すでに別に記事にしているとおり、札幌で開催中のInfinity Ventures Summit 2014 Sprintのパネルディスカッションで、ハードウェアスタートアップの現場にいる4人のパネラーが、日本でハードウェアスタートアップをやる理由について議論した。
このパネルの最中、聴衆でありながら積極的に議論をしていた家電スタートアップのCerevo代表の岩佐琢磨氏が、ハードウェアスタートアップのファイナンスについて「プロジェクト単位か、会社単位か?」という点について興味深い持論を展開していた。
Cerevoは経営体制の変更と社員を約4倍にするということを昨日発表したばかりだが、takram desigin engineering代表の田川欣哉氏が「プロジェクト単位のファイナンスのほうが楽ですよね?」と水を向けると、岩佐氏はこう切り返した。
「3年前まで、そう思っていました。最初のファイナンスはシードも入れて1.2ミリオン(約1.2億円) 。そのときはワンプロダクトで、これが売れなきゃ終わりっていう感じだった」
2008年頃、ハードウェアスタートアップはプロダクトに投資するということはあっても、会社としての投資を受けるということは日本では難しかったと振り返る。そうしたこともあって、当初はプロダクトで投資を受けるプロダクト・ファイナンスだったが、今では「コーポレートファイナンスでいいと思っている」という。
Cerevoは、単体でUtream生放送をする「Live Shell Pro」やタブレットでライブ配信の映像スイッチをする「LiveWedge」など、市場自体はニッチだが、グローバルで見れば十分な規模となるような「グローバル・ニッチ」でやっていける手応えをここ2年ほど感じてるという。
「昨日、韓国の映像系イベントに行っていたんですが、ぼくらのファンが会場でCerevo製品を売ってくれたりしているんですね。あれ? オレたち卸してないよって」
Cerevoの個別製品というようりも、そのブランドにファンが付いているという。かつて「ソニーだったらワクワクするものを作ってくれるはず」というイメージがあったように、再び30年でグルっと回って、コーポレート単位のブランドで戦うのが有利ではないかという論点だ。最近、Kickstarterがプロジェクト・ファイナンスの典型として多くの華々しい成功が出てきているように見えるが、岩佐氏によれば、実際にはKickstarterから出てくるスタートアップの多くがブランドやコーポレートとして離陸していくところで苦労しているのだそうだ。
この岩佐氏のコメントに対して、「ひとりメーカー」のBsize代表取締役社長の八木啓太氏は、「ほかの産業だと、音楽にしても、ファッションにしても、ブランドを応援して、好きになって、そのコミュニティーの住人になりたいっていうのが大きい。ユーザーにコミットできるかというのが大事だと思っている。ハードウェアも同じ。繰り返せるかが重要と思っている」と応じた。Bsizeはたった一人の家電ベンチャーとして、最初はデザイン性に優れたLED照明をリリースしたが、その後も、木材を使っていて部屋に溶け込むワイレス充電器「REST」を2つ目のプロダクトとして発売。現在は、ソニーやパナソニックの技術者も入り、3つ目のプロダクトを準備しているという。「これまで家電は大きな投資をして、それを回収するビジネス。今は小ロットでスモールスタートできるようになったことが大きい」。
今後、Cerevoは人員を4倍に拡大してウェアラブルデバイスも開発すると発表したばかりだが、現在主力の映像系プロシューマ向け製品だけでなく、多様な製品ジャンルについて「グローバル・ニッチ」の開拓を進めていくことになりそうだ。