暗号資産・ブロックチェーン業界の最新1週間(2020.8.16~8.22)

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術に関連する国内外のニュースから、重要かつこれはという話題をピックアップし、最新情報としてまとめて1週間分を共有していく。今回は2020年8月16日~8月22日の情報をまとめた。

米ハワイ州、デジタル通貨の規制サンドボックス制度にbitFlyer USA、Geminiら12社を採択

米国ハワイ州は8月18日、暗号資産関連企業向けとなるデジタル通貨の規制サンドボックス制度の採択企業12社を発表した。ハワイ州商務・消費者省事務局の財政部門(DFI)ハワイ技術開発公社(HTDC)が共同で取り組む「デジタル通貨イノベーションラボ」が、3月より参加企業を募集していたパイロットプログラムがスタートする。

米ハワイ州、デジタル通貨の規制サンドボックス制度にbitFlyer USA、Geminiら12社を採択

同プログラムに採択されたデジタル通貨発行企業12社は、規制のサンドボックス制度を利用することで、向こう2年間、ハワイ州のデジタル通貨関連の送金者ライセンスを取得することなく、ハワイ州でデジタル通貨関連ビジネスを行える。規制のサンドボックス制度とは、地域・期間・参加者など限定のもと現行法・現行規制を一時的に適用させず技術実証などを行えるようにする取り組み。

これまでハワイ州では、暗号資産取引に関する連邦法の規制に加えて、暗号資産取引所に対し顧客から預かる暗号資産と同等の法定通貨を保有する必要があるという、消費者保護に関する厳しい規制をDFIが2017年から課していた。それによりハワイにおいて暗号資産取引所を運営していたCoinbaseを始めとする企業は、事業撤退を余儀なくされた経緯がある

パイロットプログラムでは、各企業はDFIと協力し合い、暗号資産(デジタル通貨)の早期導入を通じてハワイの経済的機会を創出することを目的に活動する。期間は、2022年6月30日を持って終了。期間終了後は、明示的な承認が与えられない限り、参加企業はすべての暗号資産取引を完了する必要がある。参加協定に従い、削減計画と出口戦略を実行することになっている。DFIは、企業が事業を継続するに価すると判断した場合は、適切なライセンスを決定することもあるとした。

なおハワイ州は、プログラムを通して得られた知見を、将来同州における暗号資産に関する法規制を決定する際の指針として活用する狙い。

LayerXらが4社共同で事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の実証実験開始、MaaS領域におけるブロックチェーン活用実証へ

すべての経済活動のデジタル化を推進するLayerXは8月18日、ブロックチェーン技術を活用したMaaS(マース。Mobility as a Service)領域における実証実験を開始したSOMPOホールディングス損害保険ジャパンナビタイムジャパンの3社と共同で実施するもので、保険事故発生の自動検出と保険金支払い業務を自動化する技術を実証していく。

MaaSとは、ICT(情報通信技術)を活用して、電車・バスといった公共交通機関を始め、タクシー・レンタカー・カーシェアリング・レンタサイクルなど交通手段をひとつのサービスとして捉え、モビリティ情報をクラウドで一元化し、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念。顧客の利便性を第一に考え、時刻表・経路検索・運行状況・運賃情報から支払いなど、運営会社を問わず情報を一括管理できる仕組みを目指すというもの。

MaaS社会では、保険においてもデジタル技術を活用した自動化・効率化による利便性の向上を図ることが求められると考えられる。実証実験では、MaaS社会の到来を見据え、保険の新たな顧客体験の可能性を検証する。

今回は、ナビタイムジャパンが提供する経路検索アプリケーション「NAVITIME」および「乗換NAVITIME」の利用者からテストモニターを募集。LayerXのブロックチェーン技術を活用した、保険事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の技術検証を主目的に、4社共同で実証実験を実施する。

具体的には、保険事故発生に「電車の運行遅延」を保険金請求事由として見立て、ブロックチェーン上でプログラムを自動的に実行できるスマートコントラクトの仕組みを活用し、保険金支払業務を自動化する。

LayerXらが4社共同で事故発生の自動検出と保険金支払業務自動化の実証実験開始、MaaS領域におけるブロックチェーン活用実証へ

今回の実験では、JR宇都宮線・高崎線・埼京線の遅延情報を自動検知し、位置情報をもとに、テストモニターのうち遅延の影響を受けたと判定された者に対して保険金に見立てたデジタルクーポン(NewDaysで使える200円クーポン)を即時に自動発行、配付する。こういったサービスが、利用者にとって受容されるサービスとなり得るかなどを検証するという。

実証実験は、SOMPOホールディングスが全体を統括し、実証実験モニターのニーズ調査を損害保険ジャパンが、モニター募集・API提供をナビタイムジャパンが、システム企画・開発をLayerXがそれぞれ担当する。

実施期間は8月18日から9月30日まで。モニター参加条件は、JR宇都宮線・高崎線・埼京線を日常的に利用し、スマートフォンで「NAVITIME」アプリからの通知を受け取れ、同実験に関する簡単なアンケートに協力できる者。応募方法は、実証実験モニター募集ページ(iPhone版Android版)にアクセスし、モニター登録手続きを行う。先着100名がテストモニターに選ばれる。なお、モニター登録数の上限に達した場合には登録は終了となる。

MaaSの現状

Maasの概念は、2016年のフィンランドで、MaaS Globalによる MaaSアプリ「Whim」のサービスから始まった。現在は、欧州からアジア・環太平洋地域(日本、韓国、米国、オーストラリア)に渡る地域においてMaaS AllianceとしてMaaS構築に向けた共通基盤を作り出す公民連携団体が活動している。MaaS Allianceには、日本からも東日本旅客鉄道(JR東日本)や日立、ソニーらが参画している。

MaaSでは、ICTにより交通機関などの経路、時刻表などのデータを検索し組み合わせ、利用者のニーズに合うサービスが提案される。このためMaaS社会においては、交通機関の運行情報や、駅の地理的情報などのデータが自由に利用できる必要があり、欧米ではオープンデータとして整備されている。日本では、2015年9月に公共交通オープンデータ協議会が設立され、「公共交通分野におけるオープンデータ推進に関する検討会」が検討を進めている。

さにら、国土交通省は2018年10月にMaaSなどの新たなモビリティサービスの全国展開を目指し、都市・地方が抱える交通サービスの諸課題を解決することを目標に、第1回「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」を開催。2019年をMaaS元年とし、日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進していくことを決定・選定するなど、日本においてもMaaS社会の実現に向けて、さまざまな研究開発・実証実験が行われている。

ビットコインのハッシュレートが史上最高値を記録、8月16日129.075EH/sに

ビットコインのハッシュレートが史上最高値を記録、8月16日129.075EH/sに

Blockchain.comによると、ビットコイン(BTC)のマイニングにおけるハッシュレートが8月16日、129.075EH/s(エクサハッシュ)を記録し、過去最高値を更新した。先週より軒並み125EH/sを超えており、先月末から立て続けにハッシュレートが上昇している。

ハッシュレートとは、ビットコインのマイニングにおいて1秒間に行う演算回数であり、採掘速度を示す数値となる。E(エクサ)は、K(キロ)、M(メガ)、G (ギガ)、T(テラ)、P(ペタ)と続く単位のひとつ上の単位で、1EH/sは1秒間に100京回のハッシュ計算を行えるを意味し、100EH/sは、1万京回となる。

  • KH/s: 毎秒キロハッシュ。1秒間に1000回ハッシュ計算
  • MH/s: 毎秒メガハッシュ。1秒間に100万回ハッシュ計算
  • GH/s: 毎秒ギガハッシュ。1秒間に10億回ハッシュ計算
  • TH/s: 毎秒テラハッシュ。1秒間に1兆回ハッシュ計算
  • PH/s: 毎秒ペタハッシュ。1秒間に1000兆回ハッシュ計算
  • EH/s: 毎秒エクサハッシュ。1秒間に100京回ハッシュ計算

ハッシュレートは、その平均値の高さにより、マイナーが収益性を重視していることを示しており、ビットコイン価格との相関性を検討する者もいる。ビットコインの価格は、2020年8月に入って120万円を超えており、先週は一時期130万円をも超え、2020年8月下旬時点で120万円台を推移していることから、ハッシュレートの上昇は、ビットコインの価格上昇の影響と見られている。

また、ビットコインはハッシュレートが上昇することで、マイニング難易度(Difficulty)も調整するようマイニングアルゴリズムが設計されており、先月中旬にマイニング難易度も過去最高の数値を示した。その後は、調整され少しずつ難易度が下がりつつあるものの、現在も最高水準の難易度をキープしている。ビットコインは、2週間に1回(2016ブロックに1回)の頻度で、その難易度を自動調整する仕組みを備える。

ビットコインのハッシュレートが史上最高値を記録、8月16日129.075EH/sに

ハッシュレートの上昇は、PoW(Proof of Work。プルーフ・オブ・ワーク)に参加するマイナーが増加していることを意味するため、ビットコインネットワークのセキュリティ向上につながる。一方、上昇しすぎるとマイニングの際の消費電力量が上昇し、マイナーの収益性が低下することにもなる。

難易度が上がるということは、マイニングにおいて個人マイナーには不利となり、有力マイニングプールが有利になることから、中央集権的な状況になる恐れもあるため、注視していきたい。

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LayerXが行政機関・中央銀行などと共同研究を手がけるLayerX Labs開設、デジタル通貨・スマートシティなど注力

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ブロックチェーン技術など活用した経済活動のデジタル化を推進するLayerXは7月29日、デジタル通貨およびスマートシティ、パブリックブロックチェーンの3領域を研究開発の柱にすえた「LayerX Labs」(レイヤーエックス・ラボ)を開設すると発表した。LayerX Labs所長は中村龍矢氏。

同社は、これまでブロックチェーンの社会実装にむけた研究開発を独自で多く手がけてきており、イーサリアムのプロトコルアップグレードプロジェクト「イーサリアム 2.0」の研究、次世代のプライバシー技術「Zerochain」、「Anonify」(アノニファイ)といったソフトウェア開発に取り組んできた。またブロックチェーン技術を活用した次世代金融取引サービスやアセットマネジメント事業、サプライチェーン分野における取り組みを通じて、様々な知見を蓄積している。

今後、ブロックチェーンの社会実装を推進すべく研究開発を一層発展させる上では、長期的な研究開発領域の柱を明確に据えることに加えて、外部知見を積極的に取り入れることが必要不可欠としている。

行政機関・中央銀行等・学術機関および民間企業との共同研究をさらに進めることを通じて、さらなる社会への適用を加速すべく、2020年8月より「LayerX Labs」を開設すると決定した。

LayerX Labsが本年度取り組むテーマは、「デジタル通貨・決済」、「スマートシティ」(特に、組織やサービスをまたぐデジタル化)、「パブリックブロックチェーン」の3点としている。

LayerX Labsでは、(1)行政機関・中央銀行等・学術機関および民間企業との共同研究、(2)基礎技術研究として学術論文の執筆やオープンソースコミュニティへの貢献(例:Anonify、Cordage)、(3)外部識者を招聘したアドバイザリーボード(仮)の設置、(4)ホワイトペーパーやニュースレターなどを通じた研究成果の発信を行う。

同社は、LayerX Labs設立を通じて、行政機関・中央銀行・学術機関・民間企業と連携しながら、これまで以上にブロックチェーン技術の実用化にむけた研究開発を加速していくとしている。

LayerX Labs所長は、LayerXに創業時より参画している中村龍矢氏。ブロックチェーンの研究開発に従事し、学術論文の執筆やOSS開発を行う。特に、イーサリアムのPoSプロトコル「Casper」コアリサーチャーを務め、改善案や脆弱性を複数提案。世界で初めて査読付き国際学会にてCBC Casperに関する論文を発表。また、ブロックチェーンのシャーディング技術の研究開発を行い、IPA 2020年度未踏IT人材発掘・育成事業に採択されている。

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LayerXは5月28日​、総​額約30億円を調達したことを明らかにした。第三者割当増資による調達で、引受先はジャフコ、 ANRI、YJキャピタル。同社はGunosyとAnyPayによる合弁会社で、非改竄性の高いブロックチェーンを利用し、各種業務プロセスのデジタル化を推進する2018年8月設立のスタートアップ。

同社のミッションは「すべての経済活動を、デジタル化する」。2019年10月にEthereum Foundation Grants Programの対象企業に選定されたほか。同年11月には三菱UFJフィナンシャル・グループとの協業、2020年4月には三井物産と三井物産デジタル・アセットマネジメントを設立するなど、サービスの商用化を進めている。今回調達した資金は、商用化のための事業会社設立や、付随する事業・プロダ クト開発、人材採用に投下される。

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LayerXの取締役に元ユナイテッド手嶋氏・元Aiming CFO渡瀬氏が就任、新体制で既存金融のアップデートへ

ブロックチェーン領域で複数の事業を展開するLayerXは10月2日、昨日開催の株主総会及び取締役会において役員人事を決議し、同日付で新経営体制がスタートしたことを明らかにした。

今回の人事では新たに取締役2名、執行役員2名、監査役1名を選任。取締役CFOに元Aiming取締役CFOの渡瀬浩行氏、取締役(非常勤)に元ユナイテッド取締役の手嶋浩己氏が就任している。

  • 代表取締役 CEO / 福島良典氏 : Gunosy創業者
  • 取締役 CTO / 榎本悠介氏 : Gunosy時代に新規事業開発室部長
  • 取締役 CFO / 渡瀬浩行氏 : 元Aiming取締役CFO
  • 取締役(非常勤)/ 手嶋浩己氏 : 元ユナイテッド取締役、XTech Ventures共同創業者
  • 執行役員 / 牧迫寛之氏 : Gunosyの新規事業開発室で複数の事業開発を推進
  • 執行役員 / 丸野宏之氏 : 丸紅やワンオブゼムを経て参画
  • 監査役(社外)/ 掛川紗矢香氏 : 元メルカリ執行役員

LayerXは2018年8月の設立時よりブロックチェーンテクノロジーに関連する事業を展開。金融業界を軸に複数の企業と研究開発やブロックチェーンの社会実装を進めているほか、日本マイクロソフトなどともパートナーシップを締結してきた。

現在はエンジニアを中心に20数名のメンバーから構成される同社。先日には創業者である福島氏のMBOのニュースが大きな話題を呼んだが、渡瀬氏や手嶋氏ら経験豊富なメンバーを経営陣に加えエンタープライズ企業との取り組みをさらに加速させる計画だ。

直近の注力テーマは「既存金融のアップデート」

「ブロックチェーンは金融が大本命という考えは変わっていなくて、当初からずっと金融に張っている。ただこの1年間、業界の中に入って学習していく中で切り口は変わってきた」

福島氏はLayerXの現状についてそう話す。設立初期はトークンの設計やアプリケーションの実装などを通じてICOのプロジェクトをサポートするところに需要があると考えていたそうだが、今の軸はもっぱら既存金融の領域。特にエンタープライズ企業と中長期的な目線で新たなインフラ整備に取り組んでいる。

「既存金融システムは非常によくできているけれど、ブロックチェーンを用いることでもっとアップデートできる余地がある。時間がかかる領域だが『既存金融の上位互換』は大きな可能性があり、ここに自分たちの技術を提供する方が筋がいいのではという結論に至った」(福島氏)

具体的にすでにプロジェクトが始まっているのはいわゆる“証券化”の領域。ブロックチェーン上でアセットの権利を管理したり、新しいファンディングの管理ツールのような形で使ったり。福島氏いわくこの分野については「コストが下がる、より広い投資家にアクセスできるようになるなど、すでに価値があることが証明されている」ため、現実適用が1番進めやすいという。

「この1年でスタートアップ界隈はブロックチェーンに失望している感覚があるが、エンタープライズ側の反応は全く異なる。特に銀行や証券会社といった金融系の企業は『ブロックチェーンが少なくとも一部のシステムを置き換えるのは確定している』から積極的に投資すべきという意見だ」(福島氏)

昨年ガートナーが「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2018年」を発表したが、その中でブロックチェーンは「過度な期待」のピーク期を越え、幻滅期へと坂を下りつつあるとしていた。

福島氏の感覚ではたとえばブロックチェーンを活用したゲームや著作権の管理などはまだハイプの山を登っている状況で、現段階ではビジネスとして取り組むには難しいのではないかという。一方でブロックチェーンはもともと通貨を作るために生まれた技術でもあるため、何かしらの価値を確定させたり、移転させるのには相性がいい。

「数年前から金融機関の実証実験でも確実にコストが下がるというのがわかってきている。これから求められるのはビジネスモデルをどう組み立てるか、経済性や現実性をどう設計していくかということ。特にエンタープライズはコンソーシアム型がメインになるので、そのコンソーシアムにどう乗ってきてもらうかの設計が重要だ。トランザクションスピードや秘匿化要件など技術的な課題ももちろんあるが、ビジネス側で滑らかなモデルを作っていけるかが問われている」(福島氏)

LayerXは大手金融機関がメイン顧客の“ソフトウェア会社”

福島氏によると今市場ではブロックチェーンテクノロジーへの深い理解を基に課題解決に伴走できるパートナーが足りていないそう。業界の仕組みを学習しながらその領域をサポートしていくのが直近のLayerXのビジネスの軸になる。

「CTOクラスのメンバーもどんどん加わり技術面ではかなり強い組織になってきているが、それだけで金融には入っていけない。人の重要なアセットを預かるのでWebサービスのノリで作ることはできないし、高い総合力が不可欠。優れた技術力とビジネスモデルの設計力や経営層を説得できる力、しっかりとした情報管理体制を持っていないと世の中から遠いものしか生まれない」(福島氏)

この考えが今回の経営体制強化にも繋がっている。取締役に就任した渡瀬氏や手嶋氏は共にベンチャーから上場させるところまで現場経験があり、体制作りやアライアンスなども含めて「大人のプレー」ができるメンバーだ。特に手嶋氏はビジネスサイドでの事業作り、渡瀬氏はバックオフィスを含めたコーポレート全般を強化する役割を担う。

2人に共通するのはLayerXのメンバーと実際に話す中でこのチーム、この領域ならものすごく面白いチャレンジができそうだと感じたこと。「この歳でやるということは最後のチャレンジになる可能性も高いので、伝説的な会社にする気持ちで取り組む」と口をそろえる。

同社では今後も「Zerochain」プロジェクトのようなR&Dを引き続き継続しつつ、まずはエンタープライズ企業のコンサルティングを中心に事業に取り組む計画。「『受託開発でしょ』とネガティブに捉えられるかもしれないが、この業界が今までのインターネットビジネスと違うのはパートナーありきになること。顧客もアセットもないスタートアップが重い業界に深く入るためにはパートナー企業が不可欠」というのが福島氏の考えだ。

「実際はコンサルというよりも一緒にプロダクト開発をやっている。自分たちとしては当然スケールするビジネスを狙っているし、今は『顧客が金融機関のソフトウェア会社』だと考えている」(福島氏)

収益の生み出し方もブロックチェーンテクノロジーをベースにした「ソフトウェアライセンス」と「それを活用した共同事業」が根幹だ。

一例としてPreferred NetworksやPKSHA Technologyの名前も出たが、まさにそういった企業が機械学習など他の分野で事業を急成長させたビジネスモデルに近い。少し意外なイメージもあったけれど、全銀システムなどスケーラブルなシステムを作っているという観点でNTTデータなどもベンチマークにしているという。

この辺りは福島氏がちょうど先日自身のnoteでも詳しく言及していたので、気になる方はチェックしてみるといいかもしれない。

技術力を前提に大人のプレーができる会社へ

ここ数年の間にブロックチェーンを活用した面白いプロジェクトがいくつも生まれた。その中には実際に多額の資金を集めたものもあるが「全体的には過剰にお金が集まったので、ここからの1〜2年は『これだけお金をつぎ込んで何ができたの?』という見られ方をするようになる」(福島氏)という。

福島氏によると市場全体としてまずは結果を出せという局面を迎えつつあり、現実的なエンタープライズ側の取り組みに方向性をシフトしていっている企業が目立つのは不可避な流れだ。

「世の中で言われている『ブロックチェーンを何に使っていいかわからない』は嘘だと思っている。先端にいる人たちの間では実際に現実適用が進み始めていて、議論の中心はビジネスモデルの設計やコンソーシアムにどう多様なプレイヤーを巻き込むかということへと明確に移っている」

「最近は技術を大前提にアライアンスなど大人のプレーができる会社の存在感が増してきている感覚。この1年で実用化の事例がどんどん世の中に出てくると予想していて、LayerXとしてもそこでしっかり勝負をしていきたい」(福島氏)

LayerXと日本マイクロソフトがブロックチェーン分野で協業へ、導入コンサルから実装までをサポート

ブロックチェーン関連事業を展開するLayerX(レイヤーエックス)と日本マイクロソフトは11月30日、ブロックチェーン分野において協業を開始することを明らかにした。まずは共同で企業へのブロックチェーン導入コンサルティングや開発支援などのサポートを行う計画だ。

日本マイクロソフトではMicrosoft Azureベースのブロックチェーンプラットフォームの提供や、エンタープライズ市場におけるブロックチェーン導入企業の開拓を支援。一方のLayerXはブロックチェーン技術を導入するためのコンサルティングや設計、開発など技術面のサポートを担当する。

近頃はTechCrunch Japanでもブロックチェーンに関連するニュースやコラムを紹介する機会が増えてきたけれど、企業のブロックチェーン技術の活用や導入に対する関心度も徐々に高まってきている。

そのニーズに応えるべく日本マイクロソフトでは2016年よりMicrosoft Azure上でブロックチェーンインフラの構築支援をするBaaS (Blockchain as a Service)の提供をスタート。NasdaqのNasdaq Financial Framework (NFF)など、すでに国内外で多くの利用実績がある。

一方のLayerXはGunosyとAnypayのジョイントベンチャーとして8月に設立されたスタートアップだ。同社の代表取締役社長を務めるのはGunosy創業者でもある福島良典氏。ブロックチェーン領域に特化して複数の事業を展開し、ブロックチェーン技術の研究やシステムの開発、導入コンサルティングなどを手がけてきた。

今回の協業は国内でブロックチェーン技術の社会実装が加速している状況を踏まえた取り組み。日本マイクロソフトのインフラ基盤とLayerXの技術開発力を掛け合わせることで、企業がブロックチェーン技術を導入する際のプロセスをトータルでサポートする。

「(ブロックチェーンを)どのような領域でどのように活用したらいいか分からない」という企業も多い中で、顧客の事業ドメインやサービスの特性を考慮してブロックチェーンに向いている領域を見つけるところから、BaaSを活用した開発の技術支援まで行う予定だ。

これに限らず、今後両社ではブロックチェーン技術の普及に向けた施策を検討していく方針。「様々な業種でのブロックチェーン技術の実装を推進することで、人々の生活や働き方のトランスフォーメーション実現に向けて取り組みます」としている。

ブロックチェーンを活用した空間サービスのマーケットプレイス「Cryptorealty」にLayerX・ツクルバが参画

左から、LayerX代表取締役社長 福島良典氏、Property Access CEO風戸裕樹氏、ツクルバ代表取締役CEO村上浩輝氏

シンガポールを拠点とし日本と世界の不動産取引支援プラットフォームを構築するProperty Access Assetは8月30日、ブロックチェーンを活用したマーケットプレイスを創造するプロジェクト「Cryptorealty」を発表した。マーケットプレイスの対象となるのは、主に東南アジアの空間・サービスだ。

同プロジェクトにはGunosyとAnyPayの合弁会社として8月1日に設立されたばかりのブロックチェーン関連事業を行うLayerX、ならびにリノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」の運営などを手がけるツクルバがパートナーとして参画。LayerX代表取締役社長 福島良典氏はテクニカル・アドバイザー、ツクルバ代表取締役CEO村上浩輝氏はストラテジック・アドバイザーとして関与している。

以前にもお伝えしたとおり、Gunosyとツクルバは2018年5月よりブロックチェーン技術の不動産領域への活用にむけた共同研究を開始しており、LayerX設立以降、Gunosyのブロックチェーンチームは同社へ移行している。

Cryptorealtyへの関与はその共同研究の第一弾の成果になるのだと福島氏・村上氏は意気込んでいる。

Cryptorealtyは商業空間や空間を活用したサービスの創出・利用を、誰もが見える形で取引できるよう促すマーケットプレイス。空間・サービスを提供するオペレーターとプロジェクトを支援する支援者、そしてユーザーが空間およびサービスの利用権を販売や購入、レンタルをすることができる。

従来のREIT(不動産投資信託)やクラウドファンディングでは成しえなかった不動産領域での資金調達の課題の解決を目指す。

「REITでは非常に大規模なプロジェクトしかリスティングされず、かつ、例えば日本のJREITだと国内の投資家など限られた人しか買えなかったので、中小規模のデベロッパーにとってはファンディングの機会が非常に限られていた。クラウドファンディングでは、モノづくりのプロジェクトは相性が良いが、不動産のプロジェクトだと相性が非常に良くなかった。また、銀行からも資金を借りづらい。Cryptorealtyはそこを解決するようなプロジェクトだ」(村上氏)

Cryptorealty上ではオペレーターが自分たちの利用権をデジタルアセットとしてトークン化し、プラットフォームに登録する。サポーターやユーザーは利用権を買い、貸し出すことでリターンを得られたり低価格で高品質なサービスを利用できる。

Cryptorealtyの特徴は、ファンや応援者以外に、投資家の性質を持った支援者も集まりやすい点だ。福島氏は「従来のクラウドファンディングは基本的にファンが参加するもの、利用者が参加するものだったが、レンタルがあることによってユーザー以外のファンが参加できる」と説明する。

また、ブロックチェーンによる「トラストレス」な環境を整備することで、グローバルなオファーも期待できる。「ブロックチェーンを活用することで、利用権や所有権の移転や、それを“この時間で貸します”といったことが簡単にできる。ブロックチェーンは不動産領域と非常に相性が良い」(村上氏)

福島氏は「従来のプロジェクトは単純に仮想通貨で不動産が買える、というものが多かった。僕たちはもう少し踏み込み、トークンを絡めて今の世の中の不動産の課題を解決するものが作れないかと考えていた」と今回の参画について話していた。