TechCrunch Japanとリクルートとのコラボレーションによる日本最大級のWebアプリ開発コンテスト「Mashup Award 9」(MA9)が今年も開催された。改めてMA9について説明すると、インターネット上で企業や自治体など、さまざまな組織や個人が公開しているWeb APIを利用して、新しいサービス開発のアイデアを競うというものだ。今年で9回目を数え、8月30日から10月28日の募集期間に、400チームから460作品もの応募があった。
そして11月12日に、TechCrunch Tokyo 2013と併催されるかたちで、MA9の表彰式とMA9 Battle Final Stage(決勝戦)が実施された。そこでは予選を勝ち抜いてきた5作品と、部門賞を受賞した7作品を手がけた、合計12チームのマッシュアッパーがプレゼンテーションによって来場者にアピール。観客の投票によって決められる最優秀賞作品には、ガリとマチョが手がけた「1Click飲み」が選ばれた。
「1Click飲み」は、飲み会の参加人数を決めるだけで、店の選択から予約までを1クリックで行うアプリ。立ち上げると位置情報から周囲の飲食店を検索、評価や価格帯などを考慮して店を決め、自動的に電話を掛け合成音声によって予約を取ることができる。電話という古い技術と位置情報という新技術をマッシュアップしたアプリだ。
デモでは、「1クリックでお店を予約できる」というアイデアのユニークさと、それをAPIを駆使して高度な実装を行いながら、シンプルなユーザーインターフェイスを実現していることが目立っていた。コールセンターなどで自動応答になっているケースが増えて、ユーザーの立場からはよくあることだが、逆にユーザーから事業者サイドへの電話して、合成音声によって自動応答させるという、発想の転換に多くの観客が驚いていた。さらに、アプリを使ってお店に合成音声で電話を掛け、お店の店員が驚く様子を録音したものを流して、観客から大きな笑いをとっていた点も高い評価につながったようだ。
このほかに決勝に進出した11作品の概要と受賞部門は次の通り。
・来栖川電算 teamR「毎朝体操」(優秀賞)
ラジオ体操を推進するアプリ。アプリを立ち上げ、ラジオ体操にあわせてスマホを握って体操をすると、動きを検知して採点してくれるというもの。ソーシャル機能で友達と競ったり、APIで取得した海抜にもとづいてどれだけ高い場所でラジオ体操をしたのかを競ったりもできる。
・Drive Do「Quiz Drive(クイズドライブ)」(優秀賞)
車と連動し、位置情報や車の状態にあわせたクイズを出題することで、ドライブを楽しくするアプリ。位置情報からその場所にちなんだクイズを出題したり、渋滞に巻き込まれて暇をもてあました頃にクイズで同乗者のイライラを解消したりできる。罰ゲームでクイズに変化を持たせたりといった工夫もある。車のセンサーからデータを取得するため、まだ一部の車種でしか利用できない。
・浅部佑「SoundGuess」(U-18賞by Life is Tech!)
猫の鳴き声、水の音などが流れてくるので、その音の名前を当てるクイズ。出題される音は、ユーザーが録音してアップロードしたもの。時間制限があったり、ヒント機能があったりと、工夫がなされている。浅部さんは15才の高校1年生で、SoundGuessを普及させるために会社も設立した。
・河本健「Tempescope」(ハードウェア賞by gugen)
離れた場所の天気を再現する小さな「空の箱庭」のハードウェア作品。曇りや雨、雷などを再現するもの。APIで明日の天気予報や、離れた地域の天気を取得して、箱の中に再現する。玄関において天気予報を確認したり、Skypeで会話している相手のがいる場所の天気を再現して共感したりできる。設計図やアプリのコードはすべてオープンソースになっている。
・からくりもの「バスをさがす福岡」(Civic Hack賞)
福岡のバス路線を安心して使えるようにするアプリ。乗るバス停と降りるバス停を入力すると、乗るべき路線と、そのバスが今どこにいるかリアルタイムで教えてくれる。バスの位置をバス会社のWebから取得し、バス停の位置を国土交通省のデータから取得して作成している。
・求職者支援訓練モバイルクリエーター養成科チーム侍「SAMURAI AGGRESSIVE」(おばかアプリ賞)
ゲームプレイヤーにつきまとう不健康なイメージを払拭するために作成した、侍になって敵を倒すゲーム。スマホを振ることで攻撃、回避し、さらに必殺技も出せる。モーションセンサや地磁気センサで動きを検知し、アクションが大きいほど強くなる。「ダイエット応援ダンジョン」モードを利用すると、食事のカロリーが敵の強さになる。
・vinclu「vinclu(ウィンクル)」(優秀賞)
スマホの地磁気センサとGPSを利用した新しいコミュニケーションの形を提案するハードウェア。ペアでスマホに取り付け、もう片方がいる方角にスマホを向けるとvincluが光り、相手には音で知らせるというもの。離れた場所にいる恋人同士や家族が、相手の存在を確かめ合うことができる。
・Grashphy「Grasphy」(Students賞by Tech-Tokyo)
新しい形の英語の翻訳を実現するツール。辞書を使っての翻訳でもなく、機械翻訳による文章の生成でもなく、文構造の解析に着目し、主語や動詞、目的語などの構文解析を自動的に行い、プログラミング言語のように構造化して表示。英文の構造をユーザー自身が読解することで、内容理解を促すというもの。
・ANNAI「ANNAi Call -多言語対応クラウド・ソーシャルコール・サービス」(優秀賞)
海外からの電話にクラウドソーシングで対応するアプリ。海外からの電話をシステムで受け付けて録音、その外国語に対応可能なスタッフをアサインして、通話内容に対応する。リアルタイムで対応しないことで、低コストで多言語への対応が可能。地方の旅館やECサイトなどで活用を想定、日本と海外をつなぐことを目指したサービス。
・24-7「Mashup Vision」(Mashup賞)
日常生活を便利にするARアプリと、スマホをヘッドマウントディスプレイにするアダプタ。音声認識で道案内や天気予報の表示、顔認識によるFacebookフレンドの検索など、日常生活のシチュエーションに対応する多数のモードを用意。ARをさまざまな場面で活用することで、日常生活、暮らしを拡張する未来を先取りすることを目指したもの。
・Wonder Shake「Fuwari」(TechCrunchハッカソン賞by TechCrunch Japan)
決勝戦の前日と当日に行われたハッカソンで開発された、TechCrunchハッカソン部門賞の受賞作品。再生した音楽の「ムード」を解析、それによって人を繋げるアプリ。同じムードの人を見つけたり、友人がどんなムードの音楽を聴いているかがわかる。問題解決ではなく、近いムードのひととふんわりと共感することを目指したもの。
以上の決勝戦に残った作品は、どれもアイデアと工夫に溢れた作品で、どのデモンストレーションも、驚きや共感の声、ユニークさへの笑いを聞くことができた。最後に主催のリクルートホールディングス メディアテクノロジーラボ所長の前田圭一郎氏が今年のマッシュアップアワードを振り返り、「全国8カ所で10回にわたってマッシュアップバトルやハッカソンを開催したこともあって、多くの参加チームに恵まれて、作品に多様性が広がった。特に最優秀賞となった1Click飲みは、サービスサイドで見てしまいがちなAPIをユーザー視点でまったく新しい使い方をしているのに驚いた」と述べ、マッシュアップアワードが回を重ねてきたことで広がりを見せていることを強調した。