Y CombinatorのW20デモデーに参加したスタートアップ(ヘルスケア、バイオテック、フィンテック、非営利団体)

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に対する懸念が高まる中、Y Combinator(Yコンビネーター)はこれまで慣れ親しんできた2日間にわたる米国サンフランシスコでの会合からイベントの開催方式を切り替え、デモデーのウェブサイトを通じて、招待された投資家とメディアにクラス全体を同時公開する方法で開催することを決定した。

さらに驚きなのが、投資家の動きが加速してきた事実を受け、YCがデモデー開催日を1週間前倒しにしたことだ。このため、デモデーのウェブサイトに録画したプレゼンを掲載するというプランは変更せざるをえなくなり、各事業は代わりにスライドに事業概要、今後の見通し、チームの経歴などの説明をまとめてプレゼンを行った。急速に進化する投資環境と相まって、この新たなスタイルがこのクラスにどのように影響するかは今のところはわからない。

プレゼンやウェブサイトのほか、場合によっては以前の記事から収集した情報をもとに、我々が集めたそれぞれのクラスの各事業のメモをまとめてみた。

読みやすさを優先し、全事業をすべて羅列するのではなくカテゴリー別にまとめている。今回はヘルスケア、バイオテック、フィンテック、非営利団体だ。ほかのカテゴリー(B2B、コンシューマー、ロボティクスなど)に関してはこちらから読むことができる。

ヘルスケアとバイオテック

Simple Strips
専用の血糖値計を必要とせず、スマートフォンのカメラで読み取り可能なストリップを開発し、グルコース検査を安価により多くの人に提供することを目指している。同社は6月にこのストリップのFDAの認可申請を行う予定とのこと。

nplex biosciences
新薬開発に必要なタンパク質パネルの評価を迅速、安価に実施する方法を提供。大手製薬会社を含め400万ドル(約4万3千円)以上の基本合意書が予定されている。

Healthlane
アフリカのユーザー向けに医師とのコミュニケーション、予約、検査結果の追跡を支援するアプリ。すでに採算が取れており、顧客定着率は98%とのこと。

Breathe Well-being
インドの慢性疾患(糖尿病など)のあるユーザー向けに減量をサポートする16週間のプログラム。同社は体重、食事、活動などを記録し、認知行動療法でストレス軽減の指導を行う糖尿病の個人指導を提供する。現在のMRR(月間定額収益)は1万1200ドル(約120万円)。

Dropprint Genomics
個々の細胞活動の解析時間とコストを削減できる「シングルセルゲノミクス」ソフトウェアで創薬を支援。同社は2か月で100万ドル(約1億840万円)以上の基本合意書を締結した。

Newman’s
インドネシアの男性向けデジタル診療所。同社は恥ずかしく感じる悩み(毛髪の悩み、勃起不全)や途中で放棄されることが多い問題(禁煙)に特化し、遠隔受診を通じてより容易、安価、内密に診断を受けることを可能にする。Newman’sについて以前書かれた記事はこちら

Menten AI
同社は「量子コンピューティングと機械学習」を合成生物学と組み合せて新しいタンパク質性製剤を開発しているという。

Loop Health
Loop Healthによるとインドの健康保険の大半が「入院のみカバー、通院は適用外」である。同社は専用の「Loop Healthクリニック」への無制限のアクセスとアプリを利用した遠隔医療を提供し、この状況の改善を目指している。

Synapsica Healthcare
「AIレポート作成アシスタント」。現在脊椎MRIに注力している同社では、測定の注釈と椎間板変性症の所見を自動的に行うことで放射線医師のレポート作成時間の80%を削減する。同社によれば現在10万ドル(約1083万円)を投資した放射線医学でのパイロットプログラムは250のカイロプラクティック・クリニックに選ばれているとのこと。

Volumetric
Volumetricは血管新生化されたヒト組織を作成する3Dバイオプリンターを製造している。2人の博士により創設された同社は製薬会社や科学者向けに感光性組織を販売している。同社は機能性組織、さらには臓器まで生成できるバイオプリンターとバイオインクの製造に資金を投じている。Volumetricについて以前書かれた記事はこちら

Ophelia
Opheliaは米国の300万人のオピオイド依存症患者に遠隔医療でリハビリの代替治療を提供している。同システムでは、患者は遠隔医療で受診し、発行された処方箋でブプレノルフィン/ナロキソンなどの治療薬を配達してもらい、偏見にさらされることなく治療を受けられる。創設者は長年のガールフレンドがオピオイド依存症で亡くなった後、同社を立ち上げた。Opheliaはこれまでに40人の患者の治療に当たってきた。

Lilia
「将来、女性は卒業記念に卵子凍結するだろう」と主張するLiliaは、卵子凍結保存コンシェルジェ・サービスだ。このスタートアップ企業はコンシェルジュサービスに500ドル(約5万4千円)、クリニックでの体外受精時にさらに500ドル(約5万4千円)の支払いを受ける。Liliaによれば総市場規模は330億ドル(約3兆5760億円)だという。

Equator Therapeutics
同社はエクササイズをすることなくカロリー燃焼を手助けする薬品を開発している。アンチエイジング薬品を開発する企業での経歴を持つ2人の博士とデータサイエンティストによって創設されたEquator Therapeuticsは、肥満と2型糖尿病の人々をターゲットにしている。

Altay Therapeutics
サンフランシスコのBayer Collaborator内にあるAltay Therapeuticsは、病気を引き起こすDNA結合タンパク質(転写調節因子)をブロックする小分子療法を開発した。同社の初回治療は関節炎、線維症、潰瘍性大腸炎、肝癌に焦点を合わせている。

Tambua Health
Tambua Healthは「耳で聞く」聴診器と高度なイメージングが可能な独自のソフトウェアを使って、X線を照射することなく肺を画像化する。

Abalone Bio
ライフサイエンス領域のシリアルアントレプレナーによって創設されたAbalone Bioは、数十億の抗体バリアントを発現する酵母細胞のライブラリを使って、薬品の対象を活性化したり阻害できる特定の抗体を生成している。遺伝子配列、機械学習、合成生物学を活用して抗体の組み換えタンパク質を作成し、その有効性をヒト細胞アッセイで確認している。同社は痛み、炎症性疾患、希少癌、希少腎臓病の治療薬を皮切りとしてターゲットにしている。

Felix Biotechnology
イェール大学の著名な研究者であるPaul Turner氏によって創設されたFelix Biotechnologiesは、抗生物質の効かないバクテリアと菌類に対する治療法を開発している。同社によると、これらの病原体は米国だけで毎年280万件の感染症例と3万5000件の死亡例を引き起こしている。平均すれば、米国で15分に1人が抗生物質抵抗性の感染症により死亡していることになる。2050年までに抗生物質抵抗性による死亡者は癌による死亡者を上回るとの警告が、すでに研究者から出されている。

Genecis Bioindustries
同社は食品廃棄物を生分解性プラスチックに変えている。Genecisについて以前書かれた記事はこちら

Candid Health
Candid Healthは保険会社への手続きを行い拒絶された申請に自動的に不服申し立てを行う、ヘルスケア業界向けの自動請求ソフトウェアを開発した。同社は支払いの5%を徴収する。

Ochre Bio
Ochreによれば臓器提供された肝臓はその数が不足しているにも関わらず多くが廃棄されているらしい。脂肪が多すぎて移植が成功しないためだ。同社は移植の前に処置を施す方法を見つけることで「肝臓を体外で若返らせる」ことを目指している。

フィンテック

Facio
ブラジルの銀行は問題を抱えている。五大銀行が市場を寡占しており、手続きは遅くカスタマーサービスは最悪で、実質金利は高く中小企業は相手にしない。Facioは負債の餌食になることから労働者を守り、従業員向けの低金利の短期ローンで経済的自由を提供することを目指している。これは雇用者と一体になって給与から直接ローン返済額を天引きする仕組みだ。

delt.ai
Delt.aiはサービスを受けにくいメキシコの中小企業とフリーランス向けに支払い、請求、コーポレートカードを取り扱うデジタル銀行だ。このスタートアップはラテンアメリカの500憶ドル(約5兆4190億円)を上回る企業預金市場をターゲットにしている。Delt.aiはラテンアメリカをターゲットにしたBrexやMercuryだ。

Nexu
ラテンアメリカのほかの多くのパーソナルファイナンス業務と同様に、自動車金融は割高でローテクな、気の遠くなる手続きだ。ラテンアメリカの自動車販売代理店向けファイナンス・プラットフォームであるNexuは、動的な信用評価を使って自動車購入者にわずか数秒でローンの承認を与える。創設者チームの出会いは、ウォートン校のMBA在学中だった。

Fondeadora
Fondeadoraは飽和状態のメキシコのフィンテックシーンに、従来の銀行に代わるネオバンクデビットカードで参入する。同社はアプリで取引ができる完全モバイルのデジタル預金口座を提供する。同社には6万5000人のユーザーと650万ドル(約7億450万円)の月間取引がある。メキシコのもう一つのデビットカードであるAlboは、現在、プラットフォーム上で取引を行う月間20万人のアクティブカスタマーのシェアを持ち、2600万ドル(約28億1780万円)の資金を調達している。メキシコの銀行は、複数のスタートアップを大成させるのに十分な問題を抱えている。メキシコの人口1憶3000万人の45%は銀行口座を持たない。つまり借入と貯蓄により資産を形成するための金融商品を持たないのだ。

Jenfi
アジアの小規模事業に収益に応じて通常1万ドル~10万ドル(約108万円〜約1080万円)の資金を貸し出している。Jenfiに関しては以前にもこの記事で伝えている。

yBANQ
インドの大規模B2B企業向け代金回収・会計調整システム。同社によれば1月下旬の立ち上げからすでに18社の顧客を獲得し、流通取引総額は約1万8000ドル(約195万円)に達している。

ZeFi
米ドルによる預金と「ステーブルコイン」暗号通貨を内部的に換金する預金口座。ZeFiが換金された資金を貸し付けて利息を得る仕組みだ。

Grain
Grainは既存のデビットカードを「責任のある」クレジット金額(現在は収入やキャッシュフローに応じて上限500ドル(約5万4千円))に結びつける。長期間にわたって信用情報の信用評価が最小あるいは不良になっている人の援助になることを目指している。同社によれば立ち上げから3か月で1000人の顧客と契約し、顧客当たり年間約80ドル(約8600円)の収入が想定されている。

CrowdForce
アフリカで地域の商店主を銀行の支店として活用し、銀行が遠距離にしかない場合に取引の仲介を行う。同社によれば先月の純収益は7万ドル(約760万円)で、顧客当たり年間平均20ドル(約2170円)ほどの収益がある。

Stark Bank
ブラジルのテクノロジー企業向けのB2B取引を取り扱うバンキングAPI。同社は立ち上げから1年あまりで1200万ドル(約13億円)の月間総取引額を見越している。

Bamboo
世界中の有価証券を購入するアフリカの富裕層向けのオンライン仲買業務。同社によればおよそ5か月前の立ち上げからすでに2100人を超える投資家を集め160万ドル(約1億7340万円)以上の取引がプラットフォーム上で行われているという。現在の月間収益は1万ドル(約108万円)を超える。

Swipe
「アフリカのBrex」を自称するSwipeは、アフリカの中小企業に給与と支出をカバーするクレジットカードを提供している。無料の経費・請求ツールを提供することからビジネスを始め、次いでクレジットカードを提供した。現在顧客は30社、発行したクレジットカードで2万ドル(約216万円)の取引が行われている。

goDutch
ルームメイトなど、請求書をシェアしているグループ内で費用を分割できる支払いカードだ。インドに注力している。代金は1枚のカードに課金され、それぞれのグループメンバーの口座から自動で引き落としが行われる。

Paymobil
Venmo式のアプリで暗号通貨のステーブルコインを使って世界中に送金するシステム。創設者のDaniel Nordh氏はCoinbaseでカスタマーデザインを率いた経歴を持つ。

Karat
Karatは銀行業務、ローン、クレジットカードをインフルエンサーに提供している。同社は彼らの人気度のデータをリスク管理に活用して、ローンの実質金利40%を達成し、平均返済期間は45日だ。創設者のInstagramでのインフルエンサー・ツール構築とゴールドマン・サックスでの債務の構成の経験により、すでに1000万を超えるフォロワーを持つスターたちと契約を結んでいる。

Homestead
Homesteadは自宅を所有する人向けに初期費用なしでガレージの賃貸物件への転用をサポートする。工事、入居者捜し、管理の費用はHomesteadが負担し、賃貸収入を所有者と分配する。カリフォルニア州の新しい法律では、州内の800万のガレージを居住スペースとして賃貸できるようになり、巨大な市場機会が生まれている。Homesteadの創設者たちはマサチューセッツ工科大学の建設・都市計画大学院で出会った。すでに100万ドル(約1億840万円)の売り上げを上げてげているスタートアップである。

Benepass
Benepassはスタートアップと小規模企業向けに福利厚生カードを提供している。従業員はBenepassデビットカードで支払いをすると税制優遇と、医療費支出口座、子育て、通勤、フィットネスや教育などの福利厚生特典を受けられる。購買履歴はアプリに記録される。雇用者には無料で提供されているがBenepassのテイクレートは6%だ。それでも何千ドルもの所得税と給与税を節税できる。優秀な人材の獲得をめぐって大手のテクノロジー企業と競っているスタートアップには、Benepassで従業員に大きなサポートを実感させることができる。

GAS POS
米国のガソリンスタンドオーナーは、コンピューターチップを搭載したクレジットカードの国際標準であるEMVテクノロジーを採用し、給油ポンプのアップグレードを競っている。GAS POSは北米の18万のガソリンスタンドがEMVを導入してセキュアな取引を行うための最新のPOSシステムを提供するために創設された。同社にはいくつかの収益源があり、支払い処理金額の3%の手数料、機器購入者への無料のSaaS、顧客に提供される翌日資金調達サービスがある。

YearEnd
YearEndは数字の上ではリッチな人向けの税務ソフトウェアを開発し、顧客の株式を最適化してスタートアップの従業員の税務申告を支援している。 このスタートアップは個人ユーザーに年間330ドル(約3万6千円)を課金し、YearEndを従業員手当として導入したい企業に売り込んでいる。

GIGI Benefits
インドのGIGI Benefitsは同国のギグエコノミーワーカー向けの福利厚生プロバイダーを目指している。この事業は昨年最もホットなY CombinatorスタートアップのCatch、ベンチャーキャピタルの支援を受けたTrupoなどの事業を手本に、健康保険や退職資金口座などをギグエコノミーワーカーに提供している。

Easyplan
Easyplanはインド版のQapitalやDigitとして、ユーザーが具体的な目標に向けてシームレスに貯蓄を行えるようにしている。

Haven
Havenは住宅ローンサービスの次世代プラットフォームだ。最新のカスタマーインターフェース、貸し手向けのより優れた払いモデルなどを提供している。

WorkPay
WorkPayは「アフリカのGusto」を名乗る、当地の中小企業をターゲットとした次世代型の給与・関連サービスだ。

Spenny
Spennyはインドの消費者向け貯蓄ツールで、購入額の端数を切り上げて貯蓄に回すことで顧客は貯蓄を始めることができる。

Kosh
Koshはアルゴリズムで強化されたインド向け貯蓄・投資プラットフォームで、良好な信用評価を持つ人が評価の低い友人を実質的に保証することで借り入れを支援するシステムだ。

非営利団体

Potential
Potentialは服役した過去のある人を仕事や生活資源に結びつけたいと願う非営利団体だ。同社は拘置所と雇用団体と連携し、より人に優しい雇用環境を作ろうとしている。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。