TwitterがソーシャルポッドキャスティングアプリBreakerを買収、Twitter Spacesの開発を支援

米国時間1月4日、Twitter(ツイッター)はソーシャルブロードキャストアプリBreakerを買収したことを、ブログとツイートの両方で発表した。これによりBreakerのチームはツイッターに加わり、同サービス上に「公開される会話の健全性を改善」し、またツイッターが新たに立ち上げた音声によるネットワーキングプロジェクトであるTwitter Spacesに力を貸すことになる。Breakerアプリは、2021年1月15日に閉鎖する。

Breakerは買収を同社のブログで発表し、チームがツイッターと相性が良いと信じる理由を述べている。

「Breakerで私たちは音声によるコミュニケーションを真剣に追究してきましたが、その際、私たちはツイッターが世界中の人びとに公開会話の便宜を提供しているやり方を参考にしてきました」とBreakerのCEOであるErik Berlin(エリック・ベルリン)氏は書いている。そして「私たちはツイッターにおける起業家精神に感銘を受け、また同社のチームが作っている新しい体験を感動をもって迎えている」そうだ。

Breakerは2016年に創業され、当時のリーダーはソーシャル広告企業140 Proofの創業者でCTOだったCEOのベルリン氏と、以前にPownceとGroveを創業し、ウェブ技術のOAuthとoEmbedを共同開発したCTOのLeah Culver(リア・カルバー)氏だ。なお、その後140 ProofはAcuityが買収している。

Breakerアプリは、ポッドキャストが音声によるフィードで生産性ツールの一種と考えられていた時期にローンチした。当時、ポッドキャストを軸にコミュニティを作れることは、ほとんど見過ごされていた。Breakerはポッドキャストのそういう受け取られ方を変えようと努力し、ユーザーが「いいね」を付けたり、エピソードにユーザーがコメントを付ける機能や、友だちをフォローして新しいポッドキャストを見つけたり、好きな番組をソーシャルメディアで共有する機能などを加えてきた。

カルバー氏のツイートによると、彼女はツイッターでTwitter Spacesに専念することになる。それは音声によるソーシャルネットワーキングプロダクトで、Clubhouseのライバルだ。ツイッターのユーザーはSpacesで、これまでのようなテキストでなく、音声によるリアルタイムのチャットを行う。Spacesは、2020年12月にベータテストに入っている。そして現在は、技術的な問題やバグだけでなく、モデレーションなど、ライブのオーディオのホスティングにともなう問題に取り組んでいる。

別のツイートでは、ツイッターのEngineeringのリーダーであるMichael Montano(マイケル・モンターノ)氏が、ベルリン氏とカルバー氏、そしてBreakerのデザイナーであるEmma Lundin(エマ・ルンディン)氏が買収によりツイッターに移籍することを確認している。

彼はベルリン氏とカルバー氏の起業家精神と、カルバー氏の長年のオープンスタンダードへの貢献を賞賛している。

コメントを求めるとツイッターはモンターノ氏のツイートを指摘したが、買収の価額や今後の計画などについての詳細は得られなかった。

Breakerによると、同社は数日後にこれまで何年もかけて開発してきたアプリとサービスを閉鎖する。

2021年1月15日にBreakerは永久に閉鎖する。それまでBreakerのユーザーは、自分のOPMLファイルをエクスポートして、自分のサブスクリプションを他のポッドキャストアプリへ移すことができる。Breakerが勧めている代替アプリは、Apple、Spotify、Stitcher、Overcast、Pocket Casts、そしてCastroなどだ。Breaker上でポッドキャストをホスティングしている人は、RSSフィードでそれをどこかへ移せる。

Breakerの買収のほかにも、最近はポッドキャストのM&Aがいろいろある。しかしBreakerの場合はポッドキャストのコンテンツではなく、そのスタッフと技術が対象だ。というのもツイッターは従来から、自作のコンテンツを提供するサービスではなく、他人のコンテンツ(発言など)をまとめるだけであるため、既製のコンテンツを必要としない。

Breakerの買収は、価額の公表はないが小額の取引だろう。つまり、同社がBig Tweet(ツイッターのあだ名)にエグジットしたことは、同社としての流動性を見つける1つの方法だったとしても、しかし一般的な評価としては、ポッドキャストサービスやコンテンツのポッドキャスティングには、それほど大きな企業価値はないことが通説だ。

この買収の数週間ないし数カ月前には、ポッドキャストのコンテンツをめぐる買収案件がいくつかあった。それには、Amazon(アマゾン)によるWonderyの3億ドル(約308億9000万円)の買収(Tubefilter記事)や、SiriusによるStitcherの3億ドルの買収(The Wrap記事)などがある。そして、最近次々とコンテンツの買収を繰り返しているSpotifyもそんな動きの仲間だ。

今回のポッドキャスト買収も3億ドルだった、という話が早くもジョークとして広まっている。「3億」は一見大きな額に見えるかもしれないが、ベンチャーキャピタリストが狙うほどのエグジットではない。Breakerとツイッターの提携も、ポッドキャストに焦点を当てた企業を作ることは、それほど大きくない未来を自ら認めることだとする考え方を否定するほどのものではない。

もちろん、ベンチャーキャピタリストが2021年にはポッドキャストへの投資から手を引くと主張するつもりはないし、Breakerの買収が個人投資家は投資すべきでないという説の根拠になるわけでもない。

今回の勝者は、Breakerよりもむしろツイッターだ。音声によるソーシャルネットワークという、今後バズりそうな2021年の新しい市場に入っていくための鍵となる人材を同社は手に入れた。パンデミックで人びとが家に閉じ込められたことが、この新市場の契機かもしれない。カンファレンスもパーティーもなくなった現在、多くの人がオンラインでつながるためのもっと良い方法を探している。

しかし、オンライン中毒とモデレーションの失敗で苦戦してきたツイッターが、音声ネットワークをユーザーがチャットする安全な場所にできるだろうか。それとも、ツイッターが現在、直面している問題が増幅されるだけだろうか。そしてもう1つの心配は、新型コロナウイルスが収束して人びとが再びリアルで会えるようになったとき、Twitter Spacesのような音声によるネットワーキングに未来はあるのだろうか。

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カテゴリー:ネットサービス

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

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TechCrunch Japan

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