TikTokが欧州で消費者、子どもの安全、プライバシーに関する訴えを受ける

TikTok(ティックトック)に対し、欧州で新たな訴えが起こっている。欧州ではEU法に関するさまざまな違反を指摘する、消費者団体からの批判が相次いでいる。

欧州消費者機構(BEUC)は欧州委員会とEUの消費者保護当局ネットワークに対し、この動画共有サイトに関する苦情を申し立てた。一方、BEUCが米国時間2月16日に伝えたところによると、15カ国の消費者団体が各国当局に警告を発し、このソーシャルメディア大手の動きを調査するよう促したという。

苦情の内容には、著作権やTikTokの仮想通貨に関する不当な条件への訴え、子どもたちがプラットフォーム上でさらされているコンテンツの種類に関する懸念、誤解を招くデータの取り扱いやプライバシー侵害行為の告発などが含まれている。

申し立てがあった違反については、苦情に関係する2つの報告書に詳細が記載されている。消費者保護の問題に対するTikTokのアプローチに関する報告書と、データ保護およびプライバシーに焦点を当てた報告書だ。

子どもの安全

子どもの安全については、TikTokがプラットフォーム上の隠れ広告や「悪影響を及ぼす恐れがある」コンテンツから子どもや10代の若者を保護できていなかったことが報告書で非難されている。

「アプリ上で広告を出したいと考える企業に対してTikTokが提案する戦略が、隠れ広告急増の一因となっている。例えば、ユーザーはブランドのハッシュタグチャレンジに参加するよう勧められ、チャレンジへの参加後、特定の製品のコンテンツを作成するよう誘導される、といったことがある。ハッシュタグチャレンジは人気のあるインフルエンサーから始まることが多いため、通常ユーザーにはチャレンジの背後にある商業的な意図が見えない。また、TikTokは不適切なコンテンツから子どもたちを保護することに関し、適切な配慮を怠っている可能性がある。画面を少しスクロールしていくだけで性的な内容の動画などが現れることがある」とBEUCはプレスリリースで報告している。

TikTokはすでに2021年、イタリアで10歳の少女が死亡するという事件の後、子どもの安全に対する懸念から同国で規制を受けている 。地元メディアは、TikTokの「失神(ブラックアウト)」チャレンジに参加したこの少女が窒息死したと報じていた。これはイタリアのデータ保護局(DPA)による緊急介入の引き金となった。

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この事件後すぐ、TikTokは年齢認証を導入し直し、イタリアのユーザーすべての年齢を確認することに合意した。しかし、この年齢認証では単に日付を入力して年齢を確認するだけで済むため、ユーザーが年齢制限をかいくぐることはたやすいようである。

報告書の中で、消費者権利グループのBEUCはTikTokのおそまつな年齢認証に注意を促し、次のように書いている。「実際には年齢確認プロセスは非常に緩く、単なる自己申告であるため、未成年のユーザーがTikTokに利用登録するのは非常に簡単である」。

またBEUCは、TikTokのサービスは「13歳未満の子どもを対象としていない」ことがプライバシーポリシーに記載されていると指摘する。一方、報告書によると、TikTokのヘビーユーザーに13歳未満の子どもが含まれていることは多くの調査で明らかになっている。BEUCは、TikTokのユーザーベースの「大部分」を子どもが占めているのが実情だと示唆している。

報告書からの引用。

フランスでは、13歳未満の子どものうち45%がTikTokのアプリを利用していることがわかっている。英国では、8歳から15歳の子どもの50%が少なくとも週に1回はTikTokに動画をアップロードしていることが、2020年の放送通信庁(OFCOM)の調査により明らかになった。チェコでは11歳から12歳の子どもたちにTikTokが非常に人気があるということが、2019年の調査でわかった。ノルウェーでは、10歳から11歳の子どもの32%がTikTokを利用していることを、2019年にニュース記事が伝えている。米国では、毎日TikTokを利用するユーザーの3分の1以上が14歳以下であり、多くの動画が13歳未満の子どもによって投稿されているようだと、ニューヨーク・タイムズが明らかにしている。多くの未成年ユーザーがプラットフォームを頻繁に利用しているという事実は、それほど意外なものではない。最近の調査では、子どもたちの大半が携帯電話を所有しており、その平均年齢が徐々に下がってきていることが示されているためである。例えば、英国の子どもの場合は平均すると、7歳になるまでに携帯電話を与えられている。

最近行われたEUが支援した調査によると、人気のソーシャルメディアプラットフォームでの年齢確認は「基本的に効果がない」との結果が出ている。単に年齢をごまかすだけで、どの年齢の子どもでも年齢制限をかいくぐることができてしまうためだ。

利用規約

今回の訴えにより提起されたもう1つの争点は、利用規約による不当な要求に焦点を当てており、これには著作権に関連するものが含まれている。TikTokの利用規約が「ユーザーが公開した動画を無償で使用、配信、複製する取消不能な権利」を自社に付与していると、BEUCは指摘している。

またTikTokが提供する仮想通貨機能についても、消費者の権利という観点から問題があると強調している。

TikTokでは、ユーザーがデジタルコインを購入して、他のユーザーへ贈るバーチャルギフトと交換できる(ギフトを受け取ったユーザーはそのギフトを法定不換紙幣に交換できる)。しかしBEUCは、TikTokの「バーチャルアイテムポリシー」には「不公正な条件と誤解を招く仕組み」が組み込まれていると述べ、TikTokがコインとギフトの交換レートを変更する「絶対的な権利」を保持しているため「都合よく金融取引を歪めてしまう可能性がある」と指摘している。

TikTokはバーチャルコインの購入価格を表示しているが、ギフト(バーチャルコイン)をアプリ内のダイヤモンド(ギフトを受け取るユーザーはダイヤモンドを実際の金銭と交換でき、交換したお金はPayPal(ペイパル)や他のサードパーティーの支払い処理ツールを介して送金される)に還元するために適用されるプロセスについては何ら言及していない。

「コンテンツ提供者が最終的に獲得する金銭報酬の額は曖昧なままである」とBEUCは報告書に記しており、次のように続ける。「TikTokによると、報酬は『ユーザーが獲得したダイヤモンドの数など、さまざまな要素に基づいて』計算される。TikTokは、コンテンツ提供者がダイヤモンドを金銭と交換する際、アプリ側がどれだけの額を得るのかを示していない」。

「一見遊び心のあるTikTokのバーチャルアイテムポリシーは、消費者の権利の観点からすると、非常に問題がある」と報告書は加えている。

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プライバシー

TikTokは、データ保護とプライバシーに関しても、規定がうんざりするほど「わかりにくい」と非難されている。この規定は(ここでも)子どもに関わるものを含んでいる。今回の訴えでTikTokが非難されているのは、どのような個人データがどのような目的で、どのような法的理由に基づいて収集されているのかを、ユーザーに明確に伝えていないことだ。こうした点を開示することはヨーロッパの一般データ保護規則(GDPR)で義務づけられている。

報告書で指摘されているその他の問題点としては、広告用途で処理される個人データのオプトアウト(本人の求めによる提供停止)がないこと(つまりデータ提供に「強制同意」させている、FacebookやGoogleなどの巨大テック企業もこの点で非難されている)、機密性の高い個人データ(GDPRの下では特別に保護される)の取り扱いに関して明示的な同意を得ていないこと、安全性や、設計によるデータ保護がないことなどが挙げられる。

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今回の訴えについては、TikTokのEUにおけるデータ保護問題を扱う主管監督当局であるアイルランドのデータ保護委員会(DPC)にコメントを求めており、返答があれば本レポートを更新する。

【更新】DPCによると、これまでのところ新たな苦情の訴えはないとのことだ。また「我々はGarante(ガランテ、イタリアのデータ保護機関)と協力してTikTokが行った措置を再検討し、同社が取り扱う未成年者の個人データを保護することに努めている」と付け加えている。

フランスのデータ保護機関であるCNILは、TikTokが同社のEU担当の法的基盤をアイルランドに移行するのに先立ち、2020年すでにTikTokに関する調査を開始している。TikTokが法的基盤をアイルランドに移した後は、GDPRのワンストップショップメカニズム(1国のデータ保護機関から承認を得れば他国の当局からの承認は不要となる制度)により、データ保護に関する苦情はアイルランドのDPCに申し立てる必要がある。規制が未実施の苦情に関しても今後はアイルランドのDPCが扱うことになる)。

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データ保護に関する苦情を訴えるため、TikTokのプライバシーポリシーの法的分析を行ったポスドク研究員のJef Ausloos(ジェフ・オースルース)氏がTechCrunchの調査員に語ったところによると、1年前(TikTokに年齢確認がまったくなかった時期)、データ保護に関する苦情を提出しようとしていたところ、突然、同社の運営方針に大きな変更が加えられたということだ。

オースルース氏は、このような突然の大きな変更は、データ搾取行為に対する規制当局の調査を逃れるための意図的な戦術であると指摘している。「常に変更がある」ということは、規制執行の根拠を示すために行われている調査作業を脱線させたり、振り出しに戻したりする効果があるからである。また、資金や人員に限りのある規制当局は「事後」(運営方針の変更があった場合)に、企業を提訴することを躊躇する可能性があると指摘している。

違法行為は繰り返されることによって、規制執行を免れさせる可能性があるということだ。

また企業が、自社のプラットフォームに関連してビジネス上の特定の手法に対する非難を受ける(または要請を受ける)旅に、自社の運営方針には変更が適用されたと主張するのは、ありふれたことである。規制執行や実際の法的裁定の影響を抑える防御策として、運営方針への変更を利用するのだ。「変更を迅速に適用し、規制による説明責任を逃れようとする」のである。

オースルース氏によると、TikTokに対する証拠書類の作成は2年間にも及んだものの、告訴人たちは、各国のDPAがTikTokを立件する上でこの証拠書類が役立てば良いと願っているとのことだ。

BEUCのMonique Goyens(モニーク・ゴイェンズ)事務局長は声明で今回の訴えについて次のようにコメントしている。「わずか数年で、TikTokはヨーロッパ全体で何百万人ものユーザーを持つ、最も人気のあるソーシャルメディアアプリの1つになりました。しかし、TikTokは大勢のユーザーの権利を侵害し、期待を裏切っています。我々は消費者の権利侵害があることを認め、TikTokを提訴しました」。

「子どもたちはTikTokが大好きですが、同社はその子どもたちをきちんと保護できていません。我々は、同社のアプリを利用する子どもたちが拡散された隠れ広告にさらされ、知らず知らずのうちに広告塔のようなものにさせられることを望みません」。

「我々の関係者、欧州全域の消費者団体とともに、迅速な措置を取るよう当局に強く求めます。消費者、特に子どもたちが権利を侵害されることなくTikTokを利用できるよう、当局は今、行動を起こさなければなりません」。

TikTokの広報担当者は今回の訴えについてコメントを求められ、次のように語った。

弊社は、コミュニティの安全、特に若いユーザーの安全を確保し、ビジネスを展開する上で従うべき法律を遵守するという責任を非常に真剣に受け止めています。私たちは日々、コミュニティを守るために努力しています。そのために、16歳未満のユーザーのアカウントをすべてデフォルトで非公開に設定するなど、さまざまな重要措置を講じてきました。また、アプリ内で確認できるプライバシーポリシーの概要も作成しました。この概要は、10代の方でも弊社のプライバシーへの取り組みを理解できるよう平易な語句と文章でまとめられています。私たちはいつでも進んで改善案を受け入れていますし、BEUCとの話し合いを持ち、彼らの懸念に耳を傾けるべく、コンタクトを取っています。

【更新】欧州委員会の広報担当者は、BEUCから警告を受け取ったことを認めた。

「消費者の権利は、オンラインでもオフラインでも同じようにしっかり保護されなければなりません。欧州委員会は、2020年末に発表した『新消費者アジェンダ』でもこのことを再確認しました」と広報担当者は述べ、さらに次のように付け加えた。「同委員会は、BEUCが各国の消費者当局とともに提出した詳細をすべて、今後数週間で慎重に検討し、この問題についてさらに調査が必要であるかどうかを見極めます」。

カテゴリー:ネットサービス
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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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