ブロックチェーン領域で複数の事業を展開するLayerXは10月2日、昨日開催の株主総会及び取締役会において役員人事を決議し、同日付で新経営体制がスタートしたことを明らかにした。
今回の人事では新たに取締役2名、執行役員2名、監査役1名を選任。取締役CFOに元Aiming取締役CFOの渡瀬浩行氏、取締役(非常勤)に元ユナイテッド取締役の手嶋浩己氏が就任している。
- 代表取締役 CEO / 福島良典氏 : Gunosy創業者
- 取締役 CTO / 榎本悠介氏 : Gunosy時代に新規事業開発室部長
- 取締役 CFO / 渡瀬浩行氏 : 元Aiming取締役CFO
- 取締役(非常勤)/ 手嶋浩己氏 : 元ユナイテッド取締役、XTech Ventures共同創業者
- 執行役員 / 牧迫寛之氏 : Gunosyの新規事業開発室で複数の事業開発を推進
- 執行役員 / 丸野宏之氏 : 丸紅やワンオブゼムを経て参画
- 監査役(社外)/ 掛川紗矢香氏 : 元メルカリ執行役員
LayerXは2018年8月の設立時よりブロックチェーンテクノロジーに関連する事業を展開。金融業界を軸に複数の企業と研究開発やブロックチェーンの社会実装を進めているほか、日本マイクロソフトなどともパートナーシップを締結してきた。
現在はエンジニアを中心に20数名のメンバーから構成される同社。先日には創業者である福島氏のMBOのニュースが大きな話題を呼んだが、渡瀬氏や手嶋氏ら経験豊富なメンバーを経営陣に加えエンタープライズ企業との取り組みをさらに加速させる計画だ。
直近の注力テーマは「既存金融のアップデート」
「ブロックチェーンは金融が大本命という考えは変わっていなくて、当初からずっと金融に張っている。ただこの1年間、業界の中に入って学習していく中で切り口は変わってきた」
福島氏はLayerXの現状についてそう話す。設立初期はトークンの設計やアプリケーションの実装などを通じてICOのプロジェクトをサポートするところに需要があると考えていたそうだが、今の軸はもっぱら既存金融の領域。特にエンタープライズ企業と中長期的な目線で新たなインフラ整備に取り組んでいる。
「既存金融システムは非常によくできているけれど、ブロックチェーンを用いることでもっとアップデートできる余地がある。時間がかかる領域だが『既存金融の上位互換』は大きな可能性があり、ここに自分たちの技術を提供する方が筋がいいのではという結論に至った」(福島氏)
具体的にすでにプロジェクトが始まっているのはいわゆる“証券化”の領域。ブロックチェーン上でアセットの権利を管理したり、新しいファンディングの管理ツールのような形で使ったり。福島氏いわくこの分野については「コストが下がる、より広い投資家にアクセスできるようになるなど、すでに価値があることが証明されている」ため、現実適用が1番進めやすいという。
「この1年でスタートアップ界隈はブロックチェーンに失望している感覚があるが、エンタープライズ側の反応は全く異なる。特に銀行や証券会社といった金融系の企業は『ブロックチェーンが少なくとも一部のシステムを置き換えるのは確定している』から積極的に投資すべきという意見だ」(福島氏)
昨年ガートナーが「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」を発表したが、その中でブロックチェーンは「過度な期待」のピーク期を越え、幻滅期へと坂を下りつつあるとしていた。
福島氏の感覚ではたとえばブロックチェーンを活用したゲームや著作権の管理などはまだハイプの山を登っている状況で、現段階ではビジネスとして取り組むには難しいのではないかという。一方でブロックチェーンはもともと通貨を作るために生まれた技術でもあるため、何かしらの価値を確定させたり、移転させるのには相性がいい。
「数年前から金融機関の実証実験でも確実にコストが下がるというのがわかってきている。これから求められるのはビジネスモデルをどう組み立てるか、経済性や現実性をどう設計していくかということ。特にエンタープライズはコンソーシアム型がメインになるので、そのコンソーシアムにどう乗ってきてもらうかの設計が重要だ。トランザクションスピードや秘匿化要件など技術的な課題ももちろんあるが、ビジネス側で滑らかなモデルを作っていけるかが問われている」(福島氏)
LayerXは大手金融機関がメイン顧客の“ソフトウェア会社”
福島氏によると今市場ではブロックチェーンテクノロジーへの深い理解を基に課題解決に伴走できるパートナーが足りていないそう。業界の仕組みを学習しながらその領域をサポートしていくのが直近のLayerXのビジネスの軸になる。
「CTOクラスのメンバーもどんどん加わり技術面ではかなり強い組織になってきているが、それだけで金融には入っていけない。人の重要なアセットを預かるのでWebサービスのノリで作ることはできないし、高い総合力が不可欠。優れた技術力とビジネスモデルの設計力や経営層を説得できる力、しっかりとした情報管理体制を持っていないと世の中から遠いものしか生まれない」(福島氏)
この考えが今回の経営体制強化にも繋がっている。取締役に就任した渡瀬氏や手嶋氏は共にベンチャーから上場させるところまで現場経験があり、体制作りやアライアンスなども含めて「大人のプレー」ができるメンバーだ。特に手嶋氏はビジネスサイドでの事業作り、渡瀬氏はバックオフィスを含めたコーポレート全般を強化する役割を担う。
2人に共通するのはLayerXのメンバーと実際に話す中でこのチーム、この領域ならものすごく面白いチャレンジができそうだと感じたこと。「この歳でやるということは最後のチャレンジになる可能性も高いので、伝説的な会社にする気持ちで取り組む」と口をそろえる。
同社では今後も「Zerochain」プロジェクトのようなR&Dを引き続き継続しつつ、まずはエンタープライズ企業のコンサルティングを中心に事業に取り組む計画。「『受託開発でしょ』とネガティブに捉えられるかもしれないが、この業界が今までのインターネットビジネスと違うのはパートナーありきになること。顧客もアセットもないスタートアップが重い業界に深く入るためにはパートナー企業が不可欠」というのが福島氏の考えだ。
「実際はコンサルというよりも一緒にプロダクト開発をやっている。自分たちとしては当然スケールするビジネスを狙っているし、今は『顧客が金融機関のソフトウェア会社』だと考えている」(福島氏)
収益の生み出し方もブロックチェーンテクノロジーをベースにした「ソフトウェアライセンス」と「それを活用した共同事業」が根幹だ。
一例としてPreferred NetworksやPKSHA Technologyの名前も出たが、まさにそういった企業が機械学習など他の分野で事業を急成長させたビジネスモデルに近い。少し意外なイメージもあったけれど、全銀システムなどスケーラブルなシステムを作っているという観点でNTTデータなどもベンチマークにしているという。
この辺りは福島氏がちょうど先日自身のnoteでも詳しく言及していたので、気になる方はチェックしてみるといいかもしれない。
技術力を前提に大人のプレーができる会社へ
ここ数年の間にブロックチェーンを活用した面白いプロジェクトがいくつも生まれた。その中には実際に多額の資金を集めたものもあるが「全体的には過剰にお金が集まったので、ここからの1〜2年は『これだけお金をつぎ込んで何ができたの?』という見られ方をするようになる」(福島氏)という。
福島氏によると市場全体としてまずは結果を出せという局面を迎えつつあり、現実的なエンタープライズ側の取り組みに方向性をシフトしていっている企業が目立つのは不可避な流れだ。
「世の中で言われている『ブロックチェーンを何に使っていいかわからない』は嘘だと思っている。先端にいる人たちの間では実際に現実適用が進み始めていて、議論の中心はビジネスモデルの設計やコンソーシアムにどう多様なプレイヤーを巻き込むかということへと明確に移っている」
「最近は技術を大前提にアライアンスなど大人のプレーができる会社の存在感が増してきている感覚。この1年で実用化の事例がどんどん世の中に出てくると予想していて、LayerXとしてもそこでしっかり勝負をしていきたい」(福島氏)