトの設定だが、作業モードを抜けることなく消しゴムに切り替えられるのは、本当に使いやすいと感じられた。

ただし、Appleは開発者に、ダブルタップに異なった機能を与えることについて、かなりの自由を許している。たとえばProcreateは、私のお気に入りのドローイングアプリの1つだが、1つのツールやモードから別のツール、モードに直接切り替えるラジアルメニューなど、多くのオプションを用意している。Appleのガイドラインは、ダブルタップの使い方には慎重になるよう開発者に指示している。しかし同時に、ダブルタップがユーザーにとって意味のある実装となるにはどうすればよいのか考えるように促してもいる。

新しいApple Pencilは、トラッキングの正確さや応答については進化していない。基本的には、以前のiPad Pro用に開発された最初のPencilと同じトラッキング機構を採用している。しかし残念ながら、新旧のPencilには互換性がない。新しいPencilは古いiPad Proでは動作せず、古いPencilは新しいiPad Proでは動作しない。それは、ペアリングと充電のしくみがまったく異なるからだ。

第1世代のものとは異なり、新しいPencilは非接触でペアリングと充電ができる。これは大きな進歩だ。すぐになくしてしまいそうな小さなキャップは、もはや存在しない。直腸用体温計のように、iPadのお尻に差し込んで充電する必要もないし、充電と同時にペアリングもされる。

iPad Proを横向きにしたとき、上部の側面には中の見えない小さな窓が付けられた。その窓の内側に、Pencilを充電するためのコイルがあるのだ。またPencilの中にも、それに対応するコイルがあり、2列のフェライト磁石に囲まれている。これらの磁石は、iPadのシャーシ内にあるハルバッハ配列の磁石と対向している。こうして整形された磁場によって、ちょっとしたギミックが実現されている。ちょうど充電用のコイルが完璧に向き合う位置に、Pencilが自動的にスナップされるのだ。これによって、位置合わせのことなど何も考えなくても、Pencilを所定の位置に素早くくっつけることができる。

この磁力による接続はかなり強力で、Pencil部分だけをつかんで、iPad Proを持ち上げることができそうなほどだ。それでも、外そうと思えば簡単に外れる。横方向にずらしたり、前方に引くようにすればいい。

充電レベルを示す、見やすいオンスクリーン表示も用意された。

最初にApple Pencilが発売されたとき、私は父親に使わせてみた。父は創作活動の一環として、私が知る誰よりも多くのスケッチを描く素晴らしいアーティストだ。父はトラッキング性能と、デジタルツールへのアクセスの良さは気に入ったものの、ツルツルの表面がマット仕上げに比べて使いにくいことと、指を置くための平らな面がない点を指摘した。

新しいPencilは、マット仕上げになり、平らな面も新設された。そう、この平らな面によって、Pencilが転がってしまうことを防ぎ、充電のためにiPadの側面にくっつけることもできる。しかし、それによってドローイング用道具の一方のエッジを、効き指の方向に固定できることは、アーチストではない人からは完全に過小評価される効果だろう。これはスケッチ作業でのコントロールにとって非常に重要なのだ。一般的に鉛筆はたいてい丸いが、ほとんどの場合、オーバーハンドグリップ(訳注:掌を被せるような握り方)で握るように考えられている。ちょうど、シェードを付けるために使うポインティングデバイスのように。標準的なトライポッドグリップ(訳注:3本の指で支えるような握り方)は、少なくとも1つの平らな面を持つPencilに適している。

トライポッドグリップでは、動きの範囲は限られるものの、より正確に操作できる。一方、オーバーハンドグリップは、より機能的で汎用性があるものの、正確な動きは難しい。新しいPencilが、この広く利用されている2種類の握り方のどちらにもうまく対応できることは、アーティストにとってありがたい。

グリップなどどちらでもよい些細なことと思われるかもしれないが、私としては、そして私の指にできたタコは、ここは重要なところだと主張したい。スケッチにとってグリップはすべてなのだ。

このPencilは、Appleがこれ発売した第2世代の製品の中で、最も印象的なものの1つだ。ユーザーが第1世代のデバイスで抱えていた問題をすべて解消した。それによってドローイングでも、ノート取り、スケッチでも、iPad Proの使い勝手を大幅に向上させることに成功した。唯一の欠点は、これが別売りだということくらいだ。

新しいPencilを使ったドローイングやスケッチは、とても楽しい。Wacom Cintiqのような専用デバイスさえも吹き飛ぶような、際立った感覚で使える。Surface Proのスタイラスなど足下にも及ばない。

さらに、新しいPencilのダブルタップについても、すでに興味深いことが起こりつつある。たとえばProcreateでは、異なるツールごとに、あるいは必要に応じて、さまざまなダブルタップの操作を選択できる。状況に応じて柔軟に対応できるのだ。ユーザーが何をしているか、というコンテキストにリンクさせることもできるし、ユーザーあるいは開発者による設定によっては、リンクさせないことも可能だ。

あるときは、ラジアルメニューをポップアップしてレイヤー全体を操作したり、またあるときは描画ツールと消しゴムを入れ替えたりできる。それでもまったく戸惑うことなく操作できるのは、そのとき使っているツールに応じた機能が発揮されるからだ。

特にポートレートモードで使ってみると、ラップトップやハイブリッドでは、なぜ指で直接画面に触れるのが良くないか、すぐに分かる。このPencilは、太い不器用な指で画面上の小さなボタンをタップしようとするのとはまったく違った、精密でデリケートなタッチが要求される場面に応えることができる。リーチの問題もあるだろう。Pencilなら、キーボードから2、30センチ離れた場所に届かせるのにも苦労はいらない。

このPencilは、単なるドローイング用のアクセサリから、iPadユーザーにとって不可欠なポインティングデバイス兼操作ツールになるための階段を着実に登りつつある。まだ完全にそこに達してはいないとしても、Procreate用の非常にフレキシブルなオプションとして、大きな潜在能力を備えていることは確かだ。

Apple Pencil、さらにはiPadに対しては、非常に多くの議論が進行している。このPencilとAirPodは、他のどんなメーカーと比べても、ハードウェアとソフトウェア、両方の製品を抱え、それに責任を持つ意思と能力を持つAppleも、もはや魔法のような体験をユーザーに提供することはできないのではないか、という議論に対する十分な反証をぶつけた。

スピーカーとマイク

iPad Proは、今では5つのマイクを備えている。とはいえ、録音はステレオでしかできない。2つのマイクの組み合わせて録音し、必要に応じてダイナミックにノイズキャンセリング機能も働く。

スピーカーは強力で、これだけ薄いデバイスにしては、かなり良好なステレオサウンドを生み出す。このスピーカーは、FaceTime通話では4つが同時に機能するなど、より賢く使われるようになった。以前は、ハウリングが発生するためにできなかったことだ。これも5つのマイクを備えたことによって可能になった。

ポートについて語ろうぜ。そう、USB-Cのことさ

私はUSB-Cの規格は、あまり好きではない。もちろん、従来のUSBに比べて、さらにLightiningポートに比べても、規格としていろいろな利点を持っているのは確かだ。理想的ではないにしても、そこそこいい線はいっている。だから、Appleが、高解像度の外部モニタを使い、iPhoneを充電しながら写真を高速で転送したいというユーザーの声を聞く方が、Lightningに固執することよりも重要だと認めたのは、良い意味で驚きだった。

Lightningについては、コンパクトで、用途が広く、iOSデバイスにぴったりだ、ということがずっと変わらずに宣伝されてきた。今は、iPad Proのサイズに合わせた選択だと説明されているが、それば別にいいだろう。簡単に拡張できないプラットフォームは、Proという名前にはふさわしくないからだ。

今や、AppleのラップトップとiPad Proが、いずれもUSB-Cを備えるようになったのは偶然ではない。これは他のデバイスにも波及するかもしれない。しかし今のところは、ユーザーがそれらのデバイスに何を求めるかということ対するAppleの考えを反映したものだ。外部モニターが、Appleにとってもっとも優先順位の高い課題であったことは、Appleの発表会での話からも、その後に私が直接聞いたことからも確かだ。単なるミラーリングではなく、拡張モードでも使える最大5Kの解像度から、大いに恩恵を受けるプロユーザーが少なからずいることが分かっていた。

さらに言えば、現時点でも直接USB-Cポートに接続できる楽器やミュージシャン用の周辺機器は山ほどある。公式ではないものの、外部電源を必要とするアクセサリに対して、動作するのに十分な電力を供給できる可能性もある。

このUSB-Cポートは、充電のために接続されたデバイスに対して、最大7.5Wの電力を供給できる。またマイクやその他のアクセサリも接続可能だ。とはいえ、これまで外部電源を必要としていたデバイスが、そのポートから十分な電力を得られるかどうかは保証の限りではない。

ちなみに、MacBook用のドングル類は、ほとんどiPad Proでも使えるだろう。何か新たな組み合わせを思い付けば、そこに新たな用途が生まれるだろう。

このポートは、USB 3.1 Gen2規格に準拠していて、最大で10Gbpsのデータ転送が可能だ。実際には、ほとんどの人にとって、これはカメラやSDカードリーダーからの写真転送がより速くなることを意味している。しかしiPad Proの「ファイル」アプリは、マスストレージや、外付けハードドライブを直接サポートしていない。ファイルに直接アクセスできる機能を備えた一般のアプリは、引き続きハードディスクから読み込むことができ、その転送速度はより速くなるというわけだ。

これも別売りで、USB-C用のヘッドフォンアダプターも用意されている。興味があるかどうか分からないが、それはMacでも使える。ところで、ヘッドフォンジャックをなくした理由として私が受けた説明では、画面の端からベゼルの幅には収まらないから、というものだった。さらに他の部品を納めるためのスペースも必要になるというのだ。

新しいiPad Proには、新しい電源アダプターも付属している。もちろん、iPad Proにとっては初となるUSB-Cタイプだ。

A12Xとパフォーマンス

1TBのストレージを装備した大きい方のiPad Proは、そしておそらく同様に1TBの小さい方のモデルも、6GBのRAMを実装している。ただし私の知る限り、1TBに満たないストレージのモデルのRAMは、それより少なく、合計4GB程度となっている。それがどの程度パフォーマンスに影響するかは、そうしたモデルを使う機会がなかったので分からない。

とはいえ、このiPad ProのA12Xの全体的なパフォーマンスはトップレベルだ。複数のアプリを画面分割して動かしたり、Slide Overするのも、まったく問題なく、アプリ間の切り替えも非常にスムーズだ。Procreateで、大量のファイルを開いてドローイングしたりスケッチしたりするのも超簡単だ。ARアプリでも、バタつくことはまったくなく、滑らかに動かせた。一般的なiPadアプリ、重いクリエイティブ系のツールでも同様だった。Lightroomで大きな写真を編集したり、iMovieで長大なビデオファイルを編集するユーザーも、かなり満足するはずだ。

このiPadのGeekbenchのベンチマークは、予想通り、常軌を逸している。

これを見れば分かるように、デスクトップクラスの性能を持つARMプロセッサーがiPad Proに搭載されるのを待つ時代は終わった。それはすでに実現されたのだ。しかも、他のAppleの設計によるチップと、システム全体で密接に統合されており、Appleの目標を達成することができた。

ARMへの切り替えに関しては言えば、基本的に2つの有力な考え方がある。1つは、まずARM版のMacBookのモデルを1つ(たぶん文字通りのMacBook)を出すことでゆっくりと始め、そこから他のモデルにも徐々に広げていくというもの。私は、ずっとこの考えを支持してきた。しかし、このiPad Proを使ってみて、数々のプロ用アプリの瞬発的な、そして持続的なパフォーマンスを目の当たりにした後では、その考えにも疑いが生じた。

すでに結果は出ている。Appleがそうしたいと思いさえすればいつでも、そのすべての製品ラインでARMプロセッサーを採用できることを、このiPad Proのパフォーマンスが明確にしたのだ。

Intelのサプライチェーンや優先順位の気まぐれのせいで、Appleの新製品が登場するのをただただ待ち続ける、ということもよくある。Apple自身も、それにはうんざりしているのだ。Appleの内部から、そうしたグチが漏れてくるのを、私は何年も前から耳にしている。それでも彼らはIntelとパートナーとしての関係を維持してきた。それも、Appleが飛躍を遂げるまでの話だ。

ここまで来れば、あとは時間の問題であり、その時間は短いだろう。

カメラとFace ID

iPad Proのカメラは、まったく新しくなった。新しいセンサーと、新たな5枚構成のレンズを使ったものだ。この新しいカメラは、ゼロから設計し直す必要があった。というのも、iPad Proは薄すぎて、iPhone XRやXS、あるいは従来のiPadのカメラを流用できなかったからだ。

この新しいカメラの画質は素晴らしい。高速なセンサーと、A12Xチップのニューラルエンジンによって実現されたスマートHDRも搭載している。Appleのカメラチームが、単にセンサーを小さくしたり、厚みが足りなくても動作するような古い設計に戻るのではなく、それなりのカメラ体験が実現できるよう、仕事を増やす決意をしたのは興味深い。

面白いことに、この新しいカメラシステムは、iPhone XRのようなリアカメラによるポートレートモードを提供していない。ポートレートは、フロントのTrueDepthカメラでだけ撮ることができる。

iPadによる写真撮影は、いつも評判が悪い。サッカーの試合やテーマパークで、パパがタブレットを構えることが、ジョークのネタにされてきた。それでも、iPad Proの画面は、ファインダーとしては、おそらくこれまでで最高のものだ。

いつの日か、それがiPhoneに対する優位な特徴として認められる日が来ることを願っている。そうすれば私も気兼ねなくパパとして行動する言い訳ができるから。

もう1つ付け加えれば、iPad ProのフロントのTrueDepthカメラシステムには、薄くなったケースの中で動作するように、ハードウェアとソフトウェア両面のアップデートが施された。それに加えて、ニューラルネットのトレーニングと調整もあり、Face IDは、iPad Proを4方向どの向きで持っても動作するようになっている。どの側面が上を向いていても、とても素早くロックが解除される。その早さは、文句なくiPhone XS世代のFace IDシステムと同等だ。

私の思い込みかもしれないが、Face IDは、わずかながら従来より広い角度で動作するようになった。基本的に、iPhoneを使うときよりも、iPadに向かうときの方が、顔は画面からより離れた位置にある。その上、カメラの光軸から余計にずれた位置にいると感じられるときでも、着実にアンロックしてくれるのだ。これはiPadの美点だろう。どんな作業姿勢でも大丈夫なのだから。

キーボード

Apple Pencilと同様、Smart Keyboard Folioもオプションとなっている。そしてPencilと同じように、これなしでは、iPad Proをフルに活用することはできないと思われる。私は、かなり集中的なプロジェクトで、iPadで一気に1万1000語以上の文章を書いたことも何度かある。そんなとき、気を散らさずに文章を入力できる装置として使用できる能力は、いくら強調してもしたりないほどだと感じている。何者にもじゃまされずに、ただひたすら単語を入力できるというだけでも、良いテキストエディタを入れて使うiPadより優れた電子機器は、そうそうない。

しかし、編集について言えば、混沌とした状況もある。最新のiPad Proが一定の水準に達しているかどうか、よく分からないが、様々な作業が混在するような状況では、かなり有望だろう。Pencilと物理的なキーボードのおかげで、掛け合いのようなフィードバックを必要とする異なる作業の組み合わせや、それらの頻繁な切り替えが要求される仕事をする人にとっても、だいぶやりやすくなってきたと言える。

キーボード自体はよくできている。感触は、従来のiPadのApple純正キーボードとほとんど同じだ。キーを押して戻ってくる感覚は理想的とは言えないまでも、慣れれば及第点が与えられる選択肢となる。

このFolioのデザインは、また別の話だ。これは非常にクールで、安定感も抜群。賢い実装によって唖然とさせるほどの良さを引き出すAppleの意欲のたまものだ。

ケースの中には120個もの磁石が仕込まれていて、Pencilを保持するのと同じハルバッハ配列を形成している。基本的に、磁石は磁力が外側に向くように配置されている。こうした配列によって、ケースは何の苦もなくiPadにくっつき、しかもキーボードに対する電源の供給と通信に必要な細かな位置合わせも自動的に片付けられる。

iPadを立てて使う場合の、2通りのポジションを可能にする溝にも磁石が仕込まれている。それがiPad Pro本体内部の磁石と結合するのだ。

この効果によって、Smart Keyboard Folioは、以前の世代のものよりもはるかに安定した。実際に膝の上に乗せて使えるようになったのは、正直嬉しいところだ。ラップトップ機と同じくらい安定しているとまでは言えないものの、電車や飛行機でも、無理なくぽんと膝の上に乗せて作業することが可能だ。これは、へなへなした前世代のものでは、まったく不可能だったことだ。

このFolioに対する強い希望は、ドローイング作業に適した角度でも使えるようにして欲しいということだ。それがこのデバイスが特に目指したところでないことは理解しているつもりだが、Pencilによって非常にうまく使えることが分かっているだけに、iPadを15〜20度の角度で固定できる仕組みがないことは、大きな欠点のようにすら感じられるのだ。それができれば、スケッチでもドローイング作業でも、ずっと使いやすくなる。Folioの裏側の端から1/3あたりの位置に新たな溝と磁石を追加すれば、これも可能になると思われる。近い将来実現して欲しいと願っているものの、そのようなアーティストやイラストレーター向けのケースを、間違いなくサードパーティが割とすぐに発売するだろう。

デザイン

iPad Pro本体の角の丸みと、対応する画面の角の丸みについては、すでに色々言われてきたが、実際のところこのデバイスは形状に関してかなりアグレッシブだと感じられる。エッジは角が取れたようにはなっておらず、すべて真っ直ぐに交わっていて、引き締まったアールの付いたコーナーとマッチしている。

背面のカメラの出っ張りは、背面を下にして台の上に置いて動かそうとしても、ガタガタしない。それが心配だった人のために言えば、一種の三脚効果によって、何か書こうとしても問題ない。

全体としての見栄えは、よりビジネスっぽくなり、いわゆるApple流のカーブによる親しみやすさは陰を潜めている。でも私は気に入っている。徹底して直線的なエッジによって、すべてのエッジの近辺の何ミリかの利用できないスペースに譲歩することなく、Appleも内部のスペースをより効率的に使えるようになった。これまでの曲線で構成されたiPadでは、周囲の無駄な空間を合わせれば、それなりの体積になるだろう。iPad Proの顎と額を切り捨てたことで、デザインのバランスを整え、持ちやすくもなっている。

MicrosoftのSurface Proのデザインと新しいiPad Proのブロック状のデザインを比べたくなるのは、無理もないことだと思われる。しかしiPadは、ライバルとなるほとんどのタブレットよりもずっと洗練された印象を与える。それは、コーナーのアールの組み合わせ、最高レベルのアルミニウム仕上げ、そしてSmart Keyboard Folioなどのアクセサリを取り付ける際にも、非常に賢く磁石を利用することで、ホックやラッチを無用にしていることなどのディテールに現れている。

新しいiPad Proの大きい方か、小さい方かで迷っているとしても、私にはその片側についてのアドバイスしかできない。というのも、まだこれまでに新しい12.9インチモデルしかテストできていないからだ。それは、以前の大きい方のiPadよりも確実にバランスが良いものに感じられるし、この画面サイズにしては、これまでで最も小さなものに仕上がっている。それによって両者の本体サイズがこれまでにないほど近いものになり、どちらを選ぶかの決断を難しくしている。先日のイベントで、小さい方のProを実際に触ってみた印象は良かった。しかし、それといっしょにどうやって暮らしていこうかというイメージはわかなかった。こちらも感触はかなりよく、クジラのように大きく、連れて歩くのがためらわれた以前の大きい方のiPad Proでは決してかなわないほどポータブルであることには違いない。そして13インチのMacBook Proよりも小さく、ずっと薄いのだ。

画面

iPhone XRのピクセルマスキング技術は、このiPad Proにも採用され、丸い角を実現している。このLCD画面には、「タップしてスリープ解除」の機能も組み込まれている。これはPencilで絶大な効果を発揮するが、指で画面に触れて生き返らせることも可能だ。ProMotionと呼ばれるAppleの120Hzリフレッシュ技術(訳注:表示内容やユーザーの操作に応じてリフレッシュレートを自動調整する機能)は、最高の効果を発揮し、高速化されたプロセッサーと相まって、可能な限り1:1に近いタッチ体験を常に実現している。

このLCDの色再現性とシャープネスは、ただ優れているという以上のものであり、OLEDに比べても黒レベルが劣るだけだ。それは物理法則によるのでしかたがない。私がiPhone XRで最初に気づいた問題だが、このiPadでもエッジに近い部分がわずかに暗く見える。これはAppleが縁なしのLCDを実現するために採用しているピクセルゲート技術の局所的な減光効果によるものだ。それを別にすれば、これまでに製造された中でもかなり優れたLDCの1つに数えられると私は思う。しかもベゼルの幅は狭く、角が丸いという面白さもあり、さらにノッチもない。気に入らない点が何かあるだろうか?

結論

私の意見としては、純粋なタッチデバイスとして軽い作業のためのiPadを欲しいなら、普通のiPadを手に入れるべきだと思う。iPad Proは優れたタブレットだが、Pencilとキーボードと組み合わせて使うことで、本領を発揮する。長文のテキストを打ち込んだり、画面に直接殴り書きするような作業に対応できることは、iPad本来の能力に対する本当に素晴らしい付加価値となっている。

しかし、iPad Proのパワーと実用性は、Pencilと組み合わせることで、際立った高みに達する。

あらゆるコンピューティングデバイスの中で、キーボードを備えたタブレットの果たすべき役割については、終わりのない議論が繰り返されてきた。それはラップトップの代わりになるのか? それとも崇高な夢を持ったタブレットなのか? やがて「2in1」という呼び方を、誰もしなくなるのか?

iPad自体は、そうした混乱を収めるようなことは、ほとんど何もしてこなかった。というのも、誕生してからこれまでの発展過程で、そうしたさまざまな役割を果たしてきたからだ。実際に新製品として発売される際に装備してきた機能においても、Appleのマーケティング部門によるメッセージや、入念に準備された発表会のプレゼンテーションにおいてもそうだった。

この分野の基本的な動きを要約すると、Microsoftはラップトップをタブレットにしようとしているのに対し、Appleは逆にタブレットをラップトップにしようとしている。そして、その他は訳の分からないことをやっている、ということになるだろう。

Microsoftは、最初にOSの頭部を切り離してタブレットから作り始め、そこから逆戻りする必要があったということを、まだ完全に理解できていないように、私には思われる。現在のMicrosoftは、当時のMicrosoftよりもずっと有能だとは思うが、それはたぶんまたまったく別の議論だろう。

Appleは最初からOS Xの頭部を切り離すことにして、それ以来ずっとゆっくりと別の方向に進んでいる。しかし、タブレットとしてのユーザー体験の満足度では、Surface ProがいまだにiPadの足下にも及ばないものであることは動かない事実だ。

柔軟性には優れるかもしれないが、統一感と信頼感の高い機能性を犠牲にしている。ちょうど、冷蔵庫とトースターをいっしょにしたようなものだ。

そうは言っても、Appleもまだソフトウェアについては十分な仕事をしておらず、このiPad Proのハードウェアが提供している速度と多様性を十分に享受できるようなものになっているとは思えない。アプリの画面を分割して、アプリを切り替えられる固定的なスペースを作ったりできるようになったのは、iPad用OSのけっこうな進化ではあるものの、それはまだ可能性のほんの一部に過ぎないだろう。

そしてハードウェア以上に、AppleのiPadのユーザーこそが過小評価されているのではないかと思われる。すでにiPadが出てから8年、iPhoneからは10年が経過した。世代を問わず、すでに多くの人がこれらのデバイスを唯一のコンピュータとして使っている。私の妻は、iPadとスマホ以外のコンピュータをもう15年も持ったことがないが、特にモバイルファーストの急進的な実践者というわけではない。

Appleは、単一のiOSという足かせから自分自身を解き放つ必要がある。ユーザーベースは未熟なものではないのだから、もはや同じだと感じられるものである必要はない。ユーザーはすでに乳離れしたのだから、まともな食事を与えるべきだ。

私にとってこのPencilは、すべての中で明るい光として際立っている。確かにAppleは、ダブルタップジェスチャーの採用については予想されたとおり遅かった。しかし、Procreateのようなサードパーティのアプリは、長期的にはPencilがタブレット世代のマウスになるための、途方もない機会があることを示している。

この一種のスタイラスは、iPadの誕生から最初の10年近くの間は、決して正しい選択ではなかったし、多くのユーザーにとっては、いまだに必須というわけではないと思われる。しかし、コンテキストによって変化するラジアルメニューや、適切​​なタイミングで適切なオプションが得られるという能力は、確実にこのPencilが新たなインターフェースへの扉を開く鍵となるものであることを意味している。それは、マウスによる確実な処理と、ジェスチャーによる柔軟性のあるタッチ操作を融合したようなものになるだろう。

Surfaceペンを持ちながら、目を白黒させているSurface Proのユーザーがいるはずだ。それはPencilではないのだから、それも当然のことだろう。そしてさらに重要なのは、それはAppleが、Pencilを本物以上の感覚で使えるようにするためにiPadに施した、尋常ではない仕事によって生み出されたものではないからだ。

そして、Appleがここに到達するまでの、時には遠回りで退屈な道のおかげで、ユーザーはキーボードを外してPencilを手放してしまっても、iPad Proの素晴らしいタブレットとしての体験を味わうことができるのだ。

もしAppleが、そのソフトウェアをハードウェアと同じくらいフレキシブルで先進的なものと感じられるよう、さらに良い仕事をすれば、iPad Proには羽が生えるだろう。もしそれができないなら、iPadは行き止まりに突き当たる。しかし私には希望がある。高過ぎるPencilのような形の…

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。