Psyckeは消費者の個性とファッションをマッチさせる製品でシード投資を調達

オンラン・ファッションブランドがひしめく市場では、消費者はサイトを選び放題だ。しかし通常は、各ブランドをひとつずつ訪ね、自分で取捨選択して好みのものを探し出すという手段を強いられる。これはあまり楽しい体験ではない。過去の購入履歴やクッキーは、ユーザー体験を仕立てるほどの役には立たない。たとえば、アーミーグリーンのミリタリージャケットを買った場合、その後のおすすめにアーミーグリーンのミリタリージャケットばかり出てくるようでは、そのeコマースサイトに成功の見込みはひとつもない。

それに対してPsycke(サイク:ブランド名はPSYKHE)は、AIと心理学を利用し、ユーザーの人物プロファイルと製品の「個性」をもとに製品のおすすめをするeコマース・スタートアップだ。たしかに、このような技術を主張するスタートアップはたくさんある。しかしPsyckeは、主立ったファッション小売り業者の製品情報のアグリゲーターになることで、ファッション製品の購入を簡易化するユニークなアプローチを売りにしている。それぞれのユーザーごとに異なる店頭が提示され、次第にパーソナライズされてゆくと同社は話している。

このほどPsyckeは、幅広い投資家から170万ドル(約1億8000万円)のシード投資を調達し、今後、他の消費者向け垂直市場のための企業間取引にも事業を拡大する新計画を発表した。

今回の投資に参加したのは、Net-a-Porterの最大のファンド投資家であるCarmen Busquets(カーメン・ブスケッツ)氏、北米の高級ファッション販売代理店MadaLuxe Groupの新しい投資部門SLS Journey、DAZNの会長でDisney Media Networksの前共同会長、ESPNの元社長でもあるJohn Skipper(ジョン・スキッパー)氏、Aser Venturesの最高執行責任者でありMP & Silva とFC Inter-Milanにも在籍していたLara Vanjak(ララ・バンジャック)氏。

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それで、これは何をしてくれるのか? 企業対消費者間取引のアグリゲーターとして、主要な小売業者の在庫をプールする。そして同社のプラットフォームが、機械学習と性格特性科学を用いて、ユーザーが登録時に行った性格テストの結果を踏まえた製品のおすすめを見繕う。この技術は国際特許を申請中であり、Moda Operandi(モーダ・オペランディ)、MyTheresa(マイテレサ)、LVMHのプラットフォーム24S、11 Honoré(イレブンオノレ)といった主要小売り業者とアフィリエイトパートナー契約を結んでいると同社は話している。

このビジネスモデルは、アフィリエイトパートナー・モデルに基づいており、売上げごとに5〜25パーセントの収益を得る。同社は、将来的にユーザーが自分の個性に合わせてアイテムを並べ変えられるプラグインを提供し、他の消費者向け垂直市場のための企業間取引にも事業を拡大する予定だ。

この性格テストの結果はどのように役立てられるのか? まずPsyckeは、パートナー取引先の100万点を超える実際の製品それぞれに、機械学習を使って(トレーニングデー対基づき)全般的な心理学的プロファイルを割り当てている。

そのため、たとえば金属の鋲打ちがされた革のブーツ(つまり「反抗的」な雰囲気)の場合、「同調性」の特性では中から低の点数が与えられる。ピンクの花柄ドレスの場合は、同じ特性では高い点数となる。保守的なツイードのブレザーは「開放性」という特性では点数は低い。なぜならツイードのブレザーは保守的なスタイルを主張する傾向にあり、従ってそうした人間性を示すからだ。

現在、Psyckeの小売パートナーには、Moda Operandi、MyTheresa、LVMHのプラットフォーム24S、Outdoor Voices(アウトドア・ボイセズ)、Jimmy Choo(ジミー・チュー)、Coach(コーチ)、サイズに大きな幅があるプラットフォーム11 Honoréなどが加わっている。

競合相手にはThe Yes(ザ・イエス)とLyst(リスト)がある。しかし、Psyckeの差別化の中心は、この性格の得点付けにある。さらに言えば、The Yesはアプリのみ、アメリカのみで、モノブランドだけをパートナーにしている。Lystは数千件のブランドのアグリゲーターだが、どちらかと言えば検索プラットフォームだ。

Psyckeは、ロックダウンの最中にある人々をオンラインに殺到させ、世界のeコマースを急成長させている新型コロナウイルスの今なお続く影響を、うまく利用できる立場にある。

このスタートアップは、CEOで創設者であるAnabel Maldonado(アナベル・マルドナルド)氏の発想から生まれた。創設チームには、CTOのWill Palmer(ウィル・パーマー)氏、主任データサイエンティストRene-Jean Corneille(ルネ=ジャン・コルネイユ)氏も加わっている(写真上)。マルドナルド氏は、故郷トロントで心理学を学んだ後、イギリスの国民保険サービス(NHS)で5歳未満の子どもの発達診断を行う専門家チームに就職した。

転機となったのは、ファッション誌Marie Claire(マリ・クレール)イギリス版の編集指導のコンペに勝ったときだった。その後彼女は、Christian Louboutin(クリスチャン・ルブタン)の出版部門に進み、さらにMail on Sunday(メール・オン・サンデー)とMarie Claireでインターンを経験した。こうして雑誌出版で数年間を過ごした後、CoutureLab(クチュールラボ)でeコマースの世界に足を踏み入れた。フリーランスとなった彼女は、いくつもの高級ブランドやプラットフォームと編集コンサルタントとして仕事を重ねた。ファッション・ジャーナリストとしては、The Business of Fashion(ザ・ビジネス・オブ・ファッション)、The New York Times Style(ザ・ニューヨーク・タイムズ・スタイル)、Marie Claireに業界コラムを寄稿している。

ファッション業界に10年間携わってきた彼女は、「ファッションに実際よりも軽薄な印象を与えた」言説にフラストレーションを募らせていったという。「これは1兆ドル規模の産業です。私たちはみな、美的なものに、自分自身の感覚で反応するはずです。しかし、みんなが口に出して語るのは、秋の流行のニューカラーや、みんなお揃いの、いわゆるマストアイテムのことばかりです」

しかし彼女はこう話す。「これまで、個人差の調査は行われてきませんでした。この世界は、本来あるべき深みを完全に失っています。そこで私は、誰もが美に対して高い感受性を持ち、服装の選択に、その人だけの内なる必要性に基づく心理学的な影響が大きく作用していることを、何らかの方法で証明したいと思ったのです」。そうして彼女はその「ファッション心理学」または彼女が言う「なぜ私たちはこれを着るのか」に対応するためのスタートアップを立ち上げたのだ。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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