MITのSolveは本当に実効性のある社会改革コンテストの新しい形を示す

[著者:Ziad Reslan]

10年ほど前に、McKinsey&Companyが革新を促すためのコンテストの上手な活用方法を記事にして以来、業界全体が社会革新コンテストを中心に成長してきた。そうした「世界の救済」をテーマとしたコンテストも、形式化が進んだ。ドラムを鳴らして賞に話題を集め、大手企業と提携して資金を集め、著名人の審査員を並べる。世界中からできるだけ多くのアイデアを募り、そこから多くのメディアが注目するきらびやかなイベントで、ピッチを行うファイナリストを絞り込む。

最終選考のステージでは、ほんの数分間のピッチをもとに勝者が決まり、数百万ドルもの賞金が渡される。そんなコンテストを行うソフトウエア・プラットフォームをお持ちではない? 大丈夫。こうした作業を10ドルから数十万ドル程度の予算で代行してくれる業者がたくさん現れている。そんな業者は加速度的に成長し、賞金の額も1970年には2000万ドル(現在の相場で約22億7000万円)に及ばなかったものが、わずか40年後には3億7500万ドル(約426億円)にまで跳ね上がっている。

しかし、この賞金は世界を救済する目的のために、本当に役立っているのだろうか? それを示する証拠はあまりにも少ない。慈善活動のリーダーの中には、大きな疑念を抱いている人もいる。

その一方で、マサチューセッツ工科大学(MIT)は、Solveという、別のアプローチによる社会革新コンテストを実施している。コンテストで有効と思われるアイデアを選び、技術系アクセラレーター・プログラムを融合させるのだ。それには、結果を重視した受賞後の教育も含まれている。

Solveは、すでに過密状態にある社会革新コンテストの世界に参入を試みている。内容がかぶっている賞も少なくないが、どれもこの分野の「ノーベル賞」になろうと競い合っている。賞が増えれば騒ぎも大きくなる。注目を集めるために、賞金の額はどんどん吊り上げられる。

しかし、民間の裕福な企業は、賞金が革新的な良い結果に活用されるかどうかまでは保証していない。2004年、Bigelow Aerospaceは、有人宇宙飛行カプセルのアイデアを募る賞金5000万ドル(約56億9000万円)のSpace Prizeコンテストを開催したが、宇宙研究者たちの想像力を掻き立てるものを得ることができず、結局は勝者のないまま終わってしまった。2009年にはNetflixが、映画のお薦めを行うアルゴリズムを10パーセント効率化するアイデアに100万ドル(約1億1400万円)の賞金を出すNetflix Prizeコンテストを実施した。これは、プログラマーたちの競争を煽ったが、結局のところ、Netflixは社内でよりよい方法が開発されたために、計画自体が中止されてしまった。

全体的に社会革新コンテストは、派手でカリスマ性のあるプレゼンテーションに賞を贈るもので、英語が下手だったり、内気だったり、美しいスライドを作れない者には辛い場所になっている。

しかし、9月23日の日曜日、ニューヨークにて3年目の最終選考会を開催したSolveは、独自の方向性を示している。

あらかじめ内部で課題を決めている他のコンテストとは違い、Solveはまず、クラウドソーシングで課題を探るところから始める。Solveのスタッフは、何カ月もかけて世界中でハッカソンやワークショップを開催し、その年のコンテストの課題に相応しい、もっとも差し迫った問題を4つ選び出す。今年の課題は、教師と教育者、未来の労働力、健康の最前線、海沿いの街だ。

その課題が、世界中の参加者に公開される。申し込みの基準は低く設定してあるため、最終的に110カ国から1150件の応募があった(世界の60パーセントの国から少なくとも1件の申し込みがあったことになる)。

先進技術のためのGM賞の受賞者たち(写真:Adam Schultz | MIT Solve)

ただし、アイデアだけでは参加できない。実際に稼働するプロトタイプが必要だ。それは、成長、パイロット、スケールのどの段階でも構わないが、技術主体でなければならない。応募アイデアは、さまざまな業界、政府間組織、学界から選ばれた審査員によって吟味され、4つの課題ごとに15チームが決勝に進む。決勝では、合計60チームが丸一日をかけて細かな質問に答える。その後、アイデアが評価される。

翌日、最終選考に残ったすべてのチームは、それぞれ3分間のプレゼンテーションをステージ上で行う。重要なのは、勝者は1チームだけでなく、各課題ごとに8チームが選ばれることだ。

それぞれの勝者には、まず1万ドル(約114万円)の賞金が贈られ、さらに、General Motors、Patrick J. McGovern Foundation、Consensys、RISEといった協賛団体や企業から、何十万ドルという共同出資金が用意される。

たとえば今年、ウガンダの医療系スタートアップNeopendaは、Solveを通して3万ドル(約341万円)の追加資金を受け取った。これは、Citiがスポンサーを務める国連プログラムからの出資だ。また、親と教育者の個別指導技術の開発費用として、インテリジェント・メッセージ・アプリTalkingPointが、GMとセーブ・ザ・チルドレンの支援を受けた(今年の受賞者に関する詳細はこちらでご覧いただける)。

賞金をもらって終わりという「一度きりのコンテスト」と違うのは、参加者が「Solver」に選出されたときから本当の仕事が始まるといいう点だと、コミュニティー担当責任者Hala Hannaは私に話してくれた。Solveで優勝してSolverになると、12カ月間にわたりMITとのつながりが持て、支援が受けられる。「MITを始めとするネットワークを提供し、協力関係を仲介するところに、私たちの付加価値があります」と彼女は説明している。

Solveの方法が注目を集める最大の理由は、出資者が、支援のための追加資金を拠出する点にあるだろう。日曜日の閉会イベントでは、Solveの国際プログラム責任者Matthew Minorが、Solveの名前入り靴下を履いて上機嫌でステージに上り、大きな笑みを見せていた。彼は優勝者の名前を伝え、さらに追加出資の機会についても話をした。もともとのSolveの支援者のうち、Atlassian Foundationとオーストラリア政府の2つは、計画に取り組む企業に260万ドル(約2億9600万円)もの出資の継続を決めた。沿岸地域の復興を助ける非営利団体RISE Resilience Innovationsは、これまでも投資の見通しを見極めるためにSolveを密接に支援してきたが、沿岸地区復興に焦点を当てた企業に最大100万ドル(約1億1400万円)の出資を行っている。

オーストラリアは、過去の勝者に対してプログラム終了後の規模拡大のために出資を行っている。そのうちのひとつに、落ちこぼれた子どもたちが卒業証明書を受け取れるように必要な援助を行うインドネシアのデジタル・ブートキャンプRua​​ngguruがある。Solveに参加する以前、このスタートアップは、すでに100万人の子どもたちに支援を行っていた。今回のプログラムを通して資金を得たことで、昨年末までに300万人のインドネシアの子どもたちを支援できるようになった。Ruangguruの創設者の一人Iman Usmanは、Solveとパートナーシップを組むことで、単独では不可能だったインドネシア全土への拡大が実現したと私に話してくれた。

明らかにSolveは、多様性を重んじている。Solveのスタッフしかり、(おそらくそうした理由もあってか)勝者に選ばれた人たちもそうだ。Solveには20名の正規従業員がいるが、そのうち14名が女性だ。7つあるチームのなかで女性がリーダーを務めるのは6つ。そして(私が数えたところでは)、少なくとも4つの大陸から7カ国の人たちがスタッフに加わっている。

今年の最終選考に勝ち残った33のSolverチームは、15の異なる国からやって来た。その61パーセントは女性がリーダーだ。技術業界が多様性の拡大に苦労している中で、Solveの挑戦的なデザインと宣伝に見られる多様性を重視する態度が、参加者と優勝者にも通じている。それは、Solveが支援を目指す世界の映しでもある。

Hannaは、多様性の拡大は自然なことなので、難しくはないと言う。「正直言って、私たちは、そんなに頑張っているわけではありません」と彼女は話す。「技術界に女がいないなんて言う人がいたら、馬鹿らしい、と私は言い返します」

9月23日、Solve最終選考の日、ニューヨークのイベント会場Apellaからの眺め(写真:Adam Schulz | MIT Solve)

しかしSolveにも、ちょっとした問題はある。大きな問題を扱うため、コンテストの焦点がボケてしまうことがあるのだ。特別に難しい質問をされると、見当違いな答えを返してしまったりする。それを公正に比較するのは難しい。

また、賞金が1つのチームに集中しないのは良いことだが、出資者がどのチームを支援するかを決める方法は不透明だ。今年は優勝賞金を受け取ったチームが15組あったが、複数の賞金を受け取ったチームもあれば、残りの18のチームは最低限の賞金だけを持って家に帰ることになった。それは、最終選考でどのチームが勝ち残り、それに相応しい賞金を獲得するかを、出資者が決めているからだ。もちろん、最後に残った33のチームは、みな平等にSolveクラスのメンバーとして支援と教育を受けられることにはなっている。

もうひとつの問題は、オーディエンス・チョイス賞だ。最終選考の前にインターネットで行われる公開投票なのだが、それには具体的にどのような利点があるのか、はっきりしない。ひとつの例を示そう。メキシコに拠点を置くスタートアップScience for Sharing(Sci4S)の場合だ。彼らは、STEM(科学、技術、工学、数学)教育を専門とする教師を育成していて、すでに南アメリカで100万人の子どもたちを支援している。教育部門では他のチームを上回る419票を獲得し、オーディエンス・チョイス賞を単独で受賞した。しかしSci4Sは、最終的にSolverには選ばれなかった。ケニアから来た別の教育系スタートアップMoringa Schoolが、得票数は2票だったにも関わらず、Solverに選ばれた。Moringa Schoolも他のチームも、それなりに実力があり自力で勝ち残ったわけだが、Sci4Sも、一般聴衆からの得票数は忘れて、もっとプレゼンテーションに力を入れるべきだったと思うと悔やまれる。

つまりSolveは、他の社会革新コンテストが失敗したその場所から、多くのものを得ているわけだ。コンテストでたった1名の優勝者に聖なる油を注ぐのではなく、数十名のクラスを選び出す。それは、ひとつの単純な事実を映し出している。世界のもっとも強固な問題は、たったひとつのアイデアだけで解決できるものではない、というものだ。

教育機関によって開催され、参加できるのはそこの学生だけと決めているコンテストが多いが、Solveはオープンだ。決勝を勝ち抜いたら、そこでMITとの縁が終わるのではなく、そこから始まる。勝者は、1年間の個人的な支援、教育、指導が受けられるのだ。

正しく行えば、コンテストには喫緊の社会的問題に取り組む動機をスタートアップに与える効果があり、技術を主体とする解決策によって社会は本当の恩恵を受ける。しかし、コンテストのためのコンテストでは、騒ぎが大きくなるだけで、乏しい社会的資源が浪費され、起業家の関心も離れる。世界を変えると豪語する社会革新コンテストがますます増える中で、MITのSolveはそうした馬鹿騒ぎから一歩前に出て、効果的なコンテストに向かっている。

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(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

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