垂直型農場と聞けば、空に向かって伸びているさまを思い浮かべるのが一般的だろう。例えばAerofarms(エアロファームズ)、Plenty(プランティー)、Gotham Greens(ゴッサムグリーンズ)などの企業は、高層のプラントに栽培装置を満載して農業に革命を起こそうとしている。しかし、ある人物は地下に着目しているようだ。その人物とはPhilippe Labrie(フィリップ・ラブリー)氏。2019年に設立されたプレシード(シード以前のステージ)の地下農業スタートアップ、GreenForges(グリーンフォージズ)のCEOかつ創業者である同氏は、垂直型農場技術を地下に導入することを考えている。同氏もキャリアの初期には、屋上の温室で農業の可能性を求めて空を見ていたが、空には限界があることに気がついたという。
ラブリー氏は次のように話す。「都市部の屋上温室にはどのくらいの食料生産能力があるか、という分析を行っている論文を偶然見つけました」「2050年で2~5%、という低めの数字でした。誰も『地下で栽培できないか?』とは考えなかったようです」。
空間を利用した事業である農業には常に制約があった。農耕が始まったとされる1万2000年前、人々は森を切り開いて農地にしていた。この自然破壊的なプロセスは現在も続いている。農家がより多くの食物を育て、より多くの利益を得るためには、さらに多くの土地が必要である。従来の垂直型農場は、都市部にプラントを設置し、栽培装置を積み重ねることでこの農地転用という問題を解決しようとするものだ。しかし、それでもプラントの用地という問題が残る。そこでGreenForgesは、私たちの足元にある、使われていないスペース(地下)を利用しようとしている。
2年間の研究開発を経て、同社は農業技術のインキュベーター、Zone Agtech(ゾーンアグテック)と共同で、2022年春にモントリオール北部で最初の試験的な地下農場システムを稼働させることを計画している。GreenForgesの農業システムは、LED照明のコントロール、水耕栽培(土を使わない栽培)、湿度と温度の管理など、既存の屋内農業の管理技術の他にも、斬新なアプローチを採用している。
GreenForgesのシステムでは、大きなプラントを利用するのではなく、新たに建造される建物の下の地面に直径1メートルの穴を開け、そこに栽培装置を降ろす。メンテナンスや収穫の際は、それを機械で地表に引き上げ、人が修理や収穫を行う。今回の試験的なプログラムでは地下15メートルのシステムを利用するが、地下30メートルまでの農場システムを計画済みだ。
ラブリー氏によると、垂直型農場を地上から地下に移すことには多くの利点があるが、その中には、環境制御型農業が直面する最大の障害であるエネルギーコストを解決できるものもあるという。
「暑さ、寒さ、降雨、乾燥など、外の気候の変化に合わせて空調システムを常に稼働させなければならないことが、垂直型農場にとって最大のエネルギー負荷となっています。室内の環境を安定させるために、空調システムが必要なのです」とラブリー氏は話す。
このエネルギーコストという問題により、垂直型農場は従来の農法と比較して、二酸化炭素排出量と金額の両面で高くつく場合もあり、これが、多くの垂直型農場が葉物野菜のみを栽培している理由の1つだ。つまり、他の作物の栽培はエネルギーコストがかかり過ぎて割に合わないのである。しかし地下に潜ると「天気が変化しても室内で安定した環境を維持しなければならない」という課題が一気に解決される。
GreenForgesのエンジニアリングマネージャーであるJamil Madanat(ジャミル・マダナト)氏は次のように話す。「地下に潜った途端に季節に関係なく栽培できるようになります」「地下こそ が省エネの聖地です」。
マダナト氏によると、世界中どこでも、いつでもどんな環境でも、地下は温度が安定しているという。地上の温度変化に関係なく、マレーシアでは深度10メートルで温度は安定して20℃になり、カナダでは深度5メートルで温度は安定して10℃になる。
「電気やエネルギーの供給に関しては、条件が安定していれば経済的にもメリットがあります」とマダナト氏。「一度に大量のエネルギーを消費し、それをいきなり停止するのは電力網にとって良くありません。安定的な需要(供給)のほうが電力網にとっても好ましいのです」。
地下施設は外気温が安定していて、その結果エネルギーの需要も安定すれば、大規模な省エネと持続可能性につながるだろう。GreenForgesでは、植物の半分には昼間、残りの半分には夜間に照明を当てることで、照明にかかるエネルギーが常に同じになるようにして、さらなる安定化を実現している。
さらに、GreenForgesは、化石燃料の燃焼による環境への二酸化炭素排出を増やさないために、エネルギーのほとんどが太陽光や水力などの再生可能エネルギーで賄われている地域のみをターゲットにしている。
「単に、何かを燃やして屋内で食べ物を育てるのは理にかなっていないからです」とラブリー氏。
GreenForgesは、地下システムでは従来の垂直型農場に比べてエネルギー効率が30~40%向上する、と予測している。現在、同社は葉物野菜、ハーブ、ベリー類などの伝統的な屋内作物だけを扱っている。同社の計画では、地下30メートルの農場ではレタスを毎月約2400個、年間では約6400kg生産できる。しかしラブリー氏は、GreenForgesの効率が上がれば、将来的には他の野菜や作物、それも小麦のように代用肉になるような作物にも対応できるようになるだろうと期待している。
地下での栽培に障害がないわけではない。マダナト氏によると、トラックのタイヤ2本分しかないトンネルに収まる栽培装置の設計が課題だという。このような小さなスペースにシステムを収めるためには、独自のハードウェアソリューションを開発する必要がある。また、地下の湿気との戦いも残っている。垂直型農場の先駆者であるPlentyやAerofarmsとは異なり、GreenForgesは食料品ブランドになることを望んでいない。その代わりに、高層ホテルやマンションの建設業者にアピールし、宿泊客や入居者に新鮮な野菜を提供することで、新たな収益源を生み出すことにフォーカスを当てている。
「建築物に組み込むことで、多くの可能性が見えてきました。ホテル会社や不動産開発会社にも関心を寄せてもらっています」とラブリー氏は話す。「建物の中に食料生産システムを組み込むことは、見た目ほど簡単ではありません。平米単価が非常に高い商業施設やマンションのスペースが犠牲になるからです。私たちのソリューションを利用すれば、地下の空間を収益化することが可能です」。
画像クレジット:GreenForges
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(文:Jesse Klein、翻訳:Dragonfly)