産業技術総合研究所(産総研)は11月8日、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を常温で効率的に分解し、再利用を可能にする技術の開発を発表した。環境負荷やエネルギーコストが大幅に削減され、ペットボトルから新しい高品質なペットボトルを再生産する道が拓かれる。
PETボトルの再生方法には、熱で溶かして再成形する「マテリアルリサイクル」と、化学的に低分子化合物に分解して新たに製品化する「ケミカルリサイクル」とがある。マテリアルリサイクルは、回収されたPETボトルを分別して熱で溶解するが、不純物が混じり込むことが多く、溶解前の製品と同品質にすることが難しい。また、ケミカルリサイクルでは、一般に大量の薬剤や高温処理が必要であったため、コストも高く環境負荷も大きい。PETボトルからまたPETボトルを作る「ボトルtoボトル」を実現するには、高純度な原料を高効率で回収できなければならない。それが可能なのはケミカルリサイクルだ。ケミカルリサイクルでは、PET樹脂はテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとに分解される。しかし、この2つの原料は分解時と同じ条件で再び結合してPET樹脂に戻ってしまう。そのため、この2つを反応させないための工夫が必要となる。その反応を止めるには、大量の反応剤を投入する方法と、200度という高熱をかけてエチレングリコールを取り除く方法とがあるが、どちらも非効率だ。
今回、産総研が開発した方式はケミカルリサイクルだが、大量の薬剤も高温処理も必要としない。市販の飲料用PETボトルをフレーク状に粉砕した試料に、メタノール、炭酸ジメチル、アルカリ触媒であるリチウムメトキシドを適切な比率で混合し3時間ほど室温に置くことで90%以上が分解できるというものだ。反応温度を50度にすると、すべてのPETが分解した。この方法では、テレフタル酸ジメチルは簡単な精製によって99%以上が分離できる。また、エチレングリコールは炭酸ジメチルに捕捉され、高い割合で回収ができる。
分離したテレフタル酸ジメチルはPET樹脂に加工でき、テレフタル酸ジメチルはリチウムイオン電池の電解液などに再利用できる。リチウムメトキシドは反応後は不溶物として沈殿するため、簡単に分離、回収ができる。
今後は、このリサイクル方法の社会実装を目指し、触媒の改良、反応のスケールアップ、PET含有製品への適用可能性を検討するとしている。