Wikipediaを利用している企業たちはそのことに報いているのか?

企業は情報をソースとしてのWikipediaに大きく依存しているが、それは必ずしも双方向ではない。

Wikipediaの情報を使って、陰謀論ビデオと戦おうというYouTubeの計画は各方面からの反対を巻き起こした ―― 驚くべきことにWIkimedia自身からも懸念の声は挙がった。どうやらGoogleは、今月初めにこの計画をSXSWで発表する前に、Wikimedia財団に対してこの計画について何も知らせていなかったようなのだ。あーあ。

WikimediaのエグゼクティブディレクターKatherine Maherはこれに対し、クラウドソースで作り上げられた情報は真に自由利用が可能だが、まあ、もしそれを利用する企業が少しでもお返しをしてくれるなら嬉しい、と冷静に繰り返した。

「Wikipediaのコンテンツは、誰でも自由に使えるようにライセンスされています」とMaherは書いている。「それが、どんな人でも自由な知識を分かち合えるという、私たちのミッションの一部なのです。世界中の人々がWikipediaを使い、共有し、追加し、リミックスすることを願っています。同時に、私たちは、WIkimesiaのコンテンツを使用する企業が、持続可能性の精神の下に、何らかの寄付を行うことを奨励しています」。

もちろん、GoogleがWikipediaの貢献者や編集者たちの、一連の仕事を利用したのは、今回が初めてではない。最近は、このサイトに蓄積された、一般人の編集による豊富な知識は、良くも悪くも、多くの広く使われるサービスのバックボーンになっている。特にスマートアシスタントたちによる利用が目立つ。AlexaやSiriに英国の女王は誰かと聞いてみよう。どちらもこの情報を同じ場所から引き出して来るだろう。

先週の初め、Wikimediaの歳入担当者Lisa Gruwellは、TechCrunchに対して、このような使い方は、正式な関係を通して行われているものではないと語った。ほとんどの企業は、多かれ少なかれAPIにアクセスして、その幅広い知識を活用している。もちろんそれは手軽で、Wikimediaのフェアユースルールの中では何の問題もない。しかしMaherの発言と同様に、歳入担当者も一方的な関係にある種の懸念を表明した。

「私たちのコンテンツは利用されるために存在しています」とGruwell。「それは自由にライセンスされていますが、目的をもって自由にライセンスされているのです。同時に、それは環境のようなものです。それは使われるためのものですが、搾取(exploited)されるためのものではありません。私たちは、コンテンツを使って何らかの返礼を行ってくれる人たちを、本当に必要としています、それが私たちが奨励しているものです。一部の人だけにアクセスを許す有料の壁はありません。私たちはデータに対しては請求を行いません。もし余裕があるならば、私たちは寄付をお願いします、しかし、もし余裕がなくても、変らず利用することができます。それは私たちが読者に皆さまと結んでいる社会的契約のようなものです」。

もちろん「搾取」(Exploitation)というのは、Wikipediaのようなものの性格を考えると難しい表現である。NPR(National Public Radio:公共ラジオ局)やPBS(Public Broadcasting Service:公共放送サービス)のように、誰に対しても自由に提供されるサービスだが、Wikipediaは存続するために慈善寄付に依存している。スマートアシスタントたちは確かにその情報ベースを活用するという点では、適用されるルールに従っているが、その現在の使われ方では最終的にWIkipediaへ及ぼす影響は限定的なものとなる。

主に音声を利用するAlexaの様なものの場合、Wikipediaが引用されているとしても、元となる情報素材への直接の関係はない。つまり、ユーザーは元になるソース(WikipediaのDNAである重要な部分)を直接見ることはできない。また、Wikimediaからの寄付情報も前面にも中心にも出ることはない。

「まるで『ロラックスおじさんの秘密の種』(Dr. Seuss’ The Lorax)のようだと言いたいわけではありませんが」とGruwell。「もし何かを使いすぎて、それに対して何も返さないなら、害をなすこともあるでしょう。AlexaとSiriの場合、私たちのコンテンツは仲介されているわけです。Wikipediaが上手くいくのは、みなさんがそれに貢献することができ、それを編集することができるからです。そして私たちがお願いするのは年に一度ですが、みなさんは寄付を行うこともできます。みなさんが、私たちの持つ情報を、私たちからではなくSiriやAlexaのようなものを通して得ているときには、編集者として何かを返す機会は失われていますし、活動に貢献したり、寄付したりという機会も失われているのです」。

財団に対する支援の大半は、平均10ドルを支出する600万人のユーザーから寄せられたものである。Gruwellによれば、企業からの支援 (各種財団からのものを除く)は、同財団に対する寄付金の約4%を占めている。もちろん、匿名の巨額資金提供者の一部が、これらの企業と直接関係している可能性もあるが、企業からの寄付のリストには少々驚かされる。

2017-2018会計年度の数字は次の通りである:

  1. Google(100万ドル以上)
  2. Humble Bundle (45万6000ドル)
  3. Craigslist財団(25万ドル)
  4. Cards Against Humanity (3万5000ドル)

Gruwellによれば、最近のYouTubeを巡る騒ぎにもかかわらず「大手の大手インターネット企業上位5社のうち、Googleとの関係は遥かに良いものです。彼らが私たちの組織に貢献している点と、一般的に私たちと協力するやり方の両方で。多くの場合に、彼らは私たちに接触し、私たちと協力していると言うことができます。私たちは彼らとパートナーシップを結んでいます。私はそれは他のものと比べて、確かに良い関係だと思っています」。

他の大きな企業も、マッチングドネーション(集まった寄付金に企業が上乗せして寄付を行うこと)を使って貢献している。Apple、Facebook、Microsoft、そして(ここでも)Googleはそれぞれ、従業員からの寄付に上乗せする形でおよそ5万ドルを寄付している。一方、Amazonはそのリスト上のどこにも見つからない。

政界のあらゆる団体が互いに「偽のニュース」を叫んでいるこの時代に、情報源の引用と事実の確認はますます重要になっている。最も注目されているトピックであっても中立性を維持しようとしているため、その両者(引用と確認)は長い間、Wikipediaの基本的な特性だった。

「インターネット上のあらゆるプラットフォームと同様に、私たちは懸念していますし、時には悪い連中と向き合うことになるかも知れません」とGruwellは言う。「そうした懸念は事実です。私たちは、悪意ある貢献を検出するための機械学習ツールといったツールを構築しようとする過程で、多くのことに対処しました。私たちのコミュニティでは、そうしたツールが特定のページを見張っています」。

スマートアシスタントとして、YouTubeなどはますます日々の生活の一部となっている。そしてWikimediaがその中で果す役割はますます重要になっているのだ。そして「寄付のなる木」は存在しないことに留意したい。

[ 原文へ ]
(翻訳:Sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。