Teslaの中国工場と失われた成長機会

【編集部注】著者Chandrasekar IyerはTataコンサルタンシーサービスからClayton Christensen研究所に客員研究員として出向中。著作にDriving Disruption: Catching the Next Wave of Growth in Electric Vehiclesがある。

Teslaは、中国に工場を建設する意向を発表したとき、世界征服という野望をも明らかにした。中国は世界最大の自動車マーケットであり、そうした動きは理にかなっている。しかしやや近視的な動きだったかもしれない。

すでに構築されたマーケットの高級メーカーの後を追い続けることで、Teslaはこれまでにない規模の新マーケットの先頭を切って走る代わりにマーケットシェアのゼロサムゲームに加わることになる。BMWやAudiのような既存メーカーは、彼らの富裕客をキープし続けるとみられることから、競争は激しいものとなる。

その代わり、どの車メーカーにとってもより大きなチャンスが、破壊的イノベーションを通してマーケット全体に出てくるーシリコンバレーではない。破壊的なイノベーションのアーキテクトについて、ハーバードビジネススクールの教授Clayton Christensenは、ディスラプションはハイテク機能や派手なデザインで飾られたエンドでではなく、マーケットのローエンドで起こると説明する。

破壊的なイノベーションは、複雑で高価なプロダクトをシンプルで入手しやすい価格に変えることでうまくいき、それゆえに多くの人がその恩恵に授かることができる。そして当然のこととして、マーケットを拡大し、新たな成長の源であり続ける。

ディスラプティブの脚本のページをめくるより、Teslaはイノベーションの維持に注力している。同社は新工場モデル 3とモデル Yの製造に使う計画だ。Teslaが現ポジションを維持するだろうと想像したとき、Teslaの他のモデルと同じくモデル 3とモデル Yは、加速性能やスタイル、ラグジュアリーさといった既存のパフォーマンス指標で競争するマーケットに置かれることになる。

イノベーションを維持するということは、業界をリードするという意味においては重要だ。しかし、全ての消費者がそうしたものにアクセスできるわけではなく、イノベーションの維持では本当の成長はわずかだ。そしてイノベーションの維持は業界に利益をもたらす消費者をターゲットにしているため、主要な自動車メーカーがコアな客を取り込むために必死の戦いを繰り広げることが予想される。それに引き換え、破壊的な戦略は中国マーケットに踏み込むための、より簡単な手段となるーすでにTeslaやその他の主要自動車メーカーの鼻先で実際に起こっている。

ディスラプションはマーケットのローエンドで起こる

低速電気自動車(LSEVs)ー通常トップスピードは45mphほどの小型自動車で、航続距離に限界があり、わずか2000ドルほどで売られているーの中国メーカーは、これまで車を所有したことがない中国の農村部に住む人に車を売ることで、これまで存在しなかったマーケットを作り出している。我々はこうした客を車の非消費者と呼んでいる。非消費者が重視するパフォーマンスの基準はスピードやスタイル、快適さではなく、買えるものであるかどうか、アクセシビリティ、そしてシンプルさだ。LSEVである限りこの基準に合致し、非消費者は大体において喜んで買う。結局のところ、あまり長い距離を走れない、スピードも速くない車を所有するというのは、自転車やバイク、農業用の車両といった他の手段よりもずいぶんいいのだ。

非消費者をターゲットにすることで、LSEVメーカーは、資金や工場、サプライヤーとの関係といったリソースを存分に持っている既存の車メーカーとの直接的な競合を遠くに押しやり、効果的に足がかりを築き、これにより着実に高級市場に近づいている。

ディスラプティブなルートを取ることでLSEVメーカーは、Teslaや他の車メーカーが切望するであろう新たな成長の波を手にすることができた。LSEVが中国で販売されてきたこの10年、売上はうなぎ登りだ。国際エネルギー機関の“グローバルEV展望2017”によると、2016年に120万〜150万ユニットが中国で販売された。同じ年に世界で販売された電気自動車とハイブリッド電気自動車の台数にまさる数字だ。間違いなく、中国におけるLSEVのさらなる成長の可能性はかなり大きいものだー2016年、5億人超の中国人が農村部に住んでいた。

LSEVのメーカーが収益性のある成長を高パフォーマンスのマーケットに持ち込めるかどうかは、今後明らかになる。確かなことは、中国と他の新興マーケットに、巨大な手付かずのポテンシャルがあるということだ。

イメージクレジット: Joe Raedle

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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