「ブロックチェーンベースのVRプラットフォーム」というフレーズに驚いてしまうようなら、今すぐタブを閉じてラッダイト運動を続けた方がいいだろう。
Second Lifeのクリエイターが立ち上げたソーシャルVRスタートアップのHigh Fidelityは、この度ブロックチェーンに特化した投資会社Galaxy Digital Venturesがリードインベスターを務めたシリーズDで3500万ドルを調達した。同ラウンドには、Breyer Capital、IDG Capital Partners、Vulcan Capital、Blockchain Capitalも参加していた。
High Fidelityは、ユーザーが作る世界をつなぎ合わせた宇宙のようなプラットフォームを開発している。プラットフォーム上ではユーザーが自由に交流でき、同社によれば市場に流通するVRハードウェアが彼らの期待に追いつけば、早急にスケール化が狙えるのだと言う。
最近ではゲーム内決済やその他の機能を推進するために、ブロックチェーン部分の開発に多大なリソースを割いており、レイテンシーや3D音声、背景の高画質化などに注力しながらも、プラットフォームの用途で差別化を狙っているようだ。現在60名いる従業員のうち、7、8人のエンジニアがブロックチェーンテクノロジーの開発にあたっていると、共同ファウンダーのPhilip Rosedaleは語る。
他方、Second LifeはLinden Dollarと呼ばれる通貨をベースにしたゲーム内経済の活発さで知られており、Rosedaleによれば、実は現在でも年間7億ドルものP2P決済が行われているのだという。
High Fidelityに関して言えば、ブロックチェーンを活用することで、ユーザーは購入したデジタルグッズを実際に所有した上で、アバターに装着できるようになる。そしてすべての決済は、同プラットフォームのデジタルアセット台帳に非中央集権的な形で記録されるのだ。さらにHigh Fidelityは、Virtual Reality Blockchain Alliance(VRBA)という団体を立ち上げた。先進的企業が集まるこの団体の目的は、ユーザーのアバターが購入物を持ったまま異なるプラットフォームを自由に行き来できるような環境を構築することだ。
VR上であればブロックチェーンを中心に据えたクローズドな環境を構築できるため、実用範囲が決まっていることの多いブロックチェーンサービスにとって、試験場のような役目を果たせるかもしれない。
High Fidelityが実現しようとしている未来は仕組みだけでなく、見た目にもかなり違いがある。Facebook SpacesやMicrosoftのAltspace VRでは、頭が体から切り離されて浮いているようなアバターが登場するが、High Fidelityはもっとリアリスティックなデザインアプローチをとっており、見ていて若干不安になるようなSecond Lifeのアバターとかなり共通点があるように感じられる。
Second Lifeの開発元であり、High Fidelityの株主でもあるLinden Labは、すでに独自のVRプラットフォームSansarのベータ版をローンチ済みだ。High Fidelity同様、Sansarでは各ユーザーが作り上げたスペースが、ゲームエンジン版のワールドワイドウェブのように統合され、それぞれのスペースをユーザーが行き来できるようになっている。Linden Lab自体もSansarのことを「VR版のWordPress」と呼んでいるように、現状のプラットフォームはそこまで洗練されているとは言えないものの、High Fidelityのような三次元仮想空間を使った構想が秘められているであろうことは察しがつく。
利用状況に関する情報が公開されておらず、まだベータ版のプロダクトしかないVRスタートアップのHigh Fidelityにとって、7000万ドルという累計調達額はかなりの金額だと言えるだろう。競合相手のFacebookが何十億ドルという資金を投入していることを考えるとなおさらだ。
Rosedale自身も状況の厳しさは認めつつも、Facebookにつきまとうプライバシーに関する不安は、今後VRが普及するにつれて、ますます高まっていくと考えているようだ。
「VRが一般化すれば、Facebookのようなサービスに関連したプライバシーやセキュリティ、アイデンティティ絡みの人々の不安は、現状のそれとは大きく変わってくるだろう」とRosedaleは弊誌のインタビューに答えた。「そのため私は、Facebookの広告頼みの収益構造や中央集権的なサービスには付け入るスキがあると見ている。だからこそHigh FidelityはソーシャルVR市場に進出しようとしているのだ」
彼らのゴールはいたってシンプルだが、Rosedaleを保守的だと非難する人はいないだろう。なぜなら彼は、今後10年間のうちにVRユーザーは10億人を超え、ゲーム内グッズの市場規模は1兆ドルに達すると予想しながら、自らの会社をその先頭に立たせようとしているのだ。
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(翻訳:Atsushi Yukutake)