Y Combinatorの2019年冬のDemo Day初日の有望スタートアップ10社

電気自動車の充電スタンド、兵士のためのヘッドアップディスプレイ、マリファナのコストコなど、一流アクセラレーターY Combinator(YC)の2019年冬のデモデーに登場したスタートアップには、TechCrunch好みの企業がいくつもあった。シリコンバレーの波動を感じたければ、YCこそまさにその場所だ。しかし、2日間にわたり2箇所で開かれた「Demo Day」(スタートアップが投資家にプレゼンを行うイベント)には200社を超えるスタートアップが登場し、そのすべてを把握するのは困難を極める。

興味のある方は、デモデー初日に登場した85社を超える企業の紹介記事を読み、完全な索引を見て2日目からピックアップした企業の記事を読まれるのがいいだろうが、ここではデモデー初日の半分から選んだ10社を紹介したい。私たちが選んだ理由も書き添える。

Ravn

戦場では、建物の角から顔を出すときが、兵士にとってもっとも危険な瞬間となる。Ravnは、兵士や警察官が、角を曲がった先の様子を確認できるヘッドアップディスプレイを作っている。銃やドローンや、周囲のカメラの映像を利用する。遮蔽物に身を隠したままで敵を見ることができれば安全だ。Ravnはすでに、米海軍と空軍との間で49万ドル(約5468万円)の契約を交わしている。海軍の特殊部隊Seals出身のCEOは、コンピューター科学を学び、拡張現実の専門家となり、国防省に売り込みをかけた。Ravnは、今後かならず必要になるであろう歩兵用のヘッドアップディスプレイを供給できる。

Ravnを選んだ理由:戦場はかならずAR化される。しかし、MicrosoftのHoloLensチームは、現在、弾倉にあと何発弾が残っているか、仲間はどこにいるかといった戦闘中の情報提供に重点を置いている。Ravnの技術は、そうした撃ち合いの惨状を体験してきた人間が開発した。彼は、兵士が危険な状態に陥る前に戦闘を回避する、あるいは勝利することを目指した。同社には、米政府にハイテク機器を売り込む専門家がいる。

Middesk

仕事のパートナーが税金を払っているか、破産宣告していないか、または訴訟に捲き込まれていないかを知るのは難しい。こうした事故による回収不能になった不良負債は、年間1200億ドル(約13兆3900億円)にのぼる。Middeskは、事業の優良不良を識別し、企業間取引、融資、投資、買収などの信頼性を高める適正評価を行っている。顧客が安心して資金を出せるよう、Middeskは、広範にわたる取り引きに介入する。

Middeskを選んだ理由:同社は、実質的にあらゆる取り引きに関与できるビジネス界の弁護士として信頼を高めている。情報が多いほど、愚かな決断は減らせる。Middeskは、疑わしい取り引き相手を信じてしまわないよう、予防してくれる」から。

Convictional

消費者に製品を直接販売している業者が、より簡単に大手小売り業者と取り引きできるようにする企業。通常、製品を提供する側が小売業者との関係を築き、製品を売ってもらえるようになるまでには長い時間がかかるが、Convictionalは、企業間のセルフサービス商取引プラットフォームで、この時間を短縮する。これを使えば、小売業者は簡単にメーカーとつながり、発注できるようになる。

Convictionalを選んだ理由:スーツケースからひげ剃りにいたるまで、あらゆるものが直販されるようになったが、製品の露出度や販売規模を拡大するためには、こうした商業分野から追い出されないように頑張っている小売り業者とつながる必要がある。仲介者であるConvictionalは、高収益が見込める立場にあると同時に、貴重な購買データの宝庫にもなり得る。

Dyneti Technologies

詐欺を50パーセント以上予防し、コンバージョンを5パーセントまで高められるクレジットカードのスキャナーSDKを開発。同社は、Uberの元従業員2人によって設立。そのうちの一人は、Account SecurityとUberEATSで詐欺の分析部門を立ち上げたCEOのJulia Zheng氏だ。Dynetiのサービスは深層学習に支えられており、あらゆるカード方式に対応する。設立からわずか2カ月で、RappiやGametimeなどの企業と契約を交わしている。

Dynetiを選んだ理由:サイバーセキュリティー上の脅威は増す一方だが、その対策が未熟な企業も、電子商取引に乗り出したいと躍起になっている。Dynetiは、Stripeのような基本的な企業間事業のひとつだ。複雑な問題を単純化して信頼をもたらす能力があるため、企業は自社の製品に集中できる。

AmpUp

「電気自動車充電器のAirbnb」と呼ばれるampUpは、大多数の人が電気自動車に乗る世界に向けて準備を進めている。スマホアプリで、無数にある充電スタンドとドライバーをネットワークで結んでくれる。このアプリを使うと、電気自動車の運転車は、最寄りで自分の車に適合する充電スタンドを素早く知ることができる。また、充電器のオーナーは、自分で決めた価格で料金を徴収し、自分のスケジュールで運営ができる。このサービスは現在、サンフランシスコ湾含地区で展開されている。

ampUpを選んだ理由:時代は電気自動車に向かっているが、確実に充電できるか否かの不安が、電気自動車の購買意欲を削いでいる。大規模な充電スタンドのネットワークを自社で構築したところで、ガソリンスタンド網には到底及ばない。そこでampUpは、充電器で収入を得たいと考える人なら誰もが、自分の土地に充電器を置けるようにした。

Flockjay

Flockjayは、オンライン営業学校だ。仕事を探している人なら、ハイテク産業での営業の実績が少なくても、専門の教育をほとんど受けていなくても受講できる。12週間のブートキャンプで訓練や指導を行う。同社は、17名の生徒とともにこのサービスを開始し、全員がすでに企業の面接を受け、40パーセントがハイテク産業での新しい仕事の内定をもらっている。

Flockjayを選んだ理由:プログラミングのブートキャンプの場合は参加条件が非常に厳しいが、優秀な営業マンはやる気のある人間を見習えばなれる。経験や教育が乏しい人たちは、一般に当たり前とされている機会を手に入れるために、自分を上手に売り込む方法をすでによく知っている。Flockjayは、職の確保が大変に難しい人たちに、エコノミック・モビリティ(所得階層の上位移動)をもたらす可能性がある。

Deel

世界には、米国企業と契約している業者が200万件あるが、彼らとしっかり取り込み管理するのは難しい。Deelは、契約、支払い、税金に関する業務をひとつのインターフェイスにまとめ、書類仕事と時間の無駄を削減する。使用料は月間10ドル。支払い1件あたり1パーセントの手数料も徴収する。これにより、契約業者1社につき年間平均560ドルの収益が得られる。

Deelを選んだ理由:遠隔勤務が奇異な目で見られなくなったことで、アメリカの産業には、海外での新しい人材確保の機会がもたらされた。しかし、遠く離れた国の人員を適切に管理できなければ、せっかく安い労働力を確保してもコスト削減にはつながらない。グローバリゼーションの流れは今後も続くため、企業にはよりよい人材管理ツールが必要となる。

Glide

以前から、トレンドはウェブページやモバイルアプリを簡単に作れるサービスに大きな関心が集まり、流れはそちらに向かっていた。Glideは、Googleスプレッドシートを使うことで、顧客が簡単に本格的なモバイルアプリを作れるようにする。ページが簡単に作れるだけでなく、サイトの情報を常に最新に保つ方法も単純化している。

Glideを選んだ理由:デスクトップ・ウェブサイト製作の市場は熾烈を極める。プログラミングができない人には、モバイルサイトの開発も容易ではない。視覚化されたレイアウトツールもまだ馴染みが薄いので、Glidesは、誰もが使ったことがあるスプレッドシートで作ることを考えた。このところ、どのブランドもインフルエンサーも、ウェブページから親密性が失われつつある。そのためGlideでは、第一に親近感があり個性的になるよう、アプリを仕立てる手助けをしてくれる。

Docucharm

Uberの元プロダクト・マネージャーMinh Tri Pham氏が共同創設者に加わったプラットフォームだ。書類をコンピューターに理解できる構造化データに変換して、書類の処理とワークフローを正確に自動化し、人間によるデータの打ち込みの必要を排除する。DocucharmのAPIは、たとえば給与明細など、いろいろなフォーマットの書類を認識でき、間違いなく必要な情報を抽出できる。顧客には確定申告代行業のTributiや貸金業者のAspireなどがある。

Docucharmを選んだ理由:高い技術を持つ高給の社員にデータの打ち込みをさせるのは無駄なことだ。Docucharmのような光学文字認識は、データ抽出を元に新しいビジネスの世界を切り拓く。このスタートアップには、その業界全体を支えるAI基盤になる可能性がある。

Flower Co

マリファナを安価に販売し配達する会員制のショップ。たいていの医療機関は、高価な製品と手厚い世話を求める金持ちや初心者の需要に応えている。それとは対照的にFlower Coは、低価格のマリファナを大量に求める昔からの愛好家の需要に応えるものだ。現在同社は700名の会員に月間20万ドル(約2200万円)のマリファナを売り上げている。会員料金は年100ドル。販売ごとに10パーセントの手数料を徴収する。

Flower Coを選んだ理由:マリファナは次なるゴールドラッシュだ。1世代に1回だけの土地の奪い合いとなる。しかし、大多数がずっと前から大勢の友だちと安いマリファナを楽しんできた愛飲家たちであるにも関わらず、ほとんどのマリファナ販売業者は、非常に目の肥えた高級な客に焦点を合わせている。マリファナの吸引をライフスタイルにしたい人たちは、今後大量に増えると思われるが、Flower Coは、そんな人たちの御用達業者になれる。

【編集部注】米国では過半数の州で医療用大麻が合法化されているほか、10州ほどで嗜好品としても合法化されているが、日本では大麻取締法で規制されている違法薬物だ。

その他の注目企業

Atomic Alchemy:核医学の不足を埋める。
Yourchoice:あらゆる性を対象としたホルモンを使わない妊娠調整。
Prometheus :二酸化炭素をガソリンに変える。
Lumos:意志のための医療用検索エンジン。
Heart Aerospace:短距離電動飛行機。
Boundary Layer Technologies:超高速なコンテナ輸送。

Y Conbinator 2019年冬のデモデー初日に登場した85を超えるスタートアップ紹介(本文は英語)

追加取材:Kate Clark、Greg Kumparak、Lucas Matney

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。