Sprintが音楽配信サービスTIDALの株式の33%を取得へ、限定コンテンツの配信を予定

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音楽ストリーミングサービスの分野で面白いことが起きようとしている。ソフトバンク傘下のSprintが、TIDALの株式の33%を取得すると本日発表したのだ。TIDALは音楽ストリーミングサービスを提供しているノルウェイ発のスタートアップで、2015年にJay Zが同社の株式の大半を取得して以降は、人気アーティストの限定コンテンツに力を入れた高音質音楽配信プラットフォームとして、SpotifyやApple Musicと競合してきた。

さらにSprintは、TIDALのサービスを同社のモバイルユーザー(モバイル契約・プリペイドユーザーを合わせると4500万人に及ぶ)に提供する予定だと話す。「TIDALと同社に楽曲を提供しているアーティストは、新旧問わずSprintユーザー全員に向けて、限定コンテンツを配信していく予定です」と両社は言う。

2015年にTIDALが再ローンチしたときにも、両社はコラボレーションに関する発表を行ったが、実際に2社で何を行っていたかは明かされず、SprintはTIDALへは投資しないと明言していた。しかし今回の発表では、Sprint CEOのMarcelo ClaureがTIDALの取締役に就任するということまで明らかになった。

「アーティストがファンと直接繋がりを持って、自分たちの可能性を最大限発揮するためにクリエイティブ業界に革新をもたらすというTIDALのビジョンにSprintは共感してくれています」とJay Zは声明の中で語った。「Marceloは私たちのゴールをすぐに理解してくれました。今後Sprintが持つ4500万人の顧客ベースに私たちのサービスを提供していくのが楽しみです」

株式の取得額は開示されなかったが、Music Business Worldwideはその額が2億ドル(TIDALの評価額が6億ドル)に及ぶと報じている。TechCrunchはSprintに直接コンタクトして本件について尋ねたが、担当者からは「私たちは財務情報を公開していません」という回答しか得られなかった。

Jay Zと有名アーティストを含む株主会がTIDALを再ローンチした際に報じられていた、2億5000万ドルという評価額を考慮すると、今回の金額は8250万ドル前後になるはずだ。一方で、昨年SamsungがTIDALを買収しようとしているという噂が流れたときの金額は1億ドルだったので、そこからは3300万ドルという金額が導き出せる。しかしどちらも2億ドルという、本日報じられた金額には遠く及ばない。なおTIDALは、SamsungのほかにAppleやRhapsodyとも買収に関する話を進めていたと言われている

TIDALによれば、現在同社は52ヶ国以上でサービスを提供しており、プラットフォーム上には4250万曲の音楽と、14万本の高画質動画が登録されている。Spotifyのような他の音楽ストリーミングサービスとTIDALの違いは、無料会員がいないということだ。基本プランの料金は月々9.99ドルで、高音質な音楽が楽しめる上位プランの料金は月々19.99ドルに設定されている。さらにどちらのプランでもTIDAL限定の楽曲を聞くことができる。

しかしプラットフォーム上に楽曲を登録しているアーティストがサービス自体にも影響力を持つ新たな体制のもと、TIDALのビジネスがどのくらい上手くいっているかはよく分からない。

同社は2015年に2800万ドルの赤字を計上しており、これは2014年の赤字幅の3倍近い数字だ(2016年の数字はまだ発表されていない)。そして実際にTIDALを使っている人が何人いるのかについても、さまざまな憶測が飛び交っている。

TIDALは2016年3月に300万人の登録者がいると発表していた。しかし同社は以前TIDALを保有していた企業を登録者数の粉飾で訴えており、その一方で登録者数は現在も実際の数より多く計算されているのではないかと非難されている。例えばノルウェイの新聞社Dagens Naerinslivは、登録者数が300万人に達したとTIDALが発表した当時、実際の登録者数は85万人(+120万件の”アクティベート済みのアカウント”)しかいなかったと先週報じた。

さらにApptopiaの統計によれば、サービスがどのくらい利用されているかという観点でいうと、TIDALはPandoraやSpotifyに大きく遅れをとっている。

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つまり第三者の視点からだと、TIDALの財務諸表やデータは曖昧で乱雑に映る。ソフトバンクが私たちの知らないことを知っていればいいのだが。

いずれにせよ、Sprintからの出資によってTIDALは現金を手に入れることができ、今後登録者数をさらに伸ばせるかもしれない。さらにSprintが(他のキャリア同様)、どうやって他社と差別化を図ろうとしているのかということもわかってきた。

「Jay Zはもともと、ビジネスだけでなく文化的なニーズを感じてTIDALへの投資を決定しました。そしてその後彼は、TIDALを高品質なコンテンツを配信する世界レベルの音楽ストリーミングプラットフォームにするべく、情熱と勇気を注いできました」とClaureは声明の中で語った。「ファンと真摯に向き合うTIDALのアーティストの力を借りることで、Sprintはモバイルユーザーに限定コンテンツや他社では体験できないようなサービスを提供できるようになるでしょう」

モバイルキャリアと音楽ストリーミングサービスのコラボレーションは、両者のユーザー数を増やす上で有効な手段だと考えられており、特にSpotifyはこの分野に力を入れてきた。

実はSprintも2014年にSpotifyとのパートナーシップ契約に関する発表を行い、Sprintの上位プランに契約するとSpotify Premiumが6ヶ月間無料(しばらくして割引料金へと変わった)で使えるというキャンペーンを開始した。今でもこのキャンペーンは行われているが、Napsterとの似たような仕組み同様、Sprintは以前ほど積極的にはこのキャンペーンを売り出していない。

「今後もユーザーは希望すれば、SpotifyやNapsterのサービスを特別料金で利用できます」と担当者は話す。「しかし本日発表したTIDALとのパートナーシップはもっと大きな意味を持っており、Sprintは同社の株式の33%を保有することになるほか、Sprintユーザーはこれまでに見たことがないようなサービスを体験することになるでしょう」

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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