Kaizen PlatformがシリーズBで9.5億円を調達、「経営のオープンソース化」を海外にも

WebサイトのUI/UX改善のためのプラットフォーム「Kaizen Platform」を運営するKaizen Platformが今日、シリーズBとして総額約9.5億円(800万ドル)の資金調達を実施したことを発表した。今回の調達ラウンドで新たに投資したVC・事業会社は、YJキャピタルNTTドコモ・ベンチャーズコロプラセゾン・ベンチャーズの4社。出資比率は非公開だが、既存株主であるEight Roads Ventures JapanグリーベンチャーズGMO VenturePartnersの3社も追加投資をしている。これで2013年8月の創業以来、累計の資金調達額は約21億円(1780万ドル)となる。

Kaizen Platformは東京・新宿に拠点をおいていて、創業から約2年半で社員数100人にまで成長している。社員の9割は日本にいるが、法人登記は米国。グローバル市場への展開を視野に入れて、当初から「米国企業」としてスタートしている(だから調達資金もドル建てとなっている)。現在マーケティング担当者を中心に10名ほどが米サンフランシスコ拠点で活動している。

日本でエコシステムとして回り始めたKaizen Platformは、日本以外の市場にどれだけ広げていけるのか? 共同創業者でKaizen Platform CEOの須藤憲司氏に話を聞いた。

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共同創業者でKaizen Platform CEOの須藤憲司氏

クラウドソーシング型のA/Bテスト、プラットフォーム

KaizenはPC向け、モバイル向けを問わず、Webページ(多くはいわゆるランディングページ)のデザインを改善して各種KPIを上げていくというサービスを提供している。ボタンの位置やサイズ、色、メッセージ、フォームの文言などを変えることによって、例えばECサイトであればCVR(コンバージョン率)を上げ、それによって売上増を目指す。この一連の最適化がKaizenのプラットフォーム上で行える。

A/Bテストというと「A案とB案のどちらがいいか」といった内容だと思うかもしれないが、実際には2〜10案を同時に試してダッシュボード上で推移を見ながら改善を続けていく。この分野では米OptimizelyAdobe Targetなどが先行しているが、Kaizenが違ったのは、「グロースハッカー」と呼ばれる個人やデザイン会社所属のプロたちが、顧客企業からの依頼に対して改善案を同時に多数提案するクラウドソーシングモデルとなっていることだ。

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須藤CEOは「A/Bテストツールを作るなどしてコンサルやSIerが改善していたのが従来です。Kaizenはツールを作っているのではなく、コラボレーションのソフトウェアを提供しているんです」と違いを説明する。

現在Kaizen Platformにはグロースハッカーが2900人ほど登録していて、そのグロースハッカーに仕事を依頼する企業ユーザー数は約170社となっているという。誰もが知る航空会社やECサイト、通信会社、保険会社など大企業が顧客となっている。1社あたりの支払額としては月額100万円がボリュームゾーンだ。顧客企業は売上規模で100億円以上のところがメインの顧客層だが、「もっと小さな会社にも使ってもらえています」という。「月額100万円って2人社員を雇うようなもの。自社でUI/UXの専門家を雇って、ユーザーのセグメントを分け、機械学習をやってっていう改善のサイクルを回すとか、なかなかできないですよね」

例えば、ある会社が保険契約のランディングページを改善したいとKaizen上で14万円など報酬金額とともに「オファー」を出すと、これに対してグロースハッカーたちから10〜30案ほどが集まる。ここから数案を実サイトに導入して、それぞれの数字の改善率をみる。案によっては数字が悪化するし、案によっては数%〜数十%、多いと100%以上も改善するということになる。これを継続的に続けていくことで、どんどんWebページを変えていく、というのがKaizen Platformだ。

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ワンショットでの「改善」ではなく、継続改善

プラットフォームに発注側と受注側が乗っかるというモデルは当初から目指していたものだが、このモデルの事業性には不安もあったという。

「改善がうまく行ってお客さんがいなくなってしまう事業だと怖いなと思っていました。でも、実際には継続してお使いいただいています。結局、今やサイトがお店になったわけですよね。で、お店だったら、ふつう店頭って変えますよね。店頭の陳列やディスプレイを変えないお店なんて、誰も行かないですよね」(須藤CEO)

改善を続けるべき理由は、例えば旅行業者なら季節性や為替・治安の変化があって同じ旅行先をオススメはできないし、ファッションでも季節性があるからだそう。同じ商品を売り続けているとしてもターゲットとするユーザー層が変わってくることもある。例えばネット保険だと、すでにネットリテラシーの高いアーリーアダプターは加入済みで、その次の層を狙いたいとなると、必然的にメッセージの出した方も変わってくるだろう、という。

ちなみに、「会員数を増やしたい」という顧客の声に対してであれば、会員登録の導線やエントリフォームの改善、誘導するエリアをどう改善するかということになるが、まずやるべきなのはファンネルモデルでいうと、いちばん最後の部分。そこを改善しないことには「穴の空いたヒシャクで水を汲むようなもの」になるからだそうだ。

改善すべき箇所は多数あり、何か特定指標だけ改善するというものではないという。

photo03「数万回の改善をやってきているから分かるんですが、単一の指標、例えばCVRだけを上げたいというようなことはありません。客単価、売れ筋、再訪率、インストール数、アクティブ率、フリークエンシー、回遊率、課金率なんかを改善するというようにいろいろあります。有料サービスのサブスクリプション解除を抑えるようなこともやってきました」

少し脇道にそれるようだが、ここでぼくが気になったのは、サブスクリプション解除を抑えるようなKPI改善によってブランドを傷つける例が最近増えているのではないか、ということだ。解約・退会方法を分かりづらくするという本末転倒のKPI改善が多くなったりしないのだろうか?

「いや、解約を分かりにくくするのは愚策だと思います。でも、例えば解約の直前に実はこんな機能がありますとメッセージを出す、とかはできますよね。サービスの良さを理解してもらった上での解約ならいいですが、そうでないなら改善できます。もちろん、こういうのはやりすぎると、いずれユーザーアクティビティーが下がったり、指標が下がっていきます。ロングタームの指標が傷ついたら仕方ないですよね」

ぼくが最近気になっているのは、ユーザーを騙すようなUIだ。例えば検索からたどり着いたランディングページにダイアログが出てきて、2つボタンが提示される。それぞれ「専用アプリでこのアイテムを表示する」「xyzをダウンロードする」とある。実は、どちらのボタンも挙動は同じで、結局アプリのダウンロードへと誘導される。ダイアログ上にバッテンボタンはなく、キャンセル方法はダイアログ以外の場所をタップすることしかない。あるいは、位置からしていかにも「続きを読むボタン」に見えて、実はアプリのダウンロードボタンというのもある。こういうUIならコンバージョン率は上がるに決まっているが、ハッキリ言って印象は最悪。ぼくはこういうサービスを信用できないので誰かに勧めようと思わない。

須藤CEOに言わせれば、こうしたUIが出てくる理由は「当座のKPIだけを見てるからではないか」ということ。「どの機能を使った人がどこでつまづいたかも分かる。ちゃんと指標を見ていれば、ユーザーがガッカリしてるのかどうかも分かるはず」だそうだ。

起こっているのは「経営のオープンソース化」

Kaizen Platformでアカウントを取得してログインしてみると、ほかの利用者やグロースハッカーがどういう改善をしているのかを見ることができる。これは結構すごいことで、須藤CEOは「経営のオープンソース化」という言葉で説明する。各社の改善の取り組みが丸見えとなっている様を画面で見るのは、初めて他社ソフトウェアのソースコードが丸見えになったときに似た、ちょっとした衝撃がある。もちろんオープンソース同様に企業によっては情報を非開示とする選択をしているところもある。

すでに書いたとおり何を改善すべきかという項目は多岐に渡るので、改善による結果は発注側担当者のプラニング、つまり力量に左右される面がある。どこの会社の何の担当者が、どのくらい「改善」しているのかというのはKaizen Platform上では可視化されている。改善する側のグロースハッカーについても、いつも高い勝率、改善率を叩き出す人や会社のランキングが数字やバッジで可視化されている。結果が優秀な人ほど報酬の割合が高くなる。さらに、近々高ランキングのグロースハッカーは最初から発注額を変えることも検討しているそうだ。

これは、担当営業の熱意とか、継続利用しているからという理由でWebサイトの構築・運営を特定業者に任せっぱなしにするような委託モデルに比べると、はるかにフェアで、厳しい実力の世界だと思う。

最初に作るWebページを起点として、後はJavaScriptを埋め込んでどんどん外部から改善していくというモデルは、検収や納品作業を省力化できるというメリットも大きいそうだ。グロース担当、サイト担当者がともに入れ替わっても改善を継続していけるので、「ナレッジが蓄積して人材の代替性を担保できる」(須藤CEO)というのもKaizen Platformの特徴だという。

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マーケ部門とIT部門は仲が悪い

発注・受注の組み合わせでの流動性が高くなることは、日本の企業社会では、ある種の必然という面がある。このあたり、須藤CEOの見立てが、とても面白い。

1つは大手製造業やファッションブランドといった「オールドエコノミー」に属する企業には、そもそもネットに強い人材が寄り付かず、採用ができないという事情があるのではないかということ。もともとIT人材は不足がちだが、テック成分の高いスタートアップなんかはマシなほうなのだろう。そして、この傾向はさらに加速する。ホテル・飛行機予約などネット対応が進んでいるビジネスもあるが、それでもネット化率は市場全体の10〜20%。須藤CEOは「オールドエコノミーのインターネット化率は3.6%に過ぎません。今後、ネットに強い人材はもっと採用できなくなる」と見ているという。

もう1つ、Kaizenのようなエコシステムがウケている背景に、多くの企業で「マーケティング部門とIT部門って仲が悪いんですよね」(須藤CEO)という事情があるのだという。マーケ担当者が「A/Bテストがやりたいです」と言っても、「うちはできません」とIT部門に突っぱねられるというような話だ。笑ってしまうが、読者にも大いに心当たりがあるだろう。そう、あなたがマーケ部門にいるなら「そう! あいつら!」と思うだろうし、あなたがIT部門にいるなら「そう、あいつら!」と思うだろう。キミらは仲が悪いのだ。

というように、Kaizen Platformのようなエコシステムが回り始めたのは、日本企業で人材の流動性が低いことがあるのかもしれない。

海外にもエコシステムが広がるか

Kaizen Platform上での改善による顧客企業の売上の伸びの累計は約241億円(ただし、Kaizen自身による推計。大雑把に言えばコンバージョン率と単価をかけたものだそうだ)。Kaizen Platformでは売上は毎月10%ずつ伸びていて、すでに売上は「最近マザーズに上場しているようなスタートアップ企業程度はある」(須藤CEO)という。年商10億〜20億円のレンジで成長中だが、「われわれも投資家も上場は焦ってはいません。事業の拡大がいちばん大事だと思っています。今あるエコシステムを日本で拡大していき、そして2年で作ったこのプラットフォームが海外に拡大できるかに取り組んでいく」

今のところ改善の対象となるのはページレイアウトやデザインだが、今後はディスプレイ広告やFacebook広告の最適化、DMPと連動させた商品のターゲティングオファーのような仕組みも取り入れていくという。

現在、海外企業によるKaizenの利用はシンガポールやロンドン、スペインなど10社程度。サイトを継続的に改善していくという課題自体は万国共通だろうが、今後どの程度海外への広がりを見せるのか。大型資金調達を終えて、もう1段階アクセルを踏み込むKaizen Platformがどこまで市場を拡大できるか注目だ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。