TikTokの親会社、ByteDance(字節跳動)はこの5月に未公開株市場で1000億ドル(10兆6000億円)の会社評価を得て史上最高額のスタートアップという地位を確立した。ByteDanceの国外での大成功は中国のテクノロジー企業の羨望と賞賛の的となっている。
しかし複数の投資家筋がTechCrunchに述べたところによれば、最も価値のある事業であるTikTokを売却しなければならなくなったことにより同社の会社評価書には現在強烈な下げ圧力がかかっている。
事情に通じた投資家によれば、ByteDanceの昨年の収入は1200億人民元(1兆8000億円)で、うち 67%はTikTokの中国版「Douyin」(抖音)、人気のニュースプラットフォーム「Toutiao」(今日頭條)の広告によるものだ。Douyinのユーザーを対象としたライブストリーミングアプリからの収入が17%を占めている。残る17%は初期段階のビジネス、ゲーム、通販、Douyinの海外版TikTokなどからの収入だ。
この投資家によれば、同社では2020年の収入2000億人民元(3兆円)のうち、TikTok等の初期段階のビジネスの売上が15%を占めるという。これまでのReuters(ロイター)とBloomberg(ブルームバーグ)の報道も概ね同様の数字を上げている。
ByteDance全体の収入に対してTikTokの寄与は低いままだが、このサービスが展開できる可能性があるマーケットは非常に大きい。 投資家によれば「国外で60億人のユーザーを獲得できる可能性がある。中国国内ではDouyin、Toutiaoともに普及は飽和点に近づいている」という。
さらに重要な点としてTikTokは巨大なユーザーベースを収益化し始めたばかりだ。このアプリは指数関数的に急増中だ。パンデミックの影響で人々が家に閉じ込められたことにより今年は20億ダウンロードを記録(Senser Towerレポート)している。しかし社会生活が正常に戻れば果たして利用時間がどれほどになるのかはまだわからない。 このアプリは国外マーケットの3分の1を占めて最大だったインドを既に失っている。ただしインドにおける売上は比較的小さかったようだ。
ByteDanceコメントを求めているが今のところ回答がない。
ByteDanceに残る資産は?
創立8年になるByteDanceが直面しているのは極めて競争の激しい中国の国内市場だ。ショートビデオではTencentが支援するKuaishou(快手)は毎日3億人が利用しているという。これに対して現在のDouyinのDAU(1日あたりアクティブユーザー)は4億人(未訳記事)だ。 Toutiaoも多方面から激しい競争を仕掛けられている。 マイクロブログでは微博がベテランだし WeChatのアプリ内ニュース機能も強敵だ。
同社は次々に新しいサービスを繰り出す能力で知られており、「アプリ工場」の異名がある。これは同社が テクノロジー、特にプロダクト開発をメインとしユーザー獲得、収益化など機能別の組織構造をとっていることによるものだ。
同社の現在の目立った取り組みにはモバイルゲーム(未訳記事)がある。インターネット事業として極めて収益性の高い分野だが同時にテンセントと正面から激突することになる。 中国でブームとなりつつあるリモート教育の波(South China Mornig Post記事)に乗ってオンライン教育にも進出している。エンタープライズソフトウェアの分野では共同作業のプラットフォームとしてLarkを推進している。
しかしこうした事業はユーザー数でも収益化でもTikTok、Douyin、Toutiaoという主要事業の成功にはるかに及ばない状態だ。中国のアプリビジネスの世界展開の代表のByteDanceだが、同社が今後ともこの地位を守り抜けるの注意深く見守っていく必要がある。1つだけ確かなのは、国際展開でつまずいても、創業者兼CEOの張一鳴(Zhang Yiming) は、ByteDanceの国際展開を諦めたり規模が縮小するままに座視したりしないだろうという点だろう。
画像:NOEL CELIS/AFP / Getty Images
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)