Salesforceはどのようにして200億ドルの年換算売上高を予定より早く達成したのか

Salesforce(セールスフォース)は1999年に創業し、後にSaaSやクラウドコンピューティングと呼ばれるものに早期に取り組んだ1社だ。8月25日に、SaaSの巨人の(四半期)売上高は50億ドル(約5250億円)を超え、年換算で初めて200億ドル(約2兆1000億円)に達し、大きな節目を迎えた。

Salesforceの売上高はこの数年堅調に推移しているが、2017年11月に売上高が100億ドル(約1兆500億円)に達したとき、CEOのMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏はすぐに200億ドル(約2兆1000億円)の目標を設定した。その後5年で、その目標をいとも簡単に達成した。同氏の当時の発言は以下の通りだ。

実際、これまでで最も急速に成長し100億ドルを達成した法人向けソフトウェア企業として、次は2022年度までにオーガニックで200億ドル以上に成長することを目標としている。これまでで最も速く200億ドルを達成する法人向けソフトウェア企業になる計画だ。

成功をもたらした要素は数多くある。Salesforceプラットフォームの進化と同時に、積極的な買収戦略を採用した。企業がこれまでになく迅速にクラウドに移行したことも寄与した。ただSalesforceが2017年に掲げた高い目標を早期に達成できたのは、パンデミックの中でも独自の責任ある資本主義を実践したからだ。

プラットフォーム戦略

同社の売上高の成長には多くの要因があるが、大きいのはプラットフォームだ。プラットフォームはCRM、マーケティングオートメーション、カスタマーサービスなどの一連のソフトウェアツールを提供するだけではない。顧客はSalesforceが構築した独自のソフトウェアスタックを利用して自身のニーズを満たすソリューションを開発することもできる。

Salesforceの社長兼最高執行責任者であるBret Taylor(ブレット・テイラー)氏は、プラットフォームが会社の成功に大きな役割を果たしたと語る。「実際、当社のプラットフォームは、さまざまな形でSalesforceの推進力の大部分を支えている。1つは、社内でもよく話し合ったが、プラットフォームのテクノロジーの特徴そのものだ。つまり、ローコードで、価値を生みだすまでの時間が短い」

「ローコードプラットフォームとソリューションを迅速に立ち上げる能力がこれまで以上に必要とされる。我々の顧客はこれまで以上に迅速にビジネスの変化に対応する必要があるからだ」と付け加えた。

同氏は、Salesforceを基盤として構築され先月公開したnCinoを代表的な例として挙げた。同社はSalesforceを基盤としており、AppExchangeマーケットプレイスで入手できる。顧客となる銀行に対し、Salesforceが開発した機能をベースとしたオンラインビジネスを行うためのツールを提供する。

買収戦略

1999年に導入した中核のCRM製品に加え、同社はマーケティング、販売、サービスツールのセットを幅広く構築してきた。それらと同時に、同社の成功に貢献したもう1つの大きな要因は、 製品ロードマップに沿って多くの企業を買収したことだ。

買収の中でも最大のものは、約1年前に完了した157億ドル(約1兆6500億円)のTableau(タブロー)のディールだ。テイラー氏はデータがデジタル化を進めるとみており、それはパンデミック中に広く見られたことでもある。Tableauがその中で重要な役割を果たす。

「Tableauは非常に戦略的だ。収益面からも技術戦略面からも」と同氏は述べた。企業のデジタルシフトが進むにつれ、データを視覚化によって理解し、顧客のニーズを深く把握することがこれまで以上に重要になるからだ。

「基本的に企業がオールデジタルの世界で成功するために必要なのは、急速な変化に対応する能力だ。つまり、データを中心とした文化を作り出す必要がある」と同氏は語った。そうすれば企業は新しい顧客の要求やサプライチェーンの変化などに迅速に対応できる。

「すべてにデータが関わってくる。Tableauが前四半期に大きく成長した理由はデータを使った会話だと思う。会社全体が、あるいは経済全体がデジタル化されていくと、データがこれまで以上に戦略的になる」と同氏は語る。

この買収と、2018年に65億ドル(約6800億円)で買収したMuleSoftが、同社にデータを捉えて視覚化する方法をもたらした。データが企業のどこに存在するかを問わない。「MuleSoftとTableauの補完関係は強調する価値があると思う。MuleSoftは、レガシーシステム上であれ、モダンシステム上であれ、すべての法人データのロックを解除する。そしてTableauがデータの理解を可能にする。当社はデータを中心に完璧なソリューションを生み出すことができるため、全体として非常に戦略的な価値提案だと言える」とテイラー氏は述べた。

心ある資本主義

ベニオフ氏は、8月25日のMad Money(CNBCの番組)に出演した際、慈善事業とボランティア活動を会社の中核として位置付けているにもかかわらず、依然として株主に確かな利益をもたらしていることに喜びを感じていると述べた。Mad MoneyのホストであるJim Cramer(ジム・クラマー)氏に次のように語った。「これはステークホルダーキャピタリズムの勝利だ。上手くやりつつ善をなすことが可能なことを示している」。 これは同氏が過去にも頻繁に表明していることで、良き企業市民としてコミュニティに還元しながら、なおかつ金を稼ぐことができると主張している。

56グループの創設者・プリンシパルアナリストであり、CRM at the Speed of Light(邦訳「CRM 実践顧客戦略」)の著者であるPaul Greenberg(ポール・グリーンバーグ)氏は、この価値観が同社とその他大勢を分かつものだと述べる。「Salesforceの優れた能力に加え、私が同社の並外れた成長が深刻に減速しないと考えている理由の大部分は、同社がテクノロジービジネスを企業の社会的責任と一致させることに成功していることによる。それが同社を抜きん出た存在にしている」とグリーンバーグ氏はTechCrunchに語った。

昨日(8月25日)の数字は2021年第1四半期に続くものだ。同四半期後、同社は弱気の業績見込みを発表した。同社の一部の顧客がパンデミックの影響により財務的に苦しんでいたためだ。ふたを開けてみれば影響はなかったようで、第3四半期の見込みも順調に見える。同社によれば、第3四半期売上高の予想は52億4000万ドル~52億5000万ドル(約5500~5510億円)で、前年同期比約16%増だ。

ベニオフ氏はパンデミックが始まったときに90日間はレイオフをしないと約束した。90日はすでに経過しているが、The Wall Street Journal(ウォールストリートジャーナル)が8月25日、Salesforceが5万4000人の従業員のうち1000人の削減を計画していると報じたことは注目に値する。対象となった従業員には職探しのために60日間が与えられた。

200億ドルに到達する

確かに200億ドル(約2兆1000億円)の年換算売上高に到達したことは、その目標を達成した速度と同様に重要だ。しかしテイラー氏は、ベニオフ氏がその目標を設定した2017年とは異なる会社に進化していると見ている。

「当社が成長できた理由は、ビジョンを実際に実現するためのオーガニック成長、イノベーション、買収によるものだと思う。これらがかつてないほど重要になっていると思う」と同氏は言った。

プラットフォームの変化を見れば、1つの傘の下で異なるカスタマーエクスペリエンスを提供する機能を備え、顧客に対し開発に必要なツールを提供することが重要だったことがわかると同氏は述べた。

「当社は企業として、カスタマーリレーションシップマネジメントの意義を常に再定義してきたと思う。セールスチームが営業機会を管理することだけではない。カスタマーサービス、eコマース、デジタルマーケティング、B2B、B2Cといったものを含むすべてだ」と同氏は語った。

画像クレジット:TechCrunch

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(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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