ブロックチェーンを扱うFacebookの子会社Calibraの代表のDavid Marcus(デヴィッド・マーカス)氏は、米国時間7月16日、17日に予定されている米国連邦議会での証言に先立ち、その内容を公開した。これによると、Libra Associationは、本社を置くスイスの政府による規制下に入るとのことだ。それまでの間は、Libra AssociationとFacebookのCalibra Walletは米国の税制、反資金洗浄規制、不正防止に関する法律に準拠するという。
「Libra Associationは、認可を受け、規制に従い、監督当局による監視の下に置かれることを期待しています。Libra Associationはジュネーブに本社があるため、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)の監督下に置かれることになります」とマーカス氏は記している。「私たちはFINMAと予備会談を行いました。そして、Libra Associationのための適正な規制の枠組みの中で彼らと関わっていくことになります。またLibra Associationは、FinCEN(米国財務省の金融犯罪捜査網)に金融業者として登録する意向があります」
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米国の資金洗浄対策(AML)や顧客確認(KYC)の法律にLibraがどう準拠するかについては、マーカス氏はこう説明している。「Libra Associationも、規制当局、中央銀行、議員と同じように、資金洗浄やテロへの資金供与などをなくすための努力を行っています」。さらにマーカス氏はこう話す。「またLibra Associationは、AMLおよび銀行秘密法を尊重し、その政策と手続き、その他の国際的な安全保障上の法律を守り、テロリズムへの資金供与と戦います。Libraネットワークで金融サービスを提供したいと考える人たちにも、それに準拠してもらいます」
彼は、犯罪者は法の取り締まりを避けるために現金で取り引きを行うため、「Libraは、摘発と法の執行を後退させるどころか、強化します」と主張している。「不正行為が横行する紙幣取り引きのネットワークから、デジタルネットワークへの移行を促進します。そこでは、適正な顧客確認(KYC)の実行による出入り口の管理が機能し、法執行機関や規制当局にはオンチェーン取り引きの独自の分析を可能にする手段が与えられます。したがって、金融犯罪の監視と取り締まりの効力は増大します」
Facebook自身については、マーカス氏はこう書いている。「Calibraウォレットは、 米外国資産管理局(OFAC)が定めたAMLおよびCFT(テロ資金供与対策)プログラムのためのFinCENの規則に従っています。同様に、Calibraも銀行秘密法を遵守し、世界で採用されているKYCおよびAML、CFTの手法を採り入れます」
こうした答えは、金融法にうるさい人たちをなだめる役に立つかも知れないが、私は、議会からもっと主観的な質問がなされることを期待している。ケンブリッジ・アナリティカ事件のような、プライバシー上の約束を破ったりフェイクニュースを流すといった10年間にわたり不祥事を続けてきたFacebookを信頼できるかどうかだ。
そのため私は、Facebookがコミュニケーションの形を変革したとするマーカス氏の以下の声明で、その変革によって社会が混乱したと怒る議員たちと仲良くやれるようになるとは思えない。「私たちは、数十億の人々のための無料で無制限のコミュニケーションを数多く民主化してきました。同じことがデジタル通貨と金融サービスにも起きるよう、支援したいと思っています。しかし、ひとつだけ重要な違いがあります。私たちは、私たちが育ててきたネットワークと通貨の支配権を放棄します」。議会は「民主化」を「混乱」と解釈するだろう。だから、それがお金の世界でそれが起きることを、快く思わない。
FacebookとCalibraは、銀行口座を持たず、銀行や送金業者から多大な手数料を搾取されている貧困家庭を救済するという前向きな意図があるのかも知れない。しかし、Facebookは純粋な利他主義で動いているわけでもない。Facebookは大きく3つの方法でLibraから利益を得ることにしているが、それはマーカス氏の証言には示されていない。
- Facebookは、従来の通貨による、Libraの担保として保有するLibra準備金から得られた利益の一部を受け取る。Libraの人気が高まれば、数十億ドル単位にまで膨れ上がる。
- Libraを使えば簡単に安価にネット決済ができるため、マーケティング予算はFacebookやGoogleなどのチャンネルに効率的に変換されるようになり、インターネットでの商取引が増大し、Facebookの広告の売り上げも伸びる。
- Calibraを通して新しい金融サービスを販売する。可能性としては、Facebookデータを統合すればローンやクレジットを格安に利用できるサービスをユーザーに提供することで、債務不履行が減少し、他のプレイヤーよりも多くのマージンをFacebookが獲得できるようになる。
現実には、フォトシェアリングなどよりずっと大きな賭になる。規制当局の認可にも、適正で詳しい検査が必要になる。FacebookがLibraの所有権からいかに遠ざかろうとしても、それを立ち上げ、育ててきたFacebookが、今も引き続きプロジェクトを主導している。もし議会が、「大きいことは悪いこと」であり、LibraがFacebookをさらに肥大化させるとすでに信じ込んでいたのなら、FacebookとLibraを切り離して、その暗号通貨の利点とリスクを認識することは難しくなる。
マーカス氏の証言の全文は以下のとおり。
Libraの仕組みに関する詳しい解説は、下の記事をお読みいただきたい。
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(翻訳:金井哲夫)